原薬(医薬品の原料)市場について
私たち矢野経済研究所 ライフサイエンスグループでは、上記のような領域で事業を行っています。今回の記事では、普段の生活ではあまり意識することがないかもしれない、薬の原材料(原薬)について、お話しできればと思います。
原薬とは
原薬とは、その名の通り薬の原料のことです。もう少し細かく言うと、薬が効き目を発揮するための成分(有効成分)のことです。"API"(Active Pharmaseutical Ingredients)と言われることもあります。例えば、ロキソプロフェンナトリウム水和物(ロキソニン)などです。
薬には、有効成分となる物質以外に添加剤が加えられています。
参考:PMDAウェブサイト
原薬マーケット
市場調査を事業の一つとしている弊社は、この原薬(API)市場もカバーしています。例えば、2024年度の国内の医薬品原薬・中間体市場規模(製造受託企業の販売金額ベース)を5,050億円と予測しました(「中間体」とは、平たく言えば原薬(API)になる前段階の物質のことです)。
この原薬を作っている企業は、製薬企業以外にもあります。自動車企業が自動車の部品すべてを自分たちで製造しているわけではないのと同様に、製薬企業も薬の原材料をすべて自社で製造しているわけではありません。したがって原薬市場というのは、自動車業界になぞらえれば、自動車部品市場といった位置づけでしょうか。
原薬市場に参入している企業は、化学系の企業が主です。また、輸入されている原薬もあるので、商社が海外の原薬メーカーから輸入し、国内の製薬企業に販売するというケースもあります。
ちなみに、最近薬局で薬が手に入らない、という問題をニュースで目にしたことがある方もいらっしゃるかもしれません。これは、原薬が手に入らない、あるいは原薬の品質に問題があり、薬が出荷できなくなったというケースもあります。
「後発医薬品使用促進ロードマップに関する調査報告書」(令和4年3月)によれば、ジェネリック医薬品のうち、半分(※)以上が輸入した原薬、または中間体からできています(※出荷金額ベース、および品目数ベースいずれも)。
したがって、何らかの理由で原薬が入ってこなければ、必要な薬が患者さんの手元に届かないということが、様々な薬で起きてしまう可能性があります。
もちろん、そういった事態が起きることを予防するために、厚生労働省は「医薬品安定供給支援事業」などの施策を通じて、原薬などの国産化を支援しています。
参考:厚生労働省
原薬マーケットの今後
参入各社は、安定供給のニーズに確実に応えるため、生産設備や生産に関わる人員の増強など、積極的な投資を行っています。
ところで、原薬はいくつかのカテゴリーにわけることができます。主に、どのような薬に使われるかによって分類できます。
分子量が比較的小さい、低分子医薬品と呼ばれる医薬品は、風邪薬など身近にもある薬です。
反対に、分子量が比較的大きい医薬品は高分子医薬品です。抗体医薬品などが該当します。
また、明確な定義はないものの、中分子医薬品は、分子量が500から数千程度と低分子医薬品と高分子医薬品の中間に位置する医薬品です。核酸医薬品やペプチド医薬品などが中分子医薬品にあたります。近年、中分子医薬品の開発の中心となっているスタートアップ企業への資金流入の停滞などにより、足元の成長は足踏み状態にあるとみますが、開発が進展すれば中分子医薬品向けの原薬市場も拡大が期待できると考えます。
また、微量でも摂取すると人体に強い薬理作用や毒性を与える高薬理活性化合物という分類もあります。抗がん剤向けなどの原薬で、競争は激しいものの、市場は拡大するとみます。
医療用医薬品(処方箋医薬品)は、薬価改定により価格が下がる傾向にあるので、原薬市場も全体としては右肩上がりの大幅な成長は見込みずらいと考えられます。医療用医薬品の場合は公定価格が定められており、最終製品(薬)に(薬局が)価格転嫁ができないというのも、原薬市場の特徴の一つです。
したがって、中分子医薬品や高薬理活性医薬品など、市場拡大が期待できるカテゴリーへ注力するといった戦略がもとめられています(あくまで原薬事業というくくりの中で見た場合であり、経営全体で見れば他の事業領域へ進出するといった戦略が考えられるでしょう)。