受賞の向こうがわ⑫最終回……発売前夜!
明日、8月31日、いよいよ『波あとが白く輝いている』が店頭に並びます。
選考委員の先生方、講談社関係者の皆さま、本の製作に携わってくださった皆さま、改めて本当にありがとうございました!
今まで作品の内容についてはあえて触れませんでしたが、各所の書籍情報に載っているとおり、本作は「震災」と「コロナ」を扱っています。
2011年3月11日、この国にとって特別な日付になったあの日の出来事を、いつかテーマにした作品を書きたいと考えていました。
ただ、あまりにも大きな出来事であり、いつまでたっても自分のなかで生々しさが消えず、なかなかフィクションに昇華することができないうちに時間だけが過ぎていきました。
自分に書く資格があるのかという迷いもありました。
震災当時、私は東京にいました。被災地にいたわけでも、被災地出身なわけでもありません。「当事者性」という言葉に悩み、書いても批判されるだけかもしれないと思うと、なかなか勇気が湧きませんでした。
ただ、一方で、当初からこの大災害は日本全体の問題として受け止めるべきだという思いもありました。
被災地出身ではない創作者が震災と向きあい、時間をかけ、己の想像力のすべてを働かせて作品をつくろうとする行為そのものに、意味があるのではないか。
そんなことを考えはじめていたある日、メディアの情報を通じて、震災の記憶を持たない子が増えてきたことを知りました。
衝撃でした。
自分にとってはいまだ生々しく、昨日のことのように残っている震災の記憶が、すでに過去の出来事に、歴史の一部になろうとしている。
書きたいという気持ちが本当にあるなら、後悔が残らないように今書くべきだ、と強く思いました。
なので、当初は震災10年をテーマに、時代の空気を感じつつ、2020年4月から2021年3月までの物語をリアルタイムで書いていく予定でした。
しかし、そこに降って湧いたのがコロナ禍です。
震災とはまるで異なる形で日常生活が一変し、大人も子どもも目に見えぬ不安に振り回される日々がはじまりました。
震災というテーマだけでもしっかりと向き合う必要があるのに、さらにコロナという重いテーマを作品に盛り込むことは抵抗がありました。
正直、自分の力量を超えており、コロナは無視して、しれっとマスクのない日常を書くことも考えました。
けれども、やはり不誠実な気分はぬぐい切れず、とりあえず一年執筆を遅らせることにしました。コロナの終息を願い、いったん逃げたわけです。
ところが1年経ってもコロナの勢いは衰えず、むしろひどくなっていくばかり。震災10年というテーマを考えると、もう先延ばしはできません。
いい加減、逃げずに書け、と言われている気がして、「震災」と「コロナ」を作品の両輪に据え、当初予定の1年後、2021年4月から始まる物語を書きはじめました。
作者の力量を超え、こうして無事、一冊の本になったのは、本当に多くの方のサポートのおかげです。嬉しさはあります。ただ、心配な点もあります。いくら想像力をフルに働かせても、苦しみの渦中にあった方たちのお気持ちを、外にいた人間が100%、完全に理解することはできません。
文章表現にはできるだけ注意したつもりですが、もし震災の被害に遭われた皆さま、コロナ禍の被害で苦しんでおられる皆さまのなかで、本作を読んで少しでも不快な思いをされる方がいましたら、それは本当に作者の本意ではなく、心からおわび申し上げます。
震災から12年が過ぎても、あの日のことを思うといまだに胸がざわつきます。コロナの報道が少なくなってきても、楽しさを奪われた子どもたちに何を伝えるべきだったのか、今も考え続けています。自分の力のなさが、ときどきやるせなくなります。
書くことしか能がない私は、やはり書くことを通して、震災に、コロナに、この世界そのものに、今後も向き合っていきたいと思います。
最後になり恐縮ですが、コロナがこのまま終息し、震災で傷ついたすべての方の日常に平穏が訪れますよう、心からお祈りいたします。
どうかこの作品が多くの方の手に届き、ほんの1gでもいいから、だれかの、なにかしらの力になりますように。
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