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再審法改正実現議連スタート

袴田事件のように、なぜ冤罪を晴らすのに数十年もの歳月を要するのか。なぜ、無いと言われてきた証拠が、実は…と出てくるのか。再審法改正実現を目指す超党派議連が、3月11日にスタートしました。157人の国会議員が入会しています。設立総会では、村山浩昭元裁判官の熱のこもった講演をいただきました。議連の設立目的そのままの講演でしたので、以下全文を掲載させていただき、議連設立の報告とさせていただきます。

村山浩昭さん

3/11村山先生ご講演

私は弁護士ですがまだ2年目、本日は弁護士としてではなく、元裁判官としてお話しを聞いていただきたいという気持ちです。

私は39年近く裁判官をやっていましたが、その中で静岡地裁において袴田事件に巡り合いました。ちょうど10年前、2014年の3月、再審開始決定と拘置の停止、身柄の釈放ですね、これを決定した裁判の3人の裁判官のひとりです。袴田事件を経験し、多少なりとも再審のことを勉強してきたつもりです。その結果、現在の再審法制には多くの不備欠陥があり、どうしても改正することが必要だと確信に至っております。私も裁判官を辞めた後の、法曹としての一つの使命としてぜひとも改正したいと、日弁連の再審改正実現本部にも入れていただいています。本日は袴田事件を例にとって、今どうして再審法改正が必要なのかについて簡単にご説明させていただきたいと思います。

現在、静岡地裁で袴田事件の再審公判進んでおります。再審開始決定が確定したのが去年の3月です。その決め手になったのは何なのか。それは着衣の色なんです。袴田さんがその着衣を着て犯行に及び、その後勤務先の味噌会社の、味噌タンクの中に隠したと、それが1年2か月たって発見されたと。そうすると衣類は1年以上タンクに浸かっていたことになるんです。なぜかというと、袴田さんはほどなく逮捕されているので。その色が本当に1年以上も浸かっていたものかどうか、きわめて原始的な問題が最終的には決め手になった。それは、この問題が大きく論じられるようになったきっけかのカラー写真が、再審請求してからなんと30年たってから出てきたんです。そしてその写真を見て、本当にこんな色なのかという議論が起きました。血痕の部分が赤みを帯びているんですね、「せき」、とか「くれない」というという字で記載はあるんですが、赤を示す言葉はあるんですが、提出された写真を見ると赤いんです、そして白いんです。下着の血の色が白いんです。味噌に浸かって本当に白く残るのか、というのが誰でも抱く疑問なんですが、実験したらそんな色にはならない。もっともっとどす黒くなるんです。そういうことがどうして30年もかからないといけないのか、これは、証拠開示の規定がないからです。規定がないということで国会議員の先生方は、そんなこと法曹は何をやっているかと思うと思うんですが、実際ないとですね、「検察官どうですか?」といっても、どうして出さないといけないんですか、そんな規定ないですよねと。それを押し切るだけの裁判官のパワーがあるかっていうと、それはやはり相当確信を持たないと勧告とか事実の取り調べをするというのは難しいです。ところが規定があればですね、そんなことで揉めないんです。で現に今はですね。まあ限られた事件ではありますが、類型証拠開示とか主張関連の証拠開示の制度ができまして、これについては検察官もきちんと開示をしてくれているんです。ルールができれば。検察官は優秀な行政官ですから、きちんと履行してくれる。こういった問題はですね、袴田事件に限らないんです。まあ、悪く言うとですね、隠された証拠によって無罪が証明できたと言うふうに、割とそういう風になってしまうわけですけれども、これ、どちらかというとそういう出すっていう規定がないから出さないできたと言う。そういう見方もできないではありません。

また、袴田事件については、2014年に開始決定が出たんですけれども、確定したのは2023年です。9年間かかっています確定まで。なんでなのかっていうと検察官が抗告をして、そして高裁で取りざたされ、最高裁で差し戻しなり、差し戻し審の高裁で開始決定が確定し、これについては、あの検察官は特別抗告をしなかったから確定したんです。確かに高裁でやめられるような決定を書いた裁判所が悪いんじゃないかと言われれば、私も反省しなきゃいけないと思いますが、しかし、再審の構造を考えた時に、そんな抗告がいるんでしょうか? なぜかといえば、再審開始は裁判のやり直しを始めるだけなんです。もう一回、裁判やるんです。現に今袴田事件では検察官はさらに有罪立証してるんです。何十年もかけてやってきたものをまたやってるんです。そういうことで冤罪の救済がどんどんどんどん遅れます。この冤罪の救済が遅れるっていうのはどういうことなんでしょうか?確定判決を受けた人ですから、どういう状態かというと、現に刑の執行を受けているか、刑の執行を受け終わったか、袴田さんのように死刑の執行を待つ身か、ということです。一日一日が重くのしかかってきます。現に袴田さんはですね、2014年に釈放になって。心的な不調はいまだに治っていません。おそらく日々死刑の恐怖というものを感じながら過ごすという中で精神を害され、そして釈放されて十年経つんですけれどもまだに正常な状態に戻っていません。また、ほかの方々はですね、実際には刑の執行が終わってから再審が開始されるというような事例もあります。つまり一日救済が遅れれば、その一日分実被害として被害が生じていくという。それも身に覚えのない、そういう罪で。大変悲しい思いをし、それはご本人だけではない身内の方々も同じであります。そういう状況で、まあ、再審被害に遭われた方の被害というのは、本当に私などではとても語り切れないものがあると推察しています。


そこで国会議員の皆様方にはぜひともお考えいただきたいと言う点について、まず歴史的経過から話したいと思います。現在の再審の規定は大正13年、1924年、ちょうど百年前です。百年間、ほとんど変わってないです。刑事訴訟法が改正になったのはちょうど今から75年前。75年前、憲法変わって改正したんですけれども、再審のところまで改正作業が追いつかなかったんです。ですから、ほとんど残っていまして、変わったのは不利益再審がなくなったということです。つまり無罪の人が有罪になるような裁判のやり直しはなくなりました。しかし、手続等の規定についてはほとんど手つかずです。したがって、再審請求人がどういうことが請求できるのかというような規定は全くありません。また、どういうふうに期日が進んで、審理がどのようにするのかというのは、すべて職権主義、裁判所の合意的な裁量ということになっておりまして。そういう意味ではルールがあるようでないです。で裁判所を信頼していただいてるのはいいんですけれども、その信頼の結果がいろんな規定がないことと相まって30年も40年も再審がないといと扉が開かない。こういうことになっているわけです。

次に申し上げたいのは1970年代後半から80年代にかけて、四大死刑再審事件というのがありまして。これはあの全部無罪になったんです。死刑事件が。これは、死刑になった人が無罪になるということで、本当に司法官にとっては大変な衝撃だったはずなんです。しかし法律は変わらなかった。この四大死刑再審無罪事件の陰にはですね、白鳥決定という最高裁の決定があって、その影響がある。つまり、再審事件においても、疑わしきは被告人の利益、これはあの有罪確定者のためにということなんですけれども、そういう決定があったことは間違いないんですけれども、その時に手続きについては全く改正されませんでした。それがその後40年間。再審請求をする方にとっては大変厳しい厳しい日々が続いた。その原因であります。これは個々の弁護士さんとか、再審請求人の努力の域を超えてます。つまり構造的な問題であり、例えば証拠開示なんかはですね、請求人はですね、どんな証拠があるかさえわからないです。そういう意味でどうしても法律を改正しないと手が届かない問題だというふうに思います。

時代の責任というようなことで、まあちょっと偉そうに書かせていただきましたが、これは、私自身の問題でもあります。というのは、私はたまたまですが、袴田事件を担当し、その中で現状における日本の再審事件というのは、大変厳しい状況に置かれていて、冤罪被害を訴える方の訴えはですね、なかなか裁判所ところまで来ない。弁護士さんがつくということ自体も非常に少ない。そういう実態、また袴田さんのように、まあ、これはあの再審公判がまだ進んでいる最中ですので、結論がどういう事はとにかく申し上げませんが、静岡地裁が再審開始決定を出したということは無罪の可能性があるという判断をしているわけですから、そういう方がですね、長年非常に苦しんでいるというのを見てそういう法制度はおかしいのではないかと私は実感してしまったんです。この再審というのは数が多いわけではありません。そんなにたくさんないので、その大衆的な要求とか欲求にはなりにくいです。つまり本当に実感した人が強く訴え無い限り物事は変わらないと思いました。それで私は実感した者の一人としてできるだけ多くの方に知っていただき改正について賛同いただき、そして最終的には。立法府である国会で改正していただきたいと、そう思って今日までそんなに長い期間ではありませんけれども、活動をしてまいりました。今、国会議員の職にある皆さん方には、この時代の責任、今改正しないと、また何十年もこういう被害に遭う人が続きかねない。大正刑訴から100年。改正刑訴から75年。今袴田さんの事件が現にすすみ、どう考えても今年中には判決になると思います。そういう時期に国会議員であられた皆様方にはぜひとも、のちの世に悔いを残さないように、のちの世に同じ苦しみを味わう犠牲者を出さないために国会で法律を改正していただきたい。で何をどう改正するというのはもちろん議論の論点として上がっているところでございます。日弁連としては提案をさせていただいているところであります。

最後にもう一度申し上げたいと思うのは、今の日本の刑事訴訟法刑事訴訟規則では冤罪被害者はなかなか救われません。運用で解決するのは限界です。どうしても改正が必要です。冤罪は国家による人権侵害。この人権問題を解決するために。どうか国会議員の皆さん方は力を合わせていい改正案を練っていただきたい、そのことを最後に、先延ばしせずに今解決するという決意で臨んでいただきたいと言うことを。もう一度申し上げて、本日このようなお話をさせていただき大変光栄に思っておりますけど、そのお礼の気持ちを込めまして、私の基調講演とさせて頂きたいと思います。どうもご清聴ありがとうございました。

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