新護憲神奈川 主体的平和戦略⑦
<自衛隊の縮小と日米安保解消 —
自衛隊削減の具体的施策と防災省創設の構想>
ソ連が崩壊し、冷戦構造が終焉した直後、北海道・東北方面の自衛隊は削減あるいは撤退してもいいのではないか、という議論があった。元自衛隊員だった人からも、そういう意見が内部にあると聞いた。
現在軍事評論家の小西誠さんは、自衛隊内部に、兵力を南方へ移動させる動きが出始めたことを、私に直接教えてくれた。
あの時以降、彼が言ったように、厚木・岩国・佐世保・沖縄などへの兵力移動が始まり、今日の南西諸島への強引な自衛隊基地づくりにまで進んでしまった。
「厭戦庶民の会」代表だった、故信太正道さんは、私に「軍隊というものは、隊の存続自体が自己目的化されるものだ」とよく言っていた。
あの時に、自衛隊縮小が出来なかったのに、現在それができるはずがない、というのが世間一般、護憲派市民の常識だろうが、私は敢えて、異を唱えたい。
まずは、最近、日本共産党での除名問題で話題になった松竹伸幸さんの主張をみる。
「憲法9条の軍事作戦」(平凡社新書)の中で、2010年11月のNHKの「今後の安全保障体制」についての世論調査に触れている。
「日米安保を基軸に日本を守る」が19%、「アジアの多くの国々との関係を軸に、国際的な安全保障体制を築いていく」が55%。
中国への対応については、
「アメリカの軍事的抑止力によって対処していく」が12%
「アジアにおいて他の国々とともに対処していく」が57%
「日中2国間の関係を深めることで対処していく」が23%
後者合わせて80%であることを指摘している。
そして彼は、「九条の軍事戦略」として次の3点をあげている。
① 「専守防衛」の本来の意味へ
② 主権の維持と協調を両立させる
③ 将来的に軍事力を必要としない世界を目指す
もう一つ、関心を引いたのは、「週刊金曜日」1417号(2023/3/24)、田中優子さんの「日米安保がなくなる日」である。
日米安保について多くの日本人が「米国が日本を守るための条約」だと思わされていたのである。しかし、今ははっきりしている。安保条約はずっと、米国がアジアと戦争をする際に、日本を米軍基地として使うために存在していたのである。
そして、回避できずに戦時に入ったら何が起きるか、すでに米国の戦略国際問題研究所(CSIS)でシミュレーションされている。2026年に第1回の戦争が約1ケ月続く。その戦争は、日米の水上艦と航空基地へのミサイル攻撃から始まる。米軍機は嘉手納、岩国、横田、三沢その他の米軍基地から飛び立つので、これらの基地は攻撃対象になりうる。米国は2隻の空母と10~20隻の大型水上戦闘機を失い、最終的に約1万人が死傷する。日本人の死傷者数は計算されていない。その後、勝敗はつかないまま膠着状態となり、数年後に第2回が起こる…はっきりしているのは、日本は中国の軍事力を弱体化させるための盾に使われるということである。
その時に、考えられる選択肢は、日本のウクライナ状態化になるか、米国の51番目の州にさせられるかの2つであると田中さんは言う。さらに、「台湾有事を日本有事にしないこと」が前提となるが、米国の戦争に利用されない日米安保条約下にない日本を、中国をはじめ多くの国と等距離の関係を保ち続けることで実現できる、とも言う。
そして、最後に共産主義、資本主義、独裁主義、自由主義などの分類に惑わされずに多くの同盟に属し、平和条約をやたらと結び、世界195カ国に八方美人どころか195方美人となり多くの顔を使い分け、経済関係を活発にし、憲法を守り切る、と締めくくっている。
松竹さん、田中さん、筆者に共通するのは、日米安保による米国従属関係を断ち切ることの重要性についての認識である。
自衛隊の縮小とは、米軍の戦略と違う日本の戦略を立てるということである。
「日本を守る」ということは戦争になる条件を減らし、なくすことである。さらに、「日本を守る」ということは「日本だけを守る」ということではなく、「他国、人類、地球を守る」ということであり、9条そのものの精神である。
そのために、当面必要なことは「日米関係に拘束されない日中関係の構築」であり、「朝鮮民主主義人民共和国との国交正常化」である。そこで重要なのは、日本のその主体的な外交戦略を米国が認めない時に、「日米安保10条」を適用して、廃棄を主張するくらいの姿勢を示すべきである。
日本が台湾、中国、朝鮮民主主義人民共和国に先制攻撃をしないことを納得させるためにも米軍の日本基地からの出撃を拒否する姿勢を明確に貫くことが重要である。
そのことと論理的にも、整合するような、日本の自衛隊組織の再編が必要である。
まずは、先制攻撃的部隊を削除する、集団的自衛権を使って戦闘行動に使われる部隊の解体、迎撃ミサイルのような悪循環をもたらす兵器の長期的削除、隊員の大幅削減などの努力が「日本国」として必要である。核保有、武器輸出などは言語道断である。
現実的に日中、日朝間で相互不可侵条約を結び、平和的な外交を実現するためには、日本の米軍基地に対する、日本の姿勢が大切である。
米軍との事前協議という表面的、形式的な場を日本の主体的主張を提起できる実質的な場へと高める努力が必要である。
そのためには、集団的自衛権行使を拒否し、米軍の先兵としての自衛隊の酷使をも拒否する。このアジア地域で、より多くの国と平和友好条約を締結して、専守防衛に徹した国であることを実質的に示し、国としての信頼を高める努力が必要である。
青井未帆さんが、「世界」№969(2023年5月号)、「安保3文書改定と私たちの平和構想力」の中で指摘している。
集団的自衛権行使容認をした2014年7月の閣議決定以降、国会での議論・検討を軽視する傾向がより強くなり、今や国民の意思確認も国会での議論は皆無に等しい。そして、3文書に見られる9条からの逸脱がまかり通っている。今後起こりうる存立危機状態や重要影響事態について、私たちがどこまで何をどのように知ることが出来るか、国会の関与のあり方や然るべき透明性と説明責任を備えた制度構築が喫緊の課題である。平和と安全保障の問題への私たちの感度と見識が問われている。
3文書の内容が閣議決定され、現実的に実行されつつある中で、私たちの感度、見識が問われていることは確かだが、そこで、私たちがとるべき平和主義の概要と戦略を私は主張しているつもりである。
私は米国との敵対関係を主張してはいない。多くの国々との不可侵条約や平和友好条約を基礎に、日本が日米安保の隷属的関係を断ち切り、自立しなければ平和憲法も実現できない。安定した平和環境も構築できないと主張しているのである。
また、多くの国からの信頼を勝ち取るために、今日の地球規模の諸災害の予防、救助に貢献できる国づくりも大切である。
自衛隊を縮小する過程で希望者を募り、「防災省」を創設してはどうか。規模は10万人くらい。施設の整備、人件費も含めて現在の予算を大幅に上回ることはない。
日本の防災能力をより高め、多くの自然災害、人的災害に対して、機動力のある救援・救助ができる組織を創り広範に活動を展開する。現在のように災害発生後の地方自治体が自衛隊に要請して始めて動き出すのではなく、恒常的に機能的に行動する救援・救助隊を組織するということである。
その力を国内だけでなく、平和友好条約締結国を中心として災害時には常時1万人規模の復興支援部隊を派遣できる体制をつくる。
国内では災害時の活動だけでなく、山林、河川、道路、水道、電気、原発廃炉などの大規模工事に常時従事して生活インフラの安全性を高める努力をする。それは、国民の税金が、国民のために使われていることを明白に示すことにもなる。
ともかく、人の命を大切にする、国としての防災の役割を目に見える形で実現するための「防災省」の創設が、自然災害、地球温暖化、戦争による悲惨な事態に対処するために望まれることだと思う。