地域に根ざす自動走行ロボットの挑戦 vol.1【パナソニックホールディングス株式会社 東島 勝義】
「ロボットと共に歩む地域社会づくり研究会」では、人とロボットが共生し、地域課題の解決に向けた取り組みについてフォーカスしています。
初回のインタビューとして、パナソニック ホールディングス株式会社(以下、パナソニックHD)でRaaS事業戦略担当部長 (兼)X-Area事業推進プロジェクトCEOを務める東島様にインタビューしました。
<プロフィール>
■パナソニックホールディングス株式会社
モビリティ事業戦略室 RaaS事業戦略担当部長
(兼)X-Area事業推進プロジェクトCEO 東島 勝義 氏
1992年に松下電器産業株式会社(現パナソニック ホールディングス)入社。半導体開発部門にて、動画像コーデックLSIの開発に従事しFOMA初のテレビ電話を実現。2011年より、本社R&D部門にて、スマート家電・スマートハウス開発戦略企画、AI研究・開発戦略企画を経て、車載向けAIセンシング技術開発などを担当。2017年4月より現職。AIを活用したモビリティソリューションの開発を担当。
一般社団法人ロボットデリバリー協会理事も務める。
はじめに
パナソニックHDは、自動搬送ロボット「ハコボ」を開発。2020年11月より、神奈川県藤沢市のFujisawaサスティナブル・スマートタウン(以下、Fujisawa SST)において、住宅向け配送サービスの実証実験を開始。
開始当初はロボット1台からスタートし、2022年4月には、遠隔監視・操作者1名でロボット4台のフルリモート型運用を実現しています。Fujisawa SSTを皮切りに、様々な地域で「ハコボ」の運用を行っております。
「ハコボ」誕生の背景と開発の転換点
―まず、ハコボの開発経緯について教えてください。
「ハコボ」の誕生は、私たちがもともと取り組んでいた自動運転技術のプロジェクトから始まりました。2019年当時、私たちは人を運ぶモビリティの開発に注力し、本社構内で社員向けの自動運転ライドシェアサービスを提供していましたが、コロナ禍によって社会全体が大きく変わり、社員の出社機会が減少することでその需要が一気に薄れました。人を運ぶ自動運転技術は、思っていた以上に時間も費用もかかることが明確になり、一度プロジェクトの継続を見直すことになりました。
そのタイミングで、新たな方向性として物流に目を向けました。急増する再配達問題や人手不足など、社会が抱える課題に対し、自動運転技術で物流の課題を解決できるのではないかと思い、物流ロボットの開発へと舵を切ることにしました。
―物流ロボットの開発で、他部門との協力や運用はどのように進めてきたのでしょうか?
物流ロボットの開発に取り組むにあたって、私たちの部門だけでは進めることが難しいという現実がありました。そこで、屋内ロボットを開発していた他のチームに協力を求め、一緒に挑戦を始めました。彼らも屋内での開発経験は豊富でしたが、屋外での応用には未知の領域が多く、挑戦を前向きに捉えました。
私たちも、自動運転バスの技術を活かし、複数台のロボットを公道で同時に動かすことで、新たな技術開発を目指しました。小型のロボットなら、物流分野での実用化が十分に可能だと確信し、2020年6月にプロジェクトが正式に始動し、翌月には開発、実証と進んで、12月にはプレスリリースが発表され、「ハコボ」の自動走行ロボットは本格的に世に送り出されました。
また、実際の運用を見据えた際に、技術者が操作するだけでは意味がないため、総務の方々が操作できるようにして実際の運用を任せました。これにより、現場の実際のニーズを反映しつつ、迅速にシステムを立ち上げることができたのです。
多用途で利用ができるカスタマイズ性が特徴
―「ハコボ」はいくつかの種類がありますが、どのような違いがあるのでしょうか?
最初に作ったものは、遠隔操作型小型車にマッチする、長さ115cm×幅65cm×高さ115cmの少し大きめのロボットでした。その後、屋内外をシームレスに動かすということを考えて、小型化を検討しました。
屋内でモノを載せて屋外へ出ていく時、大きい車体ではエレベーターや狭い通路で邪魔になってしまう可能性があります。そのため、大きさを一回り小さくし、現在の「ハコボ」のサイズになりました。
また、「ハコボ」の特長として、お客様の利用用途により上部のキャビンを変更することで、移動販売型やカプセルトイの販売機を搭載するモデル、サイネージとして利用するモデルなど、多様なニーズに応じたカスタマイズができるようにしています。
例えば、丸の内仲通り周辺で行った実証実験では、商品販売で使っています。そのほか、カプセルトイを積んで遊べるようにしたり、サイネージを光らせてディスプレイする(広告する)といった感じで、日にちや曜日、1日の中でも時間ごとに用途を変えて運用することができます。
元々のコンセプトとして、「ハコボ」はデリバリーだけでなく、様々な用途に応じて柔軟に対応できることを重視していました。より多くの方々に、色々な方面でお役立ていただけるように、お客様との対話を通じて進化しています。
取材・編集:ロボットと共に歩む地域社会づくり研究会
今回は、自動走行ロボット「ハコボ」の開発の経緯や特徴についてお話を伺いました。
次回は、実際の地域に「ハコボ」を社会実装するうえで重視したポイントや工夫などについてお話を伺います。vol.02"は明日11/6(火)公開予定です。お楽しみにしてください。
研究会のご案内
矢野経済研究所では、将来、人とロボットの共生社会を見据え、地域に根差した課題解決を目指す「ロボットと共に歩む地域社会づくり研究会」(以下、本研究会)を立ち上げ、本研究会に参加するメンバーの募集を行っています。
本研究会では、今回のような実際に地域課題への取り組みを行う事業者様、自治体様の取り組みをインタビューを通して情報発信していきます。
また、地域課題に対してロボット技術を活用する新しいソリューションを共に探求する企業、個人の方々と共にオフライン・オンラインの情報交流会・アイデア発想会の開催も実施する予定です。
お問い合わせ先
研究会事務局(e-mail:yri.robotcommunity@yano.co.jp)までお気軽にお問合せください。企業の方、個人の方、学生の方など問わずどなたでも歓迎しております。
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