新護憲神奈川 主体的平和戦略 ⑤   


日米関係の改善・日本の専守防衛の徹底と主体的主張の重要性

                           松原 博

日本とアメリカ
 かつて、九条の会の講演会で、小森陽一氏は「戦後、米国に収奪された量は日本が今抱える赤字国債の1000兆円に匹敵する」と語った。
算出方法は皆目見当がつかないが、「金額」の問題だけでなく、従属させられてきた分野の広さ、その内容の深さは、日本の主権国家としての立場を落とし込めてきたことは事実である。
 また、「思いやり予算」が問題になっていた時に、軍事評論家の前田哲男氏に電話で聞いたら、次のように話してくれた。「日本では、思いやり予算と表現しているが、アメリカのある州の議会では、あれは奴隷の貢ぎ物でしかない、言われている」。 これも私には印象的だった。
アメリカの政治家たちにとって、日本はその程度に見られているということである。
 沖縄での米兵の性犯罪、交通事故犯罪、殺人などの犯人が、地位協定によって本国に送還されてしまう。自国の都合で、犯罪者と沖縄県人を対等な人間とみなしていない姿勢の表れで、とんでもない「人道主義」である。
 ここで言いたいのは、アメリカ人が日本人をそう見ていると言うことではなく、米政府が戦勝国として、相も変らぬ日本政府に対する姿勢である。
更に言えば、ジャパンハンドラー(知日派、親日派⁈)が膨大な経費を使い、日本の諸事情を調査し、米国に都合のいい提言を、歴史の大切な節目に発している。アーミテージの「憲法9条は日米関係にとって不都合である」という発言は象徴的である。不都合なのは、「同盟強化」「自衛隊の専守防衛体制の改編」にとってである。それに突き動かされ、「9条憲法改正」に力を注ぐ自民党政権に問題があることは言うまでもないが。
 
 ある評論家は「日本の政治家の中にこの日米関係の改善をきちんと主張できる人間が出てこない以上、日本の前途は暗い。野党の中心人物も『反米』の態度を鮮明にするとアメリカからの圧力で潰されるとわかっているので、公然とは日米関係の本質的な改革を言えない」と言う。
 日本の経済界を動かす経営陣の中に従米に拘束されずに世界全体を視野に入れた人間が登場して欲しいとすら思ってしまう。
 
従米思想の実態
 私の見解の対極にある、米一途をつらぬく従米改憲論の一つをあげる。
安倍政権ブレーンの坂元一哉氏(国際政治学者)である。
 「いつまでも、日米同盟に頼るべきで、日本の自立を心配することは無用である。同盟というのは、『互いの安全(と利益)のために互いに協力する』関係の事なので、日米関係に頼るということは、アメリカに頼るというより、『日米の相互協力に頼る』ということである。そこにあるのは、日本の依存だが、アメリカも同様であり、それは相互的なので対等である」
 
 日米安保の地位協定の実情を直視すべきである。また、日本政府が米原子力空母の横須賀母港化を容認したり、普天間基地を維持しつつ辺野古新基地建設をごり押ししている事実も。
 また、南西諸島へ自衛隊を配備して米軍と共同使用しようという企みに加担している現実から「相互的なので対等である」などとどうして言えるのか。
 戦後史を概観して、日本は本質的体質に変化なく、戦前の「天皇」が戦後の「アメリカ」になっただけであるという白井聡氏の指摘通りである。
 日米安保なしに日本の安全保障が確立できるのか(1995・10 ジョセフ・ナイ)の恫喝に屈した坂元氏の姿勢は自民党政権の姿勢そのものである。
 
 現岸田政権は、アメリカの軍事戦略に従い、安保関連(軍事)3文書を「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」と変更し、その内容を、「与党協議会」「有識者会議」に協議させている。また、アメリカの軍事要求に沿って、5年間に軍事費をGDPの2%に倍増させるための策動を進めている。
 東アジアの高まる軍事的緊迫に備えての計画というが、その緊迫を創り出しているアメリカに抗議ひとつ出来ず、日中、日韓、日朝の相互平和条約の実質的交渉を進められない政府である。
 このような政府をどのように変えていくかが、私たちの最大課題である。
 
 私たち護憲運動を推進する側が、政権交代を主張するのは当然だが、その結果が日米関係をどう改善するのかという戦略的な構想を持たなければならないと思う。
私は、それが運動する側に一番欠けていると思う。
 
専守防衛の徹底
 もともと、軍隊を持たない、戦争を放棄する、国家・国際間の問題は武力によっては解決させないという日本の立場を、日米安保・自衛隊との矛盾を誤魔化すために考え出された「専守防衛」だと思うが、ここ数年、これすら危うくなってきた。現在もテレビで岸田首相、防衛大臣、諸閣僚は口を揃えて、「専守防衛」を超えることはない、と発言している。そう断言できる根拠は彼らには全くない。歴史的認識も、世界情勢の分析も不十分で、ただただアメリカに追従していることが一番安全だという「信仰(?)」でしかない。
 政府は、攻撃的兵器を保有することは、「自衛隊のための必要最小限度の範囲を超えているので許されない」との見解をとってきた。
 それなのに2014年集団的自衛権行使容認の閣議決定をして,違憲の「安保法制」を成立させた。今日では、敵基地攻撃能力の必要性まで言い出している。ここにきて相手国のミサイル発射拠点をたたく反撃能力と言い換えているが、実体は国産の長射程ミサイルをつくるためであり、米国の巡航ミサイル「トマホーク」を購入することが狙いである。そして、国家の存立危機事態という一方的で米軍の盾となって戦うことすら念頭に置いている。
 
 米政府の根底にある要請・意図に気づかなくてはいけない。
「敵」からの武力攻撃がない限り、武力行使はしない、攻撃があった場合も必要最小限の力で防衛に専念するという「専守防衛」は消え失せ、「敵」が攻撃しそうならば徹底的な攻撃能力を駆使して、大打撃を与えるという力を示し、それが抑止力になると考えている。
 こちらが軍事力を強化すればするほど、当然相手国も強化し、いつかは衝突し雌雄を決することになってしまうという歴史的現実に目を向けて欲しい。
 
主体的主張の重要性
 そこで一番問題なのは、「敵」をつくることである。アメリカの主張で、中国が明確な「敵」になりつつあるが(実は、中国敵視はソ連崩壊後のアメリカの世界戦略で、それに呼応して自衛隊は北海道・東北から南方・沖縄へと兵力移動を始めていたのであるが)、日中平和友好条約を締結している中国を「敵」と見なすのは、日本の本当の主張なのか?利害関係があるかないかではなく、日本の今後のために真剣に検討すべきである。
 中国や朝鮮民主主義人民共和国が日本を攻撃し、壊滅させるとか、領土を収奪するということが現実的に想定できるのか。そうではないだろう。
アメリカの利益が中国に脅かされているという危機意識が「敵」をつくり自国利益の確保に走らせているのでないか、それに日本が加担して何になる。
 
 沖縄返還の直前に「沖縄返還とは何か?本土の防衛責任とは何か?アメリカは真の日本の自主的軍隊が日本の国土を守ることを喜ばないのは自明である。あと二年の内に自主性を回復せねば、左派のいふ如く、自衛隊は永遠にアメリカの傭兵として終わるだろう」と三島由紀夫は自衛隊に訴えた。
 自衛隊の任務は、米国の命令で決まると喝破したのである。自害だけが問題になり、その訴えの本質が後世、話題にされないのは「天皇」から「アメリカ」へ崇拝対象を変えただけと指摘される由縁である。
 
 私は三島氏と同じ立場で主張する者ではないが、ともかく今の世界情勢の中でアメリカ追従だけの姿勢では、日本も立ち行かなくなると主張したいのである。
 「敵」をつくり、アメリカの尻馬に乗るのではなく、どの国とも対等に、武力なしでの外交関係を憲法前文、9条の精神の実現をめざしつつ、構築していくべきである。
 外交関係で日本が、主体的に主張し展開すべきこととしていくつか揚げてみたい。
 〇尖閣諸島は領土問題として固執するのではなく、日中国交回復時の「棚上げ」論を維持しつつ、海底油田の共同開発を友好的に進める。
〇東南アジア諸国とはアメリカの意向に縛られずに経済的協力関係を構築し、各国とも個別にきちんと平和友好条約を結ぶ。日本の武力行使はないことを理解・納得してもらう。
〇中国とは国交回復時の協定に戻り再度経済交流、相互協力のあり方について協議できる外交関係を改善していく。
〇韓国とは、韓国国民の対日感情に表れている、日本の戦争責任に対する姿勢を真摯に受け止め、今後の対等な国交関係をつくっていく。
〇朝鮮民主主義人民共和国とは、平壌宣言に戻り、国交正常化を目指す。米韓、日米韓の敵対的軍事行動を抑制しつつ相互に有益な物流・人間関係をつくる努力をする。その過程で拉致問題も相互に納得のいく解決を探る。
 
 直近の最大の課題の一つは日米、米日韓の朝鮮民主主義人民共和国へ威圧を与える共同軍事演習は即時やめるべきである。
 10年前に10日間位、共和国を訪問した。その時に、板門店でバスに同乗した若い兵士たちが私たちに「今回、このように接することが出来たことは、大変うれしいことです。数年後に敵として戦場で出会うことないように祈っています」と語った言葉が今も耳にこびりついている。何処の国にも普通、当たり前の人々が生きいているのである。
 日本は憲法前文・9条の精神を自ら実現して、世界に拡げていく視点を失わずに歴史を刻んでいきたいものである。
 
 
  ➡次回は 主体的平和戦略⑥
    <日米安保条約10条を踏まえて、米軍の日本からの段階的撤退と中国・朝鮮民主主義人民共和国・ロシア そしてアジア諸国との外交関係の改善を目指して!>


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