【非公式】君たちはNORAZO[ノラジョ]を知っているか
(ヘッダ画像は、こちらのツイートから拝借いたしました。https://x.com/NORAZO_JAPAN/status/1838775437285343502/photo/1)
はじめに
まずはこちらの3曲を聴いていただこう。
これらはすべて「NORAZO」と呼ばれる2人組の音楽グループが歌う楽曲だ。
…しかし、お気づきだろうか。動画のタイトル部分には「(JP Ver.)」とついている。
そう。彼らは日本人ではなく、主に「韓国」で活動している2人組である。
そして2024年の後半ごろにこういった日本語歌詞でのセルフカバーを始めたのである。『サイダー』を皮切りに『パン』を2作目、そして今年1月に『カレー』を3作目としてJP Verの展開を始めている。
一度聴いてみて、「なんだこの曲!?」と思った方も少なからずいるだろう。当noteではNORAZOの日本語歌詞版3曲に主なスポットを当てながら、彼らの楽曲について綴っていく。
ふざけた曲名
まず何といっても目に付くのは「サムネイル」や「楽曲名」だろう。
MVの方は今回日本語歌詞版をリリースするにあたって、改めて撮影されたものだ。
だが、楽曲名はそうではない。「原語の韓国語版」からすでにこのタイトルなのである。決して日本語版に乗じてウケ狙いをしたいわけではない。元からこうなのである。
そんな曲名だが聴いてみればめっちゃノリが良くて困る。何だこいつら。
まあ彼らのキャッチコピーから考えれば仕方のないことだ。
「どこに出しても恥ずかしい2人組アーティスト」
とか、MVに出てくるものをちょっと拝借すれば、
1回聞いても意味不明
2回聞いても意味不明
3回聞いたら中毒者
(意訳)
…と表現される程のキワモノなのだ。しばらくはそのふざけているような歌詞を聴くといい。「ああ、こいつらもともとそういうもんなんだ」と思うであろう。
JP Ver.における翻訳が秀逸
ちょっとした偏見かもしれないが、K-POPなどで起こりがちな「日本語に和訳した際に違和感が残る」現象がある。韓国語では良く起こりがちな気がする。別にそれが悪いと言い切るわけではないのだが、この辺は解釈が分かれると思う。
自分としてはその歌詞の内容の意味を言語からそのまま日本語にしたい一方で、キチンと韻を踏むような、きれいな歌詞にしたさがある。
しかし、NORAZOはとんでもないことをしでかした。
音に合わせに行ったのである。
決して原語版の意図を真っ向から否定する歌詞にした、というわけではない。原語版の音に合わせたうえで歌詞を丁寧にくみ取り、「日本語版の歌詞」として確立したのである。
冒頭2曲目の『パン』を例に挙げていこう。ここからはその曲を聞いた前提で話を進めるので、まだ聞いてない人は聞いてからここに戻ってきてほしい。(目次に小見出しがあるので、そこから戻ってくるといいだろう)
『パン』:「とうとうしっぽ出したな」
最初のパンラッシュは向こうの国ではアンパンも「タンパッパン」と言うらしいのでそれは伝わる。しかし、ここで韓国語による弊害が生じる。
「호빵[ホッパン]」や「모닝빵[モニンパン]」という言葉が韓国語にはある。
これらは日本語で言えば「あんまん」と「モーニングロール」のことだ。
まずい。このままだと翻訳できない。出来たとしてきっとゴロが悪くなる。いったいこれをどうやって…。
これがこうなる。
いやすごくね?どうなってんの?
特に後半の「アチメン トングルトングル」を音で拾って「アチーな こんがりこんがり」にするところが何とも言えない微妙さを出している。
次に、道中のこの歌詞。
サビ前にある。別にこの辺りは直訳しても日本語の意味が通りそうだ。
しかし、これをどう翻訳するか。それが翻訳者のセンスに掛かっている。
翻訳担当のヤツらに掛かれば以下の通りだ。
いやだからすごくね?何食ったらこんなの思いつくの?
決してアイドルソングで「すんません」なんて使うわけがない。
しかし、「NORAZO」ならどうだ。すでに「ふざけている」と宣言している奴らなら、むしろ妥当どころか完璧な翻訳というまである。
また、最後の「アンヌンダ」を「あるんだ」と音で落とし込んだうえ、
「長年の手作りの味は、僕たちを裏切らない」という意味を「美味しすぎるものが出来る、魔法のレシピがある」と意訳し、日本語に落とし込むのはまさにプロの犯行である。
極めつけはサビの最後だ。
この辺りも素直に落とし込めば日本語歌詞として成立するだろう。基本的に韓国語特有の語彙もない。
これを、プロの犯行チームはこうしてきた。
もはや何も言うまい。
そう。原語版に「味噌汁」も「米派のお嬢ちゃん」も登場しないのである。
にもかかわらず、この日本語歌詞に突如として出てくるのである。
何と、日本語版を制作するにあたって向こうから歩み寄ってきたのである。
パンが「よく噛んで食べればすうっととろける」のは周知の事実である。ではどうするか、そんなときにこの歌詞だ。音を取って「嫌なの!私、朝はご飯がいいの!」といいはるフレッシュなレディを炙りだす歌詞に変えたのである。
当然、「ノムタラ」という音は「飲むなら」に置き換えられ、元々の意味をそのまま、韻合わせにも成功している。
ちなみにコーヒーが消えているがこちらは2番に登場する。
余談だが、米派のお嬢ちゃんを炙りだした後どうするのだろう。
日本語版の歌詞では、シャンパンを開けて祝福している。
米派のお嬢ちゃんの勧誘に成功してそれの歓迎パーティでもしているのだろうか。
しかし、原語版では以下のようにサビが終わる。
言わずもがな、「007」とはあの有名なアイツである。ジェームス・ボンドである。秘密情報部のエージェントである。
「コンゴンチル」というのは漢字に直せばどうやら「空空七」ということらしいので、この表記になるのも納得できる。
しかし、彼は(wikipediaによると)コーヒー派である。紅茶を「泥水」と言い張るくらい紅茶嫌いなのである。
つまり、朝ご飯のドリンクとしてコーヒーだといった後、うっかり誰かが「何言ってんの!?米にコーヒーなんて合うわけないじゃない!」と言ってしまい、007に狙われる一部始終だった…ということだ。
日本語ではそれをマイルドにするため、シャンパンでごまかしているが、それはシャンパンの音ではなく、007が発砲した音だった…ということだろう。
…
何を言っているんだ私は。
『カレー』:あえて音を取りに行く日本語歌詞
続いて、3つ目のリリースされたばかりの『カレー』だ。
こちらも翻訳に癖があるが、特に音をメインにした翻訳が多い。
まずは冒頭のこの部分。ここでは音というより、韓国語の言い回しに注目してほしい。
韓国語における「二人食べて一人が死んでも気づかないくらい美味しい」というのは、いわゆることわざだ。日本語で言うなら「ほっぺたが落ちるくらい美味しい」ということ。決して毒が入っていたとかそんな「え、今日はカレー食っていいのか!」みたいな話ではない。安心してほしい。
さて、これの日本語歌詞はどうなったか…と言えばこうである。
もはや「ほっぺた落ちちゃう」とかどうでもいいのである。口の中がもうカレーなのである。
と、ここだけを見た人はきっとこう思うだろう。「食ってるんだからそりゃカレーになって当然だろ?」と。
実は原語版と日本語版では1番の展開がかなり変わっている。
原語版ではすでにカレーを作り始めている。何なら今挙げた歌詞の後に、「食べろ、Right now!」とかいう意味の歌詞が来ているので、もうこの時点で出来ちゃっているのである。早すぎる。
しかし、日本語版は聴いていただいた通り、「空腹な状態でカレー店をみつけ、その後行列に並ぶ」というシーンになっている。
つまり、なんと日本語版では「まだカレーにありつけていない」のである。
その状態で「口の中がカレー」になっているうえ、行列ができている。それも坂を上がった曲がり角という(おそらく)マイナーなスポットでだ。「相当旨いに違いない!」と踏んだカレー大好きの主人公が目に浮かんでこないだろうか。
サビの部分も目を見張るものがある。例えば原語版。
「シャンティ」というのは、どうやらサンスクリット語で「平和」とかそういう意味があるらしい。その割に「ヨガファイヤー」で攻撃してくるのはいかがなものか。さて、ざっくりいえば「おいしい」という意味の「シャンティ」だが、これをプロはどう訳すか。こうである。
「おいてぃー」である。つまり、「シャンティ」と「おいしい」の中間をとったわけである。自分なら絶対に「おいしい」としていたところである。
このセンスを評価したいと、私は言いたいのである。
で、こっそり「365」のあたりもセンスが光っていると思われる。原語版では「ハットゥゴウン」という音に近づけて「毎日」を意味する言葉にする際にうってつけだ。「一年中」や「年中無休」でも良かったところを、音を取るためにわざと「365」にしたのではなかろうか。
もっと度肝を抜かれたのはこの部分だ。
今回はいきなり日本語歌詞を魅せよう。これだ。
え?と思っただろう。「パリパリチキン」が「パサパサチキン」になっている。そう。「パリパリチキンカレー」としていいところを、わざと「パサパサチキン」としたのである。
現にこの世には「パリパリチキンカレー」というものは存在する。もっと言えばそういうメニューがカレーチェーンでは超有名なCoCo壱番屋が販売している。画像を見る限りとてもおいしそうだ。
一方で「パサパサチキン」というのはあまりいい印象を持たれない。あの『学園アイドルマスター』の月村手毬が大激怒するレベルだ。(以下参照。)
なぜ、「パサパサチキン」のまま行ったのか。
多分、原語版の対比の幅が日本語版でワイドになっているからであろう。
原語版はこのフレーズの中だけで「パリチキカレー」と「即席(レトルト)カレー」を対比しているのだろう。
日本語版はどうだ。この歌詞は2番にのみ出てくる。あら不思議、1番でめっちゃうまそうなカレーが出てくるじゃないか!
つまり、2番でこの「パサチキカレー」と「即席(レトルト)熟成カレー」と対比しているのである。多分。
おそらく「ちょっとミスをしたってカレーは上手いんだよ!おら食えよ!」みたいなことを言いたいんだと思われる。多分。
あるいは、この熟成カレーとは、もしかしたら「2日目のカレー」のことを指しているのかもしれない。
日本では「1日寝かせるとカレーは上手くなる」という話をよく聞くが、恐らくそれのことだろうか。「あっちゅーまの熟成」、つまり「短期間寝かせる」という意味ならそれが成立する。医学的には少し危険だが確かにうまいのである。
いずれにせよ、このセンスは評価されるべきではないだろうか。
そして日本語版ではもう明らかに原語版を無視した歌詞が出てくる。『パン』の例にもれず、だ。もともとはこういう歌詞だ。
これが日本語版になるとこうなる。
もはやカレーでなくていい。肉じゃがでもいい。しかしカレーでも起こりがちなありがた~い近隣トラブルである。下手な作り方さえしなければ、カレーと言うのは基本的にうまいのである。辛さの好みはあるとはいえ、嬉しい事故である。
余談だが、「Thank you!」の韓国語が2つあることに気づいただろうか。
「テンキュ」も「セニュ」もどちらも「Thank you」であり、特に細かな差はなさそうだ。わざわざこの違いを日本語版でもやるあたり、いかに音に寄せているか分かるだろう。
『サイダー』:JPVerデビューを華々しく飾った一曲
さて、お待ちかね『サイダー』のターンだ。この曲がJP Ver.1曲目となり、これについては韓国どころか日本のNORAZOファンが興味を示し、「とうとうしっぽ出したな」と言わんばかりにぞろぞろと集まってきた。
もちろん、3曲目まで続いているのはこの曲によるビッグヒットがあったわけで、もしこれが下火なら今頃どうなっていたか分からない。
…現に私はJP ver.が来る前から『サイダー』を知っていたし、個人的に翻訳しやすくて自分で日本語歌詞をこっそり作っていたぐらいだ。
だが、素人がやるよりプロがやるべきだ、と思い知らされ、初めて聞いたときには「日本語でもNORAZOのセンスは衰えないのか…!」と感動した記憶がある。
まずは冒頭のこの部分をご覧頂こう。
序盤の「メッキョ」を何度も繰り返す場所だ。これに関して当時の自分は確か「ゴクゴク」とか結構飲んでる感じに訳してしまったのを覚えている。
さて、日本語版はどうだろう。
音をそのまま「めちゃ」と訳している。これには理由があって、この前にはお餅をたくさん食べようみたいな歌詞がくる。その途中で「うっ…」と喉を詰まらせてしまったのだろう。そんなときのサイダーだ。
この翻訳は初めて聞いたときに感動した。「もうこれ原語版ほとんどまんまじゃん!」と思い、NORAZOの日本語版が今後あったとしても、この翻訳のメンバーなら絶対にうまくいくと確信したほどだ。
もちろん今回がたまたまうまくいっただけかもしれないと思いもしたが、それは杞憂できれいな翻訳を生みだしている。
次の翻訳はおそらく現地のあるあるなのだろうか。こんな歌詞が飛んでくる。
言うなら日本でいうところの「水筒にこっそりジュース入れる」的なものだろうか。この辺りは現地で「あるある~」なのか「そんなワケねぇだろ!」のどちらかではあると思われる。そりゃそうだ。
さて、これを日本語版ではこう落す。
わかる~~~~~~~~~!
ということは、海苔巻きとサイダーはよくあることなのだろうか。それはさておき、この歌詞の言いたいことも十分わかる。ポテチとはジャンキーなスナック菓子の代表格だ。それに合わせるものといったら、大抵の人はこういう甘ったるいジュースを思い浮かべるだろう。コーラ派の人もいるだろうが、少なくとも「サイダー+ポテチ」のマッチングが失敗するわけがない、という点までは共通認識だろう。
次の部分は、彼らの歌唱に一工夫添えてある。まずは対象の部分を確認しよう。
サツマイモ、というのは「もどかしい」という意味だそうで。
さて、これに関してどう日本語訳するか。以下の通りだ。
実はこの歌詞、「良い」の部分は歌唱では「ええ」と訛ったような発音になっている。それにより「トゥラマディエ」と見事に音が被っている。
その後の「トップスター」も1つ前の部分で「超不満」と韻を踏んでおり、きれいな和訳に成功しているといえよう。
_ところで、韓国語で「サイダー」とは単に飲み物を指すわけではなさそうだ。
上記の通り、もどかしい状況がすっかり解決したことを意味する。今回の日本語歌詞では、この点は強く考慮はされていなさそうだ。あくまで「飲料としての」サイダーを考慮している。
ただ、後者の「関係を意味する」部分はどうだ。
これをさすがに「サイダー」と言い張るのは無理がある。
実際、自分のド素人翻訳では「君が大好きなのさ~」と訳していたが、今回はこうなったようだ。
キチンと意味を変えて「my love」としている。語感を踏みながら翻訳することは大変だっただろう。素敵な翻訳だ。
まだまだ期待できる、JP Ver.の今後の予想
以上、3曲の日本語歌詞と原語の歌詞の対比を見てもらった。
今後も展開されるのが楽しみである。
展開されるとしてどんな曲が来るだろう?個人的には『野菜』とか『シャワー』とかは来てほしさがある。
『野菜』は自分をNORAZOにハマらせるきっかけの楽曲だ。SNSで誰かが動画を流した時、「なんだこれは!?」と思い、つい何度も聴いてしまった。それこそが自分がNORAZOファンとなるルーツであった。
ぜひとも彼らの今後の展開から目を離さないでほしい。