シュウマツ都市

イジン伝~桃太朗の場合~ⅳ

前回記事

【 二人はその場に腰を下ろし、明けつつある空を見上げる。天球面、東西に等間隔で配置された九つの太陽が輪郭をなくしていく。下方四つの太陽はビルの陰に入って見えないが、裏から差し込む光束でその位置が知れる。
 路地は少しずつ白けていく。隠れていたものが見えるようになってモノから艶が、湿り気が失われる。
「なあ猿野。俺たちはこの狭い世界であとどのくらい生きていけばいいんだろうな」
 猿野は目をすがめて応えた。「さあな、でも」
「徒歩で踏破しちまえる世界なら、獲っちまおうぜ、俺たちで」赤鼻が膨らむ。
「そうだな、そしたらまずは太陽を一つに絞ってしまおう。どうも太陽が多いと影も多くなる」
 朗が伸びをして立ち上がろうとした時、彼は眩しさに目をつむった。動きを止めていた鬼たちが激しく揺れて太陽光を乱反射させたのだ。
「おい朗、なんかやばいんじゃねえか」
 二人が慌てて立つと同時に悲鳴が上がった。少女の叫び、それから少年の嗚咽混じりの声。「朗、猿野、どこにいるんだよう」】

第四回

~~~~~~~~~~~~~~~
 鬼は声の発せられた方向へ殺到する。針金状の体がぎらぎらと、なにやら殺気立っているように見える。束ねられた金属繊維がねじれながら収縮伸長して鬼たちは形を複雑に変え、お互いに絡まったり衝突しながら前進しようとする。普段の整然とした隊列行動は見る影もなく制御不能に陥っている。金属摩擦で火花が飛び散り耳をつんざく高音が鳴り止まない。

「朗、猿野、助けて。犬村が血を出しているんだよ」

 二人は走り出していた。鬼たちの合間を縫って路地を移動する。鬼は既に人型を逸脱して四足歩行や多肢類、尺取り虫型など異形と変じているモノが多い。数体が融合して歪な球型となっているものもある。
 壁や路面が彼らの巨体で破壊され、大小様々な礫が辺りに飛び散る。その一つが朗の腕をかすめて切り傷を作っていた。振り回された腕が猿野のすぐ後方を通過すると、フードが切り離された。鬼に踏みつけられたフードは貫かれて穴だらけになる。「まじかよ。お気に入りだったのに」
「広場の方だ」
 朗は青ざめた猿野の腕を引き、肩幅程度しかない建物間の隙間に飛び込んだ。
~~~~~~~~~~~~~~~

 久しぶりに雪が積もりました。やっと雪国らしくなった。

※『イジン伝~桃太朗の場合~』第1回はこちら。

Twitter:@youwhitegarden
Facebook:https://www.facebook.com/youwhitegarden
HP:https://youwhitegarden.wixsite.com/create

サポートいただければ十中八九泣いて喜びます!いつか私を誇ってもらえるよう頑張っていきます!