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フォーマルなのかカジュアルなのか

何年か前、私の先生が
審査員として関わってらっしゃるご縁で、
西陣織大会の審査会を
私も見学できる機会に
恵まれたことがあります。
広い会場いっぱいに展示された、
沢山の豪華な袋帯(帯以外も色々あった。
ただやはり帯が記憶に色濃く残ってます)
豪華なもの、技巧を凝らしたもの、
今までにないものをという意気込みを
感じさせるもの…まさに圧巻で
作品から伝わる作者の熱に呑まれるような
気すらしたものです。

帯にはひとつひとつ、
タイトルと作者の名前、
そしてフォーマル(あるいはカジュアル)
と書いてあるのですが
これが私を本当に混乱させました。

フォーマルと書いてるけど、
随分とくだけた柄にみえるけど?
カジュアルとかいてるけど、
こんな豪華な帯してどこにいくの?
フォーマルとは?カジュアルとは?

着物を着るようになり、
最初に悩み出すのが着物の格。
訪問着には袋帯だよ、
洒落袋帯はちがうよ、
京袋帯は袋帯とはちがうよ…etc。
色んな本に学び、
何が正解で、間違いなのか、
そこをとにかく明確なルールとして
はっきりさせたい。
当時の私にとって格は
私が知らない絶対の掟のようなもの
のように見えていました。

混乱した私は先生の側にいってそっと
「この帯…カジュアルなんですか?
私にはフォーマルに思えて…」
と縋る思いで質問したら
「フォーマルとおもうなら、
フォーマルとして使えばいいんじゃないの?」
とあっさり言われ
絶対のルールがあると頑なに信じていた
私は大混乱。
正直、ここの柄がね…等
カジュアルを名乗る理由を教えて
欲しいとすら思っていたのです。
混乱してソワソワとする私に
「頭で考え過ぎ。もっと全部をまるごと
飲み込むつもりで見てごらん」
と諭される先生。
会場を出たあとも、どうだった?と
先生とお仲間と感想を言い合ったのですが
この日の私はこのカジュアルかフォーマルか
の件ばかりに気を取られていて
大した感想も言えずにおわりました。
今振り返れば、
本当に勿体ないことをしたなと思います。
せっかく素晴らしいものを沢山見たのに、
瑣末なことに振り回されていたこと。
全部を飲み込むつもりで
見てごらんという言葉の意味も
今ならよくわかります。

今の私が当時の私から帯を指して
これってカジュアルなの?と聞かれたら
好きに合わせたらいいと思うよ、
と答えるでしょう。
でも昔の私はきっと
その答えに満足しないだろうから加えて
この帯でどんなコーデをしたいと思う?
と質問して、
それなら結婚式も素敵、
そのコーデなら、観劇もいけそう、
と具体案から帯の可能性を一緒に考えるでしょう。
フォーマルとカジュアルは、
キッパリと分けられるものじゃなく
緩やかなグラデーションで、
着る人、着る場面によっても
事情はかわる。
例えば猫ちゃん模様の洒落袋帯だって、
本来は結婚式には不向きだけど
お相手との関係によってはそれが
とびきり気の利いた餞の装いとなる場合が
あるかもしれない。

何をどう装うかは、
自分自身のためでもあるし、
その日会う人への心遣いでもある。
安易な分類は目の前の美しさを味わう
妨げにもなりかねませんね。
次に同じ機会に恵まれたら、
シンプルに美しいを楽しもうと思います。

写真は関係ありません。
京都でとある社屋に飾られた立派な帯に
見入る私の様子。

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