【日記】小説のネーミングについて考える
小説に限らず、創作において実際そんなに大きくはないはずなんだけどなんか大きく感じる壁となる、ネーミング。サークルとかでもキャラの名前をどう付けてるか時々聞かれるので、この機会にちょっと考えてみます。ついでに僕は必殺技とかの名前を考えるのがめちゃくちゃ苦手なので、それについても考えてどうにか打開策を探っていきたい。これはちゃんとした創作論みたいなやつじゃなくて、僕はこうしてますという紹介にすぎないので、参考になる部分があると感じた人はそれを持ち帰っていただくというような具合で気軽に書いていきたいと思います。
キャラクターのネーミング
キャラクターのイメージを持つこと
「名は体を表す」という言葉もありますが、皆さんはキャラクターごとにそのイメージやテーマを作っていますか?
「雷のキャラ」とか、「影っぽいキャラ」とか、それぐらいざっくりでも良いです。僕はキャラごとにイメージやテーマを用意して、それをもとに名前をつけています。リアル寄りの小説だとそう上手くはいかないかもしれませんが、例えば「この人は大人しいキャラだから、植物の名前から付けてみよう」とか、性格面のイメージからヒントを得てみても良いでしょう。これを前提とした上で、いくつかネーミングの方法をご紹介します。
方法1.直球でつける
そのイメージをそのまま名前に使ったり、外国語に変えたりして名付ける方法です。僕も割と使う。前に書いた長編の主人公は「ノワール(フランス語で黒)」、ライバル役は「ヴァイス(ドイツ語で白)」でした。一歩間違えれば稚拙な印象を与えてしまうリスキーな方法ではありますが、その一方で「名前の意図を簡単に伝えられる」という利点もあります。キャラクターのイメージが読者に伝われば、読者がキャラクターについて理解を深めやすくなります。『鬼滅の刃』の煉獄さんなんかが好例でしょう。能力も人物の性格も「炎」で一貫している(人物像についてはこの名前があるからそう感じているかもしれなくて、どちらが先と一概には言えませんが)から、登場する場面が短くてもキャラクターを理解しやすく、絶大な人気があるんだと思います。僕小説の話する時にいっつも鬼滅の話してる気がするな、僕が触れてる作品の中で広く伝わる例になりそうな作品があんまりないのでこうなっています。逆張りは、罪だ。
あと稚拙に見せない方法の一つとしては、「わかりやすくした上で捻る」ことです。これが例としてちゃんとしてるかどうかはわかりませんが、せっかくだから一応自分で書いた小説の話もしましょう。先ほど挙げたノワールは物語の初めから結構終盤ぐらいまではまさしく「暴君」で、仲間から全然信頼されてなかったんです。その孤独・孤立を表すために、ノワールをフランス語で名付けておいて、他の仲間は和風寄りの名前にしています(イチカ、クロガネなど)。ついでに敵陣営のヴァイスたちは洋風にすることで、陣営の対立もはっきりさせています(ミカエル、リアンなど)。単一のネーミングではシンプルでも、こういう風に他のキャラクターと組み合わせることで特異性が浮かび上がってくるような仕掛けがあると、ただシンプルなだけで終わらないので良いのかなと思います。と大袈裟に言っていますが、こういう風に味方陣営と敵陣営のコンセプトを設定するだけでまあまあ形にはなるので、「シンプルな名付けをする場合は、名前の由来以外にも何らかの意味を持たせる」ということを意識するだけで良いでしょう。
方法2.アナグラムを活用
僕が主に使ってるのはこっちの方です。キャラクターのテーマを決めて、それをローマ字とか英語とかでアルファベットにして、並べ替えたり余計なものを抜いたりしてそれっぽい名前にする。この方法の長所は、まずバレないことです。ただの並べ替えならまだしも、文字が減ってるので読む側からしたら推測のしようがありません。難点は単語が短すぎると難しいこと。あと母音が被ったりすると広がりが出なくてまあまあしんどいです。
さっきの項目で挙げた人物名も結構これで名付けてます。例えば「イチカ」のモチーフは、小説やドラマに登場する盲目の剣客「座頭市」です。「zatouichi」→「itica(z,o,u,hは捨てる。もったいない。地球は泣いています)」→「イチカ」というわけ。いま例を出したことでお分かりいただいたかと思うんですけど、良くも悪くも本当に全然バレません。だからキャラクターのイメージをちゃんと伝えたい、という時にはあまり使えないかもしれませんね。僕は大体あとがきなど、作品を読み終わったであろうタイミングで無理やり全部バラしちゃいますが。
方法3.その他
もちろん、これ以外にもネーミングの方法はあります。僕が時々使うのは、キャラクターのモチーフから部分的に取り出す方法です。『水月』という短編を書いた時、「太陽」をモチーフにした人物の名前を「千陽」にしたんですけど、まあそんな感じです。今書いている『ライアー』にもこの方法で名付けた人物が結構います。ぜひ推測してみてください。
とりあえずキャラのネーミングについて僕が持っているものはこれで全てです。多分これ以上はジャンプしても出ないと思います。こんなもんだ、アマチュアなんて。
必殺技のネーミング
これマジで難しくないですか? 『逢魔が刻に君に逢う』の時も本当に大変でした。主にイチカとヴァイスのせいで。
かっこいい技名とは何か?
技名は「引き算」だと僕は思っています。短くビシッと言った方が良い。でもこれは僕が考える時の話で、長い名前でも良いものは良いです。僕が長くてかっこいい名前を考えられないだけ。『金色のガッシュ!!』とかすごいよな、何であんなに長いのにちゃんとかっこいいんだ?
ガッシュは多分全体的に決め技の濁音が多いから力が入ってる感じが強くて良いんでしょうね、「バオウ・ザケルガ」とか「バベルガ・グラビドン」とか、「ジガディラス・ウル・ザケルガ」とか。逆にキャンチョメの技は「ポルク」系統で半濁音が入るからちょっと間の抜けた感じがして……言語学みたいな話になってきたね。言語学をナメるな。
まあそんなわけで、必殺技を考える方法をいい加減多少なりとも確立していきましょう。
漢字で名前を考える
僕はいつも技名を漢字にしています。例えば『逢魔が刻』だと"日輪"とか"鏡花水月"とか、そんなんを出しました。何か今の人気作品はわりかし漢字の技名が中心になってることが多い気がします。僕が鬼滅と呪術ぐらいしか見てないからか。
漢字の良いところは、一文字に込められる意味が多いので、文字数が少なく収まりやすいところです。逆に漢字で長い技名だと「かっこいい」より「ゴツすぎるよ〜」が勝つのでイマイチになりがち。「超究武神覇斬」みたいな例外もありますが。でもこれもまあゴツいか。
あとは一文字でも成立するというのは他の文字にはそうそうできない、漢字だけの利点かなと思います。カタカナだと文字数が増えるほど強いみたいなところあると思うけど、漢字だと少ないほど強そうなんですよね。
前置きが長くなってしまいましたが、実際つける時にどうつけるかって話でしたね。何の捻りもなくて申し訳ないけど、僕は技のイメージをほぼそのままつけています。ノワールの能力も『身体強化』だし。なんでこんなんが長編の主人公張ってんだ。まあそのままというか、大まかなイメージ(火の技とか水の技とか)を決めて、その関連語から引っ張ってきてつけるってパターンが多いです。"狐火"とか、"陽炎"とか、そんな具合です。"鏡花水月"みたいに、技の効果と一致する意味を持つ四字熟語とかことわざから名付けるのも良いでしょう。ちなみに僕が出した"鏡花水月"は相手の動きを全て見切った段階で発動できるカウンター技で、相手の攻撃の始動タイミングを見極め、相手の攻撃が出る前に反撃を叩き込むというものです。決して触れられない=鏡花水月という考えから名付けたわけですね。
あと一応これはカタカナの方にも応用できると思うんですけど、漢字の場合は特に「派手技」と「最強技」を分けて考えた方が良いと思っています。今話した"鏡花水月"は、名前を発した時のインパクトが大きい「派手技」です。「派手技」は、名前だけじゃなくて効果も大規模なものにした方が良いでしょう。読者に一旦「これが最大の技なんやろなあ……」と思わせることで、その後の「最強技」への布石となります。
じゃあその「最強技」はどう名付けるかというと、ここでさっきの「引き算」の話が出てくるわけです。最大の技と思われた「派手技」を乗り切った後、最後に放たれる技の名前がとても短い。この温度差が、キャラクターの底の知れなさに繋がるというわけです。"鏡花水月"の使い手の最強技は"朧"です。どんな効果なのかは是非小説の方でお確かめください。ノイズになるからここにリンクは貼らないけど。
カタカナで名前を考える
僕これやったことないんですけど、どうすりゃいいんでしょうね……
多分、外国語をそのまま使うのはイマイチなんじゃないかと直感的に思います。ただガッシュを見る限りだと、「外国語をちょっと崩す」というのは有効そうですね。「バベルガ・グラビドン(重力の呪文)」とか、「マ・セシルド(盾の呪文)」とか。意味が何となくわかるし、直球で安直というわけでもない。
他にカタカナの技が多い作品って何だ、イナズマイレブンとか?
あれは結構直球で名付けてますよね。「ファイアトルネード」とか、「ゴッドハンド」とか。ただあれは声が入ったり、漫画でもエフェクトの情報が視覚的に入ってくるので成立している部分があるのかも。こと小説のネーミングに限って言えば、やはりカタカナの技名は厳しいものがあるのかもしれません。初めから地名とかキャラクター名を上手く使ってしっかりファンタジーの空気感ができていればまた違ってくるとは思いますが。
あとは「技のイメージに合った神話から名付ける」みたいなのもありますね。技じゃないけど、FEの神器は割とこれに近いかも。ただこれもそのまま技の名前にするより武器とかにした方が良さそうです。技名に落とし込んでも違和感少ない神話って何だろうね、ヘカトンケイルとか?
ルビを振る
"全反撃"みたいなやつです。ワンピースとかはまあまあこれが多い気がします。空島とかまでしかちゃんと読んでないし、それも10年以上前だからあんまり覚えてないけど。
あとやっぱりFateはこれが多いですね。「約束された勝利の剣」とか、「初歩的なことだ、友よ」とか。
カタカナの語感に、漢字の引き締まり。一見いいとこ取りみたいに見えますね。ただ、ここにもやっぱり難点があります。
一つは使う度にルビを振らなければいけないこと。別に一回でも良いんですけど、特殊な読みだったらやはり毎回ルビを振る方が親切というものでしょう。こういう単なる漢字の読み仮名と違うルビは色々と便利ですが、使えば使うほど興醒めしていくのもまた事実。漫画とかゲームだとイラストやモーションの方に目が行くので違和感はそんなにありませんが、延々と文字に向き合い続ける小説では流石に限度があります。使い所には要注意。作中で一度だけ使うでっかい攻撃とか、そういう技で使うのが良いかもしれません。
あともう一つは単純に考えるのが大変です!!!!!!!!!!!!!!
僕らみたいなカタカナも漢字もまともにネーミングできない人間がいきなり技名にルビ振れると思うなよ、マジで。そういうわけなので、もちろん作品の世界観にもよりますが、技名を初めてつけるという人はシンプルに漢字でつけるのが良いんじゃないかと思います。僕もまだそこから抜け出せていない。
おまけ:地名のネーミング
僕は地名とかちゃんと設定しないタイプの人間なので、黒龍と白竜の争いを書いた『逢魔が刻』でも、中央部の「ミドナの森」以外の地名を設定せずにそのまま突破したんですけど、地名のネーミングについても少し考えてみましょう。
一応、『ライアー』では「神土町」を舞台にしていて、主人公たちは「神土高校」に通っている、という設定があります。しかし、これはちゃんと考えたのではなく、ボツになった小説の学校名を使い回し、それをそのまま町の名前にしたらたまたま存在しなくてラッキー、って感じだったので本当に適当です。今作のネーミングの中で唯一何の意味も無い名前かもしれない。
舞台が現代日本とかなら地名を適当につける、というのは一つの方法で、下手に凝らずに語感で付けると読者に「別にそこについては考えなくてもいいのか」と思ってもらうことができます。ガッシュも「モチノキ町」だし、モブサイコ100も「調味市」の「塩中学校」とかなので、一定のそれらしさがあれば良いというのも一つの考え方でしょう。僕も割とそうだと思う。あと一応言っておくと、こういう適当な(僕が気付いてないだけで本当は適当ではないのかもしれませんが)ネーミングには、「緩和」の効果があると考えられます。実際、ガッシュは魔物同士の厳しい戦いに身を置き続けるんですが、モチノキ町とか中学校とかが絡んだ話はそういう殺伐とした雰囲気がなくなり、束の間の日常に立ち返るような話になっています。その「緩和」に、この「モチノキ町」というネーミングも一役買っているのではないか、というわけです。
それでもやっぱり凝りたい、という人は、やはりこれも土地のイメージを考えてみるとやりやすいでしょうね。例えば雪国みたいな場所だったら、「フリーズ」とか「フロスト」とか「フィヨルド」とか、氷関係の言葉には結構「f」の音が入っているので「フ」から始まる地名なら良い感じになるんじゃないか、みたいな感じで。実際ポケモンSVには「フリッジタウン」という街があります。まあBWには「セッカシティ」があるから一概には言えないんだけども。
終わりに
色々考えましたが、結局は「イメージやコンセプトを決めて、そこに合う言葉を探す」という過程が共通しているようです。だから僕が「技名を考えるのが苦手」って言ってるのは、もしかしたら正しくは「技を考えるのが苦手」ということなのかもしれない。
ネーミングに限らず、キャラのイメージを定めておくと非常に書きやすい一方で、キャラの根幹をなす記号が決定されるので、人物として表面的になりがちです。僕もそういうところがあると自覚はしている。多分プロの作家とか漫画家とかでもキャラクターのコンセプトは決めてる人が多いと思うんですけど、そういう人たちはどうやってこの点をクリアしてるんでしょうね。新たに考えなくてはならない点が増えましたが、この辺りでネーミングについてのお話を締めさせていただきます。お付き合いいただきありがとうございました。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?