ブラーオートスコピー
2月上旬、三浦から電話があった。
「実は、1Aで大会に出てみようと思うんです」
いつか、こんな日が来るのではないかと思ってはいた。そのためというわけではないが、オートスコピーは3A専用ではなく、1Aでの使用も視野に入れてデザインしてある。
しかし、話はそう単純ではなかった。
「でも、もうゴパしか使えなくなっちゃって…。
勝ちたいわけじゃないんです。あの軽やかなヨーヨーで、どんなフリーが生まれるかやってみたいんです」
寝耳に水の内容であった。
そもそも、ゴパが競技で使われることなど想定していない。その名の通り、58gの超軽量ヨーヨーである。性能ではなく、この挑戦的な数値から逆算して設計されたヨーヨーだ。
ステージでの使用に耐え得るヨーヨーの中で、特に軽量なものと比べても5gほど軽い。ゆったりした時間や、疲れている日でも手に取れる、"気軽"なヨーヨーである。大きめな直径も相まって、独特な振り回し心地が好評となった。
しかし、ステージに上がるとなると話は別だ。
重量だけとっても力不足であることは明確なのに、幅は38mmと極めて狭い。
しかし、三浦はどうしてもゆずらない。
この軽量のヨーヨーだからこそ生まれた、自由で、力の抜けた技をステージで披露したいと言うのだった。
普段は謙虚な三浦も、ヨーヨーのことになると強気である。
「ゴパでも決めれますけどね」
その語気に信頼しそうになったが、それでもやはり、あれほど幅の狭いヨーヨーでステージに立たれるのはこちらも気が気でない。
ならば、作るしかない。
大会当日まで、およそ3週間。
三浦元が1Aで挑む、戦わないフリースタイルのためのヨーヨーを制作することになった。
引き合いに出されたのはMNオートスコピー。
全体的にシルエットを引き継ぎながら、ゴパにどこまで近づけられるか、スペックを模索した。
重量と幅はステージでの相場を下回りながらも、ゴパの大ぶりな直径はそのまま採用し、競技用として必要最低限の安定感のみを確保。
あとは本人の腕で補ってもらおう。
大会5日前、プロトタイプが到着した。
予定していた表面処理は間に合わず、生地での出荷となってしまったが、そんなことはどうでもよくなるほどの完成度だった。
繊細かつ軽やかなスピード感。
しかし焦りを感じさせない、なめらかな軌道。
三浦が思い描いたフリースタイルを実現するための、唯一無二のヨーヨー「ブラーオートスコピー」が完成した。
初回販売は、ブラストガンメタルとブラストシルバーの2色展開。
大会直前に発注し、三浦が本番で使用した1stロットに表面処理を施したものだ。
トッププレイヤーたちに、これまでにない発想をもたらす道具として。
カジュアルなプレイヤーたちにも、気軽な日常使いのヨーヨーとして。
思い思いの遊び方を試してほしい。
きっと、いつものトリックが全く異なる輝きを放つだろう。
2023年4月某日
ヨーヨーリクリエーション 城戸健吾
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