内宇宙へようこそ。

【ちょっと前に書いたSFっぽい何かが書きかけになっていたのでおろしてみます。続編はもうほとんど設定忘れちゃっていたので書かないと思います。】

「…」
"揺りかご"は、宇宙を、ただ、揺蕩う。
生存領域が地球でなくなった今、宇宙に出ることは何ら不思議では無い。
宇宙を切り分け、国家の監視に置かれた中を、自由に遊泳しているだけのことだ。
「あ、あのぅ…」
「なんだ。」
「やっぱ、怒ってます…?」
「何が。」
「その…」
「あいつか。」
「へい…」
人々が専ら"船"と呼ぶ揺りかごの中で、その主と子分とが話し合っていた。
「別に。」
「そ、それなら…!」
「お前らがヘマをしない限りな。」
「…へい。」
太陽を中心として、30天文単位。「外宇宙」と呼ばれる、政府の監視のない不自由な領域まで、あと5。
その周回軌道上を、船はぐるぐると回るのだった。

_地球がもはや生命が生きるに足らぬ今、人々は生活圏を宇宙へと移している。しかし、宇宙は「無限の彼方」という言葉が似合うほどに、ただ広く、切り分けるには不可能で勿体ない。
そういう理由で、地球が滅ぶ寸前に、各国家は全ての争いを放棄し、2600年以上の歴史の中で初めて1つになった。
かつて領地を争ったように、宇宙の切り分けもそう上手くは行かなかった。
聖人君子が集まりパイを切り分けるように正しく行われたところもあれば、
ならず者が集まりパイを争うように、今も尚揉めながらその空間を貪っているところもある。
ただ1つ、全ての国家が全会一致で出した答え。それは、「内宇宙」と「外宇宙」の切り分けだった。
先に理っておくが、ここでいう「天文単位」は地球から太陽までの距離のことを指す。
太陽系を元に、太陽を中心として、半径0.5から35天文単位の仮想的な球体空間を「内宇宙」とした。ここなら政府の目が届き、たとえ船が破壊されそうになっても保証を受けられる。それより外側やさらに内側は「外宇宙」とされ、その領域では一切政府は関与しないと定めたのだ。
そして今。この"船"もまた、その内宇宙を漂っている1つなのだ。

「…いいか、引き取っちまった以上、この船の長である俺とお前らに責任が生じる。それだけは忘れんなよ。」
かつての海軍将校のような帽子とコートを身につけ、計器に目を配りながら、専用席にリーダーは陣取っていた。
「わ、分かってますって。ただ…」
「ただ?」
「船長が引き取れって言ったのでは…?」
「…だから言ってるだろ。『俺』にも責任が生じるって。」
「え、ええ、まあ。」
「お前らが面倒見てれば何とかなるはずだ。自動医療シーケンスも動いてる。俺はそれだけの見込みがあって引き取ったんだ。」
「…」
「無計画なわけじゃねぇ。ちゃんとこっちは考えてやってるんだ。」
「了解しやした…。」
とぼとぼと、かつてワニだった2足歩行の子分は、自室に戻ろうとする。
そんな時だった。
「あ、おつかれさまです~。」
「あ、どうも…」
「どしたんです、ルーダさん?そんな浮かない顔して。」
「…バルちゃん、あの子を医療グリッドに置いてきちゃっていいの?君の担当じゃなかったっけ?」
「あ、もう大丈夫ですよ。蘇生シーケンス終わって、もう容態安定シーケンス始まってますから。」
「ほ、ホントに?ああ、良かった…」

_地球が生命維持に不適切となった今、様々な生物はどうにかして形を変え、"船"の環境で生きられるように突然変異する手段を取った。
…最も、物好きな学者たちが動物と人間のハーフを生み出し、エゴによって全て2足歩行に遺伝子を組み換えただけなのだが。

さっきから力無さそうにしているワニの生き物はルーダと呼ばれる船員だ。
といっても、もはやワニらしいところは、その肌の質感にしか残っていない、色や見た目や体格や顔つきまで、全て中年男性の人間のそれでしかない。…いや、髪は緑色か。
そして、医療グリッド;古典で言えば学校の保健室みたいなものに先程までいたバルは、猫と人間のハーフだ。
ただし、猫らしいところは猫耳しか残っていない。人間の耳がないこと以外は、ただの普通の若々しい女性だ。白いショートヘアが余計にそれを演出してくれる。

そして肝心のリーダーは。

「しかし、まさかビヨンドでしたか…」
「へ?この地域でビヨンドだとなにかまずいんですか?」
「んー…まずいことは無いんだけど、この地域にいることが珍しいんだよ。」
「そうなんですか?」
「…ルーダの言う通り、『ビヨンド』と呼ばれる強化人間は大抵地球の辺りにいる。遠くに出るやつは滅多に居ない。」
「どうしてなんですか?」
「地球を脱出する時、前もって政府が決めたんだ。初めは15天文単位以内にいるべきだってな。」
「…でも、その限定期間が長くて、結局ビヨンドはその制限領域で満足しちゃったんだよね。」
「ふーん…。」

_人間は人間で独自の発展を遂げ、『ビヨンド』と呼ばれる強化人間を新たな種族名にした。
全ての生物が2足歩行になった今、「人間」は全種族の指示語でしかなくなり、君たちを指す言葉ではなくなったのだ。

「純粋な人間って、つまんないですね。」
「…そうか?」
「世界のたった半分で満足しちゃおうなんて、勿体ないんじゃないですか?」
「…探検するかどうかの権利はビヨンドにだってあるだろうが。」
「まあそうですけど…。」
「ビヨンドが皆そうだとしたら、この船がその制限を超えることの説明がつかないだろうが。」
「…。」
リーダーとバルの間に、元ワニが割って入る。
「ま、まあ、その話はこの辺で…。はい…。」
「…」
船の中には、ただ、スラスターエンジンの轟音が静かに響くだけだった。

_医療グリッドで目を瞑りながら、回復を待つ少女がいる。それは、ルーダが見つけたアラートがきっかけだった。
「あれ…?このシグナルは?」
「…デッド・クレードル・シグナル、だな。」
「あらら、可哀想に…。宇宙に出ても蛮族は居るもんですねぇ。」
「…」
「リーダー、これ見に行きませんか…?」
「…どうして?」
「…なんか、この宙域じゃ見ない船なんですよね、なんて言うか…ハイ…」
「…分かった。」
リーダーは自動操縦のルートをセットし直して、見つけた難破船へ向かうことにした。
「…ルート設定完了。」
「ありがとうございます。」
…到着まで時間はそうかからなかった。
「…なんか見えるか?」
「…これは…1人乗りの船で…かなり初期型ですねぇ。」
「初期型?ここまで来るのに?」
「多分、都市型のクレードル、『コロニー』を転々としてきたんじゃないですかね。」
「ふぅん…。」
「可哀想に…でも、世界は、いや、宇宙は非情なも_
「連れて帰るか?」
「…はい?」
「…そんなにいうなら連れて帰ってやればいいじゃねぇか。」
「いや、しかし…いいんですか?」
「それはお前の判断次第だろ。好きにするといい。」
「はあ…。ですが。」
「何なに?何の話ですか?」
「あ、バルちゃん、実はですね、かくかくしかじかということがありましてね。」
「うん。いいんじゃないですか?」
「ですよね…ってはいぃ!?」
「だって、この船、私しかメスいませんよ?」
「そ、それがどうかしましたか…?」
「それ!」
「え、えぇ?」
「この船には華がなさすぎます。私だってメスの友人が欲しいです!」
「私はリーダーと『友人』っていうか『主従関係』なんですからね!?分かってます!?」
「知りません!あと、医療グリッドあるんだから何とかなりますよね!」
「は、はあぁ。と言っておりますが、リーダー?」
「…じゃあ、メスのビヨンドだったら引き取るか。」
「ま、まぁそれなら私も構いませんが…。」

少し過去の話を思い起こし、リーダーとルーダが話し合う。バルは既に医療グリッドに戻っていた。
「よく考えたら、リーダーがより悪い気がしてきましたよ…。あそこまで種族を正確に言い当てるの、あのタイミングじゃなきゃ褒めてましたよ。」
「…言っとくが、その賭けに乗ったのはお前だからな?それを忘れるなよ?」
「分かってます!分かってますってば。まあそれにしても…」
「それにしても?」
「あの船、損傷がかなり酷かったですね、生きてるのが不思議なくらいです。」
「…この宙域は、蛮族が多いからな。確かに生きているのは奇跡と言えるな。」
「いや、にしては蛮族に攻撃を加えられたとしたら、この地域の特性に合わないんです。」
「…どういうことだ?」
「ここの蛮族は『破壊衝動』を満たすために動いてます。途中で破壊行為を止めますかね?」
「さあ?途中で飽きたんじゃないのか?」
「蛮族ってそんな諦め悪いんですか…?」
「例えば、その瞬間に持ってた弾薬を全て使い切って諦めた可能性もある。」
「この時代に?」
「考えてみろ。ここは30天文単位離れた場所だ。そうなると、ここで太陽光をパワーにしたエネルギー弾は適さない。」
「…へい。」
「であれば、この地域は前もって用意した銃弾とかで破壊行為をする蛮族が多いと考えるべきだ。」
「まあ、そうですが…」

その時、医療グリッドの方からまたバルが駆け寄ってきた。

「大変です大変です大変です〜!」
「ああ、バルちゃん、どうしたんですか。」
「な、何とか息を吹き戻したんですけど…」
「けど?」
「記憶、ないみたいです。」
「記憶が…ない?」
「はい。」
「記憶喪失ってことですかぁ!?」
「はい!」

リーダーも含め、3人は医療グリッドの中へと立ち入る。
青髪の少女が医療用のベッドの上で、「目覚めているのを」確認した。

_続き書くかは知らない。

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