見出し画像

【印刷立会いレポ】 トンコハウス様 2025年カレンダー

今回取材させていただいたのは、アメリカと日本(金沢市)にスタジオを持つアニメーションスタジオ「トンコハウス」のコンセプトアーティスト稲田雅徳様。

トンコハウス様のカレンダーは、同スタジオから生まれたアニメーション作品のキャラクターや世界観が描かれています。

担当営業から「色校正のチェックをモニター画面と色校正紙とを見比べながら行っている。印刷にも立ち会っていただきたいとこちらからお願いした」と聞き、RGB(アニメーション)とCMYK(印刷)という、色再現領域が異なる2つのメディアの「判断のポイント」を伺いたい!と思ったのが、取材を申し込んだきっかけでした。

ABOUT TONKO HOUSE

トンコハウスは、ピクサーでアートディレクターを務めていた堤大介とロバート・コンドウが、2014年に短編映画『ダム・キーパー』を共同監督したことをきっかけに、2014年7月にカリフォルニア州バークレーに共同設立したアニメーションスタジオ。

2023年には“アニメーション界のアカデミー賞”と称される映画賞・アニー賞でNetflixシリーズ『ONI ~ 神々山のおなり』が、2部門受賞。エミー賞でも3部門で受賞。2019年からは石川県金沢市にもスタジオを構え、日米の2拠点をベースに活動。作品制作以外にも展覧会やイベント、ワークショップの開催など多角的に展開している。

トンコハウス公式サイトより抜粋

稲田さんは、同スタジオの橋爪陽平さんと共に『ONI 〜 神々山のおなり』でカラースクリプトなどを担当し、アニー賞で「ベスト・プロダクション・デザイン賞」、エミー賞で「ベスト・カラー・デザイン賞」を受賞されており、あちこちで取材記事を読むことができます。

調べれば調べるほど、ものすごい方に取材を申し込んでしまったのではないかと緊張が増してきます。

お仕事について伺う

印刷立会い当日、弊社富山工場まで稲田さんも車に同乗されるとのことで、スタジオまでお迎えにあがります。
とそこへ稲田さん登場。
トンコハウス様の優しいタッチの絵そのままの、柔らかな笑顔にこちらの緊張もほぐれました。

富山まで1時間ほどかかるため、車中でいろいろなお話を伺います。
(大学生の時に『トイ・ストーリー3』を見て堤大介さんのファンになったこと、オンラインスクール・Schoolismのトンコハウスのコースで絵を学んだことなども伺いましたが、同内容の記事は至る所で素晴らしいものが読めるので、他にはなかったお話を抜粋)

稲田さんが描き下ろした1枚。臨場感が出るように考えられたレイアウト

——今回のカレンダーの絵は新たに描き下ろされたのでしょうか?

橋爪が8枚、僕が4枚描き下ろしました。描いた本人のイメージ通りにちゃんと仕上がるか、印刷立会いでチェックしなくちゃいけないので責任重大です(笑)

——アニメーション制作は分業制ということくらいしか知識がありません。稲田さんのお仕事「コンセプトアーティスト」も初めて知りました。どんなことをされているんでしょう?

僕の絵は最終的にアニメーションになるものではないんです。スタッフ同士がイメージを共有するための、色やライティングや質感の指針となる絵(コンセプトアート)を場面ごとに描いています。

素人にも分かりやすく説明してくださいます。

——SNSで「#トン活」(静物をスケッチする、「トンコハウスの朝活」の略)を見ました。みなさんPhotoshopで描いているんでしょうか?

Photoshopで描くことが多いですが、スケッチブックにラインを描くだけでもいいんです。細かなディテールよりも見た時の印象でスケッチすること、光や雰囲気を「観察する力」を養うことを大事にしています。

——アニメーションを見ていても職業病のように観察してしまうんですか?

確かにコンセプトアーティスト目線でも見ますが、ちゃんとアニメーション自体も楽しんで見ています(笑)

ド素人な質問をしているうちに、富山に到着。

初めての印刷立会いへ

稲田さんがいつも仕事に使っているというパソコンを手に印刷現場へ向かいます。
まずは1月〜4月の台の刷り出しをチェック。

一番悩んだ1月〜4月の台

「1月の空の色が気になります」と稲田さん。黒田PDによると、製版の段階でも空の青を出すのに苦労したそうです。

空の青→ダムの赤味→黄味、と濃度調整を繰り返すこと6回。

印刷立会いは今回が初めてという稲田さんは「だんだん分からなくなってきました…」とお困りの様子です。
それを見て黒田PDは稲田さんのイメージを伺いながら「今気になってるのはこの辺ですよね?」と確認しつつ、さらなる微調整を行っていきます。その後7回目の調整でOKが出ました。

「なりどん」の色味をチェックする稲田さん(左)と黒田PD

次の台では『ONI』のキャラクター「なりどん」の赤をメインに調整しました。

刷り出しでは鮮やかな赤でしたが、鮮やかなら良いというわけではなく「赤が強いとそこだけが目に飛び込んできてしまうのでそれは避けたかったんです」と稲田さん。
全体の雰囲気とバランスを大切にされています。

パソコンでオリジナルと見比べながらマゼンタの濃度を下げていきますが「これ以上下げると絵の調子がなくなってしまう」と黒田PDからストップがかかります。

でもまだ赤の強さが気になる。

そこで黒田PDは印刷ローラーの調整を指示。

刷り上がってきたなりどんを見て「OKです!いまは何をしたんですか?」と稲田さんから質問がきます。
「色合わせとしては少しイレギュラーな方法になりますが、インキ濃度ではなく印刷機側に細工することで整えました」と説明する黒田PD。その後も続く詳しい説明に「なるほど!」 と理解した様子の稲田さん。
印刷物をお客様とPDが一緒に作り上げていく立会いの良さを感じた瞬間でした。

合間に印刷機を見学

「紙の作品」としてOKか?

11月の絵柄で悩む

最後の9月〜12月の台。11月の絵柄は空や地面の色にかなり苦心しました。

一方、10月の絵柄は「苔に当たっている光と陰のコントラストを上げて欲しい」と要望しつつもあまり迷うことなく「OKです!」とおっしゃられた稲田さん。
「多少オリジナルと違っていても、“紙の作品”として良ければOKと判断しました。僕が描いた絵なので判断もしやすかった(笑)」と判断のポイントを教えてくださいました。

以前別のお客様も同じことをおっしゃっていたなと思い出しました。

アニメーションにはアニメーション特有の美しさがあり、写真には写真ならではの魅力があります。そして印刷物には紙とインキだからこそ成しえる、印刷ならではの味わい深さが存在します。
それぞれのメディアには独自の特性と表現方法があり、その特性を最大限に活かした状態であれば、それがベストであると言えるのだと、今回あらためて実感しました。

最後の台のOKサインをして印刷立会い終了

初めての印刷立会いの感想を伺うと、
「楽しかったです。(絵を描いた本人の)イメージを損なわないよう、自分の目で確認できてよかったです!」と、今回の重大任務を無事果たされほっとしたご様子の稲田さん。
また是非お越しください!

トンコハウスジャパンHPはこちら→ https://www.tonkohouse.jp/home
カレンダーのご購入はこちら→ TONKO HOUSE(トンコハウス)(Amazon)
カレンダー紹介動画→ トンコハウス ジャパン Tonko House Japan(YouTube)

いいなと思ったら応援しよう!