公のために
上川陽子さんは、「私が私が」と言わない。法務大臣を三度、外務大臣、他にも党要職を務めてきた。人事の季節になると、政治家の猟官運動が噂にのぼり、時に報道もされるが、上川さんはそういう話とは無縁だ。かつて私が、麻生太郎さんと一度だけ二人きりで食事をした時に、麻生さんも同じことを言っていた。
落選期間も含めると、上川さんの政治活動は30年を超えるという。最初は女性国会議員も今よりもっと少なく、苦労が絶えなかっただろうし、少ないがゆえに注目されただろう。長い間、その時その時の職責を全うし続けることで、さまざまなものを積み重ねてこられたのではないかと思う。
今回の総裁選では、早くから総裁候補と話題になり、世論調査にも度々取り上げられたが、全く意欲を示すことなく、岸田さんが退陣を表明して「閣僚も志ある人は是非」と発言した後に、初めて自らの決意を表明した。その間、「自分がその任たり得るか自問自答していた」ということは前に書いた。
自分を出さず公を優先してきた上川さんが、今回は、公のために自分が公の場に出るべきと決断した。それを期待する世論、推薦人となる国会議員が集まったのは、ひとえに、30年間の政治活動の賜物ということに尽きる。
政治と無縁の家に生まれ育ち、数少ない女性政治家の一人として、30年間奮闘してきた政治家が総理になれば、初の女性総理であることをはじめ、日本の政治が自然に変わっていくと思えてならないのだ。