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首里の寄り道

かなこ(93年生まれ 那覇市首里出身)

 「おーい、早く帰ってよ~!」
 放課後、校庭で遊ぶ子どもたちに毎日のように声をかける。心の中では『たくさん自分勝手に遊べ~』と叫びながら。

 私は、小学校の先生をしている。

 みなさんの小学生の頃はどんな放課後を過ごしていたのだろう。近頃は、放課後のトラブルに対する責任を誰が負うのかなんたら~で、“児童は帰りの会が終わり次第、まっすぐお家に帰りましょう”という決まりのある学校がほとんどだ。

 この決まりができた背景に納得しながらも、放課後指導をする度に私の脳内に流れるのは、寄り道の良き思い出たち。私は、子ども時代を首里という町でのびのびと過ごした。
 ランドセルを教室に忘れてきてしまうほど、放課後の“寄り道”を楽しみにしていた。

 そんな私の“首里の寄り道”を紹介していきたいと思う。(教え子にこのコラムを見られないようにと願いながら)

1.りゅうたん池

 通っていた小学校の目の前にある、1427年に造られたらしい人工の池。
 小学校の授業でもここで釣りをした記憶がうっすらとあるが、今もその頃も子どもだけで池の敷地内に入ることは禁止されていたはず。教員になった今、池に落ちてしまう危険性や用具の準備、管理人への連絡相談などの膨大な仕事量を思うと、当時の先生方の熱意には頭が上がらない。

 りゅうたん池は、歴史ある美しい外観で、一歩入ればその時代にタイムスリップすることができる。子どもの冒険心をくすぐること間違いなしだ。

 バリケンや鯉たちを横目に、木が生い茂った石畳の遊歩道をずんずんと進み、池のほとりの飛び石を飛んで渡る。アーチ門をよじ登ってアーチの中に入り、その先に見える弁財天堂を眺めた。
 私だけの秘密基地のような、安心する、お気に入りの場所だった。

2.伊江澱内庭園(イエドゥンチテイエン)

 私の大のお気に入りの場所。ここでごっこ遊びをするのが大好きだった。
 石灰岩で造られた階段や小さい橋がまるでお城のよう。子どもの頃の私の想像力を最大限に引き出してくれて、友だちと自分たちで作り上げた架空のキャラなど何者かになりきって遊ぶのは至福の時だった。

 大人になってからふと思い出し調べてみると、なんとまぁ、国指定文化財。製造年代は不明だが、1800年頃に造られた琉球様式の庭園だそう。グーグルマップで確認すると、今は整備のためにフェンスが建てられている。

 こんな重要な文化財によじ登って遊んでいたなんて罰が当たりそうだ。この庭園を造った昔の偉い人もびっくりだった思うが、平成生まれの小学生たちの憩いの場になっていた。

3.観光客との絡み

 放課後の過ごし方として定番だったのは、観光客と絡むこと。(向こうからしたらうざ絡みだったかもしれない。)
 修学旅行中の内地の高校生に「かっこいい!」「かっこよくない!」と格付けしたり(とても失礼)、道に迷っていそうな観光客に道案内をしたりした。

 “知らない人について行かない”──今も昔も言われることだが、“知らない人に、ついて来てもらっていた”私たち。
 ほんと、「何してるの」と突っ込みたくなるが、大好きな私たちの町を紹介したくてたまらなかったのだろう。

 そういえば、先に紹介したりゅうたん池も案内したことがある。
 私たちについて来てくれた優しいご夫婦は上等カメラを持っていて、私たちの写真も撮ってくれた。写真を現像したら送ってくれるということで、住所を教えた。もしかしたら、私たちが送ってくれと頼んだのかもしれない。

 後日、お手紙と共に写真が友達の家に送られてきた。当たり前だが、大人たちは大慌て。知らない人と放課後を過ごし、写真を撮り、住所まで教えたのだから。
 幸いご夫婦はとてもいい人で、手紙にも私たちが道案内をしたことや楽しい時間を過ごせたこと、名前や住所などの個人情報は破棄することも丁寧に書かれていた。

 大人はひやひやする行動だったと思うが、心配してくれた先生や保護者も含めて、人の優しさに触れる良い経験になった。

 首里の町は首里城復興にも動きだし、コロナ渦を経てまた活気づいてきたように思う。その背景には、たくさんの大人たちの努力があったに違いない。観光地としての課題も山ほどあるだろう。
 しかし、私の頭の中に溢れてくるのは、「首里に住んでいる子どもたちは、首里の町を満喫できているのだろうか」という思いだ。

 学校と家庭と地域の輪の中ですくすくと育ってきた私は、今、そのつながりの弱さから来る問題を教育現場でひしひしと感じている。首里に限らず、子どもたちは自分の住んでいる地域を楽しめているのだろうか。

 ふと、そんな大きいテーマを考えたり考えなかったりしながら、今朝の涼しい空気から秋を感じ、「あ、もうすぐ首里文化祭じゃん」とまた首里の思い出にふけるのだった。

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