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起業の経済学

(1)はじめに
Happy Halloween!!
朝起きて、冬の訪れを感じるこの季節が一番好きです。私は9月生まれなので、秋は性に合ってるんですね。
そんな10月末は、経済学的観点から私の起業を考察してみます。
最近、大学生を含む若い方から起業や就活について尋ねられるという、嬉しさ半分・責任半分の案件がしばしば発生しているので、意思決定のうえで考えていたことをまとめておくことにしました。今回の想定読者は大学生や転職・起業を検討している20〜30代の社会人です。
私は学生時代、計量経済学(統計学+経済学)が専門でしたが、土台になる数学、ミクロ経済学、マクロ経済学、ゲーム理論も一通り学んでいました。
実は、海外大学院で Ph.D を取得して研究者になることも検討していたので就職後も貯蓄と勉強を続けていたんです。
(幸い?)その貯蓄が起業資金として投下されることになります 笑

(2)起業の経済学的費用
まず初めに、起業のコストについて考えてみましょう。
皆さんは、機会費用(Opportunity Cost)という言葉をご存知でしょうか?
「ある選択をしたことで(もしくはしなかったことで)、得られなかった効用や便益」というものです。効用や便益は単にお金に限らないところがポイントです。
私の場合、年収430万円で沖縄振興開発金融公庫を退職しました。所得税・住民税・社会保険料などを差し引いた可処分所得(実際に自分が使えるお金)は280万円〜300万円くらいだったので、起業の機会費用はざっくり300万円弱(起業したことで増えなかった現預金)かと言えます。
より厳密に算出するなら、来年・再来年・・10年後・・定年までの可処分所得と退職金の現在割引価値の総和(つまりDiscounted Cash Flow 法)ですが、割引くレート(この場合は10年物国債金利)や税金・社会保険料を予測して「得か・損か」を計算しちゃうマインドならまだ起業山に入山するべきではないでしょう。
ただ、起業することで何を得られるかはやってみないと分からない一方、起業することで失うものはある程度把握できます。起業で失うものは、既に今持っているか、近い将来確実に得られるものだからです。
なので、起業の機会費用は緻密に将来予測を計算するというより、「ある程度予測できる範囲の整理」レベルで確認するのがオススメです。
私もざっと書いていった覚えがありますが、一番大きな機会費用に感じたのは年収とかではなく肩書きでした。安定した職業を合コンとかで言えないのはなぁ、なんてアホみたいなことをふと思ったんです。
いざ起業すると誘われた合コンを全て断るほど忙しくも充実した日々を過ごせているのでその機会費用(=肩書きを失う)は無問題でした。
自分でも驚くくらい、脱サラに対する不安はその程度だったんです。

(3)ゲーム理論(ミニマックス定理)
会社に退職意思を伝えたのは去年の10月31日(月)でした。思い出のハロウィーンです。その後、複数回の退職面談では賃金カーブ(40歳から旨みが出る)や退職金(約2,500万円?)の話もあり慰留されましたが、これも起業することで失う将来の便益という点で小さくない機会費用に見えます。しかし、当時の私は機会費用より別の観点から「脱サラ・起業」を考えていました。それが、ゲーム理論のミニマックス定理です。
有名なジョン・フォン・ノイマンが想起し、こちらも有名なジョン・ナッシュが「ナッシュ均衡」として一般化したゲーム理論の一つです。
ミニマックス定理を噛み砕いて説明すると、自分が複数の選択肢から一つを選ぶ時、各選択肢の損失が最大(マキシマム)なもの同士を比較して、その中から最小(ミニマム)の選択肢をとる行動原理をいいます(*)。
初見だと3回読んでも意味不明だと思うので、私のケースを見てみましょう。選択肢は、
・選択肢1)サラリーマンを続ける
・選択肢2)脱サラして起業する
選択肢の損失は、
・選択肢1の損失)4点セット(年功序列・終身雇用・前例踏襲主義・マニュアル至上主義)が体質に合わなくなり、65歳まで人生の意義を仕事に見出せなくなる。ずっとやりたかった起業に挑戦するタイミングを失い、「やらなかった後悔」として死ぬ間際の走馬灯を埋め尽くす。
・選択肢2の損失)頑張って貯めた貯金が消え、県内トップクラスの給与と肩書きを捨て、家族や友人と過ごす時間とお金を失い、若くして自己破産を経験し、貧困に喘ぐ老後を過ごして一人寂しく余生を終える。

この様に、いずれの選択肢でも「悲惨な人生を送る」と悲観的に仮定し、その悲惨な人生のうちどちらが「まだマシか」を検討する意思決定方法と言えます。
私は選択肢2の悲惨な人生の方が「まだマシ」だと思ったので脱サラ・起業の道に自信を持って進めました。
尚、私の場合は結果的にそうなりましたが、単に「やらない後悔より、やる後悔」という考え方ではないのでご注意ください。
経済学というよりむしろ人生哲学のような気もしてきますが、どっちでもいいですね。少なくとも、学術的に確立された経済学の理論を重要な意思決定の精神的支柱にできている私は幸せです。ありがとう、琉大。

(*)反対に、マクシミン定理は自分が複数の選択肢から一つを選ぶ時、各選択肢の利得が最小(ミニマム)なもの同士を比較して、その中から最大(マキシマム)の選択肢をとる行動原理をいいます。

(4)埋没費用(サンクコスト)にしない
こうして、直感的にも理論的にも自分なりに納得感を持って脱サラ・起業できましたが、私が自分自身とした約束があります。
それは「起業に投下するリソースを、埋没費用にしない」というものです。
埋没費用(Sunk Cost)は、サンクコストの呼び名で知られています。
とある事業に投下したリソースが、やむなく事業を撤退する時に会計上の費用になる(BS借方の資産 → PL借方の費用に変わる)ため、投下資本が大きいほど損失額(=サンクコスト)も大きくなります。重いサンクコストが「損切りできない」心理的足枷になるというものです。
行動経済学の理論にも似ているのかな?(例:100万円を得るプラスの効用より、100万円を失うマイナスの効用の絶対値の方が大きい)。
私の場合、ユアトリー株式会社がうまくいかなくても(=上述した選択肢2の悲観的状態)になっても、無形資産(=起業しないと得られなかった経験や人脈)を得たとポジティブに捉え、将来の人生に意地でも活かしていくんだという信念のようなものです。
「失敗してもいいや」では決してなく、「失敗してもどうにかなる、どうにかする」と、都合よく考えて自分を納得させないと怖くて前に進めなかったという方が適切な表現かもしれません。
脱サラは全然怖くないんですが、毎月の銀行返済に頭を悩ませたり、自分を信じてくれたチームのメンバーや投資家の期待を裏切る不安は経験したことのない怖さだと思います。
それでも、全てひっくるめて「起業して正解だったな」と言えるためにはもう、ただひたすら走り続けるしかないんだと思います。

(5)大学とは何か
せっかくの機会なので最後に少し寄り道させてください。私が思う大学ついて、学生の皆さんに共有したいんです。
まず大前提として、学生生活は貴重です。
・文科省や大学単体の学費免除
・日本学生支援機構の奨学金
・沖縄公庫や日本公庫の教育ローン
などはフル活用し、「学費のためにアルバイト漬け」という本末転倒には十分注意する必要があります(*)。
勉学に励むのはもちろん、友人らと旅行したりフットサルをすることが社会人になってからは意外と難しいんです(何かをすることの「機会費用」が学生時代より高くなっているため)。
ここで言う「勉学」ですが「授業に出席する + テスト対策を行う = GPA を高くする」という意味では必ずしもありません。
社会人になってからも活きる知見をインプットしておくという意味です。
英語・簿記・プログラミング、そしてあなたの専門科目などがあげられるでしょう。
私は英語・経済学・プログラミング・日経新聞の4つにのめり込んでいました。大学の講義を「今日の日経朝刊を読むより価値があるか」を基準に選別するという意味不明なこともしていました。ほとんどの講義でそれ程の価値は感じられなかったのに、大卒の学歴が至る所で求められる社会にはなんとも言えない感覚を覚えます。というのも、図書館や家で一人黙々と吸収した知識の方が今になって効果が発揮されているためです。
そのことからも、私が学生生活を通して確信したことは、大学は勉強を教えてもらう場所ではなく、自ら学ぶものを探求する機会が与えられた場所だということです。これは大学2年の後期に薄々感じるようになり、後半の学生生活が充実するきっかになりました。なのでこれを読んでいる大学生には、起業家志望でも公務員志望でも関係なく、受動的な学びの場としての大学に存在価値はないものの、能動的な学びの場として活用できるかどうかもあなたの思考次第だと認識して頂きたいです。

(*)スタートアップやメガベンチャーでのインターンはこの限りではなく、普通のサラリーマンやアルバイトより遥かにいい質の学びが得られるはずです。

(6)おわりに
今月も最後までお読み頂きありがとうございました。
経済学は基本的に数式ばっかりですが、「要は何を言ってるか」はシンプルなので興味深い学問です。
とっつきにくい方はジョン・ナッシュの生涯を描いた名作「ビューティフル・マインド」から鑑賞してみて下さい!
11月も頑張りましょう!!!!!!!!!!!^-^

ユアトリー株式会社 CEO
上原 宇行

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