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受賞の向こうがわ③……はじめての打ち合わせ

贈呈式から約3週間後の11月末、出版に向けたはじめての打ち合わせがありました。

場所は講談社本社の児童書編集部です。

担当編集者も正式に決定し、純文学からYA・児童文学に至るまで、幅広い経験があるベテランのNさんが務めてくださることになりました。

賞をいただいたとはいえ、選評を読むかぎりダメ出しが多いだろう、と覚悟し、事前に自分なりの改稿案をいろいろと練っていきました。

打ち合わせ冒頭、「蒼沼さん……」とおもむろに切りだしたNさん。さあ、ダメ出しがはじまるぞ、と身構えたところ、

「……飲み物はコーヒーでいいですか?」

とのこと。

「あ、ありがとうございます」

緊張のままお礼をいい、湯気の立つコーヒーを受けとったものの、気分はまさに俎上のコイ。いつ包丁が落ちてくるんだろう? と、まるで落ちつきません。

「作品、改めて読ませていただきましたが……」
シリアスなNさんの雰囲気に、おお、今度こそダメ出しだ、と腹を固めた瞬間、

「……やっぱり、とてもいいお話だと思いました」

あれ? 
あれれ?

困惑する私をよそに、その後もなごやかな話が続きます。ダメ出しと言えるほど強烈な直しの指示は一向にありません。

むしろ拍子抜けするくらい穏やかな批評が続き、パクパク口を動かしている間にまな板からそっと池に戻されたような、不思議な気分でした。

打ち合わせは約一時間で終了。

大きな方針として、選考委員の方から指摘があった後半部分を中心にてこ入れすること、その他、加筆した方が良い内容や違和感のある描写、時間軸で辻褄があわないところ等について、具体的にアドバイスをいただきました。

枚数の上限を定め、その枚数内であれば今回は自由に改稿してよい、ということも決定。

最後に、いつまでに出せばいいですか? と訊ねたところ、「いつでもいいですよ、逆にいつまでならできそうですか?」とのこと。

さあ、どうするか。

ざっと頭の中で作業量を見積もったところ、急ぎで1か月、余裕をもって1か月半という感じです。

提出を早めればそれだけ出版も早くなるかも、という淡い期待から、「1か月あれば大丈夫です。年末、28日〆切でどうでしょう?」と、やめておけばいいのに、あえて厳しめな期限を伝えました。

「それなら、正月明けでいいですよ」と、あくまで優しいNさん。今思えば、素直にその言葉に甘えておくべきでした。

「いやあ大丈夫です」などと言い放った結果、早速自らの首を絞めることになるのです。

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