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イジン伝~桃太朗の場合~XXXXVIII

前回記事

【 何しろオレたちはもうすぐこの廊下を渡りきるところだったから、ハカセはほとんど真下にいる。声を漏らしたり大きな動きをとれば確実に見つかってしまうだろう。オレは片手を離しその手を木地川の方へ伸ばした。ぎりぎり触れる。が、それでは木地川の懐を探ることは出来ない。必死に手を伸ばし外れずに残っていたボタンを引きちぎる。ふと気づき下を見たが失くしたボタンは廊下には残っていない。ほっと息をつく。もうだめかと思ったぜ。
 そうしている間に屋根は元の傾き、直角くらいに開いていた。もしハカセがこの装置が誤作動したのかどうか疑っているのなら、このタイミングで上を見て獲物がかかっているかどうか確認するだろう。つまりここが天王山だった。
 オレは梁の一本に足を掛けて宙ぶらりんになった状態からその勢いのまま木地川に両腕を伸ばしてその制服のポケットに手を入れ目当ての物を掴み取ったんだ。そして逆さまのまま校長室の方に丸めたそいつをぶん投げた。オレはその結果を見極める暇もなく元の体勢に戻って息を潜めた。梁に掛けていた膝の裏がひりひりしたよ。
 この作戦は上手くいった。これは想像でしかないけど、オレが投げた“ハンカチ”は渡り廊下の奥の方でふわっと広がって、まるで屋根が開いた拍子に落ちてきたように見えたに違いない。ハカセが歩いていく足音がして
「誰のハンカチかしら。まったくこんなものが装置を作動させるなんて。もしかしたら入り口から誰かが投げ込んだのかもしれないわね。後でカメラを確認しなければならないわ。いたずら坊主には制裁を加えなくてはね。でもまずはあの報告書を仕上げないと」
と言っていた。そしてハカセが部屋に入った瞬間にオレたちは廊下に降りてここへ戻ってきたってわけさ――】

第四十八回

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 話し終えた猿野はぶるっと体を震わせ次いで朗と犬村を交互に見た。
「ハカセはきっと今はまだその報告書とやらを書いている途中だろう。だがそれが済み次第一体ここで何が起きたのか知ることになる。そうしたら、言いたいことはわかるよな」
 朗はいろんなことが一気に氷解して、ありとあらゆる具材を入れごちゃまぜになった寸胴鍋に投げ込まれたような気がした。人並み以上に物事を知っていると思っていたのは勘違いで、実は何一つ実情には触れていなかったのだ。そしてこの寸胴鍋は一体本当に鍋なのかはたまた大きな湖か何かなのかもわかっていない。
「まったく信じられないわ。あの鬼怒井先生がそんなことしているだなんて。あなた古典映画の見過ぎじゃないの。何でもかんでも陰謀とか言って騒ぎ立てたり、そういえば桃太くんの話だって」
 犬村はそう言って猿野を睨んだ。一瞬怯んだ猿野もふんと鼻で笑って言い返す。
「なんとでも言うがいいさ。だけどクラスの中で生き残っていくにはああいうスキルがどうしても必要だってお前らにはわからないんだろうな。どんな話題だっていいからとにかく自分の存在をああやってアピールしていかなきゃオレはあの場からいなくなったも同然になるんだよ。お前らはさ、きっとわかんないよ。初めから『私は一人でも大丈夫なんです。私には関わらないでください』って澄まし顔してるお前らにはさ」
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 昨日間に合わず。今日はもう一つかきますよ。

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