NとA/温い性描写有り﹙昔の短文


『Aちゃん付き合って』


 友人にならって素直に告白を受けた。相手は同い年のN。

 図体がでかくても、どこか気の弱い幼なじみ。小中高までに特筆することもないような日々をずっといっしょに過ごしてきた。

 好意を持っているのはたがいに知っていても恋愛に発展しなかったのは高校に上がるまでのNはデブのオタクで私は今も変わらず根暗だったからだ。共通して内向的な私たちはある意味良く似ていると思っていた。弱いから半分バカにもしていたと思う。

 ろくでもないのは私の方で、こんなのと似ていると思われているなんてNに悪い気がしてたけど止められなかった。

 罪悪感で優しく接した時期はそうした気持ちに耐えられなくなったあたりからだろう。それが余計に彼が私から離れたがらない理由になっていたと考えもしようとせずに。

 だからNがダイエットをすると私に公言してきたときは不思議で仕方がなかった。

 そのときは意味が分からなかったが、彼が告白をしてくれたときにようやく分かった。ハンパない嬉しさと胸の高鳴りを彼が好きだと思う証拠と解釈する。


『――良いよ』


 かくして私たちは、幼なじみから一転カップルとなった。


「……ごめん、だいじょうぶAちゃん」


 初めては痛いらしいと友だちから聞いていた。……実際、本当に痛かった。加えて興奮していたNが若干怖かったのもある。数年ぶりに声を上げて泣いた。

 私の身は貫かれることもなく横たわっている。握りすぎてしわだらけになったシーツはNがきれいに直してくれたとあとで分かった。


「つぎは許さん」

「ホントごめん」


 頭をなでながら何度も謝るNの声は、いつもよりも余計に優しかった。

 単純なもので少し許しても良いような気がしてくる。外側に向かって膝枕されたままNに顔を寄せてもらう。恥ずかしいので耳元でささやいた。


「つぎはもう少し、優しくしろ」

「……うん!」


 大型犬みたいに垂れていた耳が持ち上がり、見えない尻尾まで振られた。昔のNは体型のせいでかなりの汗をかく男だったので運動のあとなんかは近づきたくもなかったが今は そうでもなかったりする。私が寛容になっただけかは分からない。


「――優しくは、ないか」

「ん、なに?」

「なんでもない。背中痛くない? 思いきり蹴ったけど」

「今はそれほどでもないよ」


 感じる余裕もなくて痛いだけだった。こりゃ好きじゃなかったら無理だ。こんなことしてまで男と子作りなんてしたくもないよ。ある意味確認が出来たのは不幸中の幸いって思っておこう。


「ごめんね」


 上半身を起こしてNの背後に回って抱きしめる。

 焦った声を出しつつも、奴は笑った。

 恐ろしく気の抜ける柔らかい笑顔に、私は釘付けになる。


「まあ、おあいこってことで……聞いてる?」

「聞いてるよ」


 笑った顔は昔からあんまり変わってないんだよね、Nは。

 そういうところも安心させてくれるから好きだ。

 少しカサついた唇に噛み付くようにキスした。しばらくキスを続けたところに満足した私はまた場所を変えてNを椅子代わりに背中を預ける。ほっぺたを思いきり左右から叩く。


「いきなりでびっくりした」

「あはは。よっしゃ、心の準備はできたからいつでも挿入れて良いよ」

「どんな気合の入れ方……」

「萎えた?」

「萎えたとか言わない」


 Nにはほんの一年前まで抱っこしていた小さな弟がいる。たぶんだけど、そんな要領で私を寝転がせたNは傍目にも分かるくらい慎重に覆いかぶさってきた。ベッドがゆっくり沈み込んでいく。


「――怖くなったらオレのこと噛んで良いから」

「……そうさせてもらう」


 Nの真面目さに思わず苦笑いしてしまう。別に劇的じゃなくたって構わない。ふとした瞬間に感じられる想いがあるのなら。溢れ出すようなそれが分かれば。


「好きだよ、N」


 あんまりふだんから好きだと言うことはない。まあ言わなくても伝わるだろうと思ってるせいもある。あと、やっぱり恥ずかしい。

 Nが私を見たときのぱあっと明るくなる笑顔とか走り寄ってくるのを見るとテンションが上がるだとか、言い出したらキリのない些細な幸せはたぶんたくさんある。

 痛みに気圧されて『大して好きでもない相手』だと思わずに済んで良かったと思うくらいには、私はNのことが好きなんだと思う。

 笑いかけると「オレもだよ」と言いながら、Nは手を握って唇を押し当ててきた。

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