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『田名網敬一 記憶の冒険』 in 国立新美術館〜行ってきたレポ〜

 8月某日。六本木、国立新美術館にて開催中の「田名網敬一 記憶の冒険」の内覧会へご招待していただきました。

国立新美術館へは、学生時代から何度か訪れたことがあります。壁面いっぱいのガラスが波のようにうねり、晴れた昼間には館内に光と影を生み出す美しい美術館です。

お招きいただいた時間は夕方過ぎ。
いつもより明かりの少ない館内は落ち着いた雰囲気。
そのなかで奇妙に明るい展示室が、今回の展示会場です。


田名網先生の「記憶の冒険」へ


田名網先生の作風といえば、「鮮やかな色彩でポップに描かれた魑魅魍魎たちがキャンバスいっぱいに踊っている」といった印象でした。あの混沌とした作風の源はどこにあるのか。
本展は、田名網先生の記憶とともに作品を振り返る回顧展です。


会場に入りまず目にした作品が、橋をモチーフにした絵画『百橋図』です。屏風型に展示されており、圧倒的な存在感で訪れた人々を待ち構えていました。

また背後には同名のインスタレーションも控えています。幾つも重なった橋の上にプロジェクションマッピングで映し出された魚たちが次々と渡っていく様はなんとも幻想的です。

田名網先生曰く、橋は俗なるものと聖なるものの境界であるとともに、心中に使われていたことなどから死と強く結びついているモチーフであると語られています。
(展覧会公式図録より)

死生観が強く現れた田名網先生の作品展示にふさわしいプロローグです。

『百橋図』絵画
『百橋図』インスタレーション


会場内を進んでいくと、まず驚くのが絵画の数です。
作り込まれた鮮やかな絵画が壁一面に並んでいる光景は息を呑むものです。訪れた人々からは感嘆の声が聞こえてきました。

圧巻の絵画の数

アメコミを思わせる極彩色とはっきりとした輪郭。
そして幼少期に経験されたという戦争の記憶が濃く滲んだ作品の数々は、どれも容赦ないタッチで怒りや畏怖を訴えかけています。

『1967 TOKYO』1967年は第三次中東戦争が勃発した年

至る所に戦闘機が描かれている


中盤に差し掛かると、他の作品とは少し毛色の変わった絵画がいくつか登場します。それらは、田名網先生が多忙を極め結核で4ヶ月近く入院していた時期に、薬の副作用により引き起こされたという“幻覚”を描いた作品です。鮮やかな色使いと浮世ばなれした作風はそのままに、どこか不安げな空気感が漂っています。

『光は東方から』幻覚を元にした作品


また、大型の作品も数多くあり、中には横幅3メートルを超える作品も。

『夜桜の散る宵闇』横幅3m
『死と再生のドラマ』横幅4m
左・『奇想図』 右・『目で光景を切り取る』


絵画の他には、コラージュ、アニメーション、インスタレーションが展示されています。
デザイナーを経験後、枠組みを持たず多彩なアプローチで制作をされてきた田名網先生。手法が異なっても、ポップでおどろおどろしく、やけに生々しいという作風は一貫しています。
大声で叫び回っているかのような絵画や、今にも動き出しそうな立体作品。一歩進むたびに足がすくみます。

『Untitled(Collagebook7_02)』
アニメーション作品『Good-bye Marilyn』より
『アルチンボルドの迷宮』
『Ultimate Existense』と弊社PD高
複数のアニメーションが投影されている


終盤はアーティストやブランドとのコラボレーション作品が並びます。
印象的だったのが、赤塚不二夫先生とのコラボ作品です。ポップで愛らしいキャラクター達が田名網先生の手によってモンスターとなり、キャンバスに溢れかえっていました。

赤塚不二夫先生とのコラボ作品
ブランドとのコラボレーション作品も多数展示


記憶は記録となり、次の時代を生きる人につながる

田名網先生の作品は、無惨な戦争の記憶や、裏の顔を隠して澄ました表情をする世間に対する不信感や悲哀、怒りが重なっているように見えました。

強烈な感情を宿したそれらは、この先の時代を生きる人々も見過ごすことができないほど存在感を放ち続けていくでしょう。


ぜひ、会場で田名網先生の記憶を冒険してみてください。

国立新美術館 企画展示室1E
〒106-8558東京都港区六本木7-22-2

会期:2024年8月 7日(水) ~ 2024年11月11日(月)
休館日:毎週火曜日
開館時間:10:00~18:00
※毎週金・土曜日は20:00まで
※入場は閉館の30分前まで

国立新美術館公式HP


本展の展示作品も多数収録されている作品集、
「TANAAMI!! AKATSUKA!! / That’s All Right!!」の詳細情報は以下よりご覧いただけます。



写真・Taka、73  文・73


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