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観客が育てる沖縄お笑い!次はあなただ〜「沖縄って面白い」開催レポート!〜

安里和哲(90年生まれ 豊見城市出身)

芸人の一声に救われる

 お笑い芸人と一緒に、観客の前で喋る。そんなの緊張するに決まっている。まさか自分がその緊張を味わうことになるとは、思いもしなかった。

 9月7日、那覇市でトークイベント「沖縄って面白い」を開催した。沖縄出身の芸人を招き、「沖縄お笑い」について語ってもらったこのイベントに、僕は司会として登壇した。ふだん、東京でフリーライターとして、文化・芸能を中心に取材・執筆している。中でも、お笑い芸人への取材を重ねてきた。

 東京でお笑いの最前線を見ていて、故郷・沖縄のお笑い文化のうねりに、ふと気づいた。今、沖縄のお笑いが盛り上がりつつあるのでは、と。

 そんな予感だけを頼りに、「あなたの沖縄」ZINE Vol.2では、沖縄お笑いを特集を行った。県出身芸人へのインタビューや、「あなたの沖縄」メンバーへの聞き取り、コラム執筆などを通して、沖縄お笑いの魅力とポテンシャルに迫った。

 その特集は、沖縄お笑いの魅力を伝えることには成功したと思うが、残念ながらそれだけでは、沖縄お笑いの“今”を知ることはできなかった。そこで今回、「あなたの沖縄」主催のもと、トークイベントを開催させてもらったのだった。若手芸人たちの生の声を通して、沖縄お笑いの最前線に迫りたかった。

 イベント冒頭、芸人たちを呼び込む前に、僕はひとりでイベントの趣旨を説明する。視線を一身に浴びると、緊張する。小さな声で、しどろもどろになる。なんとか喋り終え、ようやく芸人たちを呼びこんだ。

 芸人たちがステージに上がるまでのわずかな時間、自分のさえない喋りに気落ちしていた。こんなに緊張していて、イベントを無事終えられるのだろうか。先が思いやられる。すっかり意気消沈しているところに、「どうもーっ!」と、バカでかい声が轟く。声の主は、登壇者のひとりである首里のすけさん(しんとすけ)だ。その底抜けの明るい声に、思わず顔を上げて笑ってしまった。

 首里のすけさんが「こんなに暗い前説、はじめて聞きました!」と言うと、僕の説明で白けかけていた会場の空気が一気にゆるみ、爆笑が起こった。救われた、と思った。

 ライターとして数多くの芸人を取材してきたが、「芸人は、すごい」とほんとうの意味で実感したのは、この瞬間が初めてだった。たった一言で、会場の空気を一変させる。これが芸人の力なんだ。

沖縄お笑いの星座を見つけたい

 イベントレポートに移る前に、今の沖縄お笑いの現状を、少し説明したい。

 今、沖縄出身の芸人たちが、県内外で活躍している。出世株の筆頭は、ありんくりんだろう。

 方言と琉球芸能を駆使した漫才やコントはもちろん、沖縄の市井の人々をまねたキャラクター芸も絶品。最近はテレビ番組『千鳥のクセスゴ!』への出演や、友近とのコラボでも注目を集める。ガレッジセール、スリムクラブに続いて、沖縄芸人のトップランナーになりそうだ。

 ほかにも、芸歴2年の姉妹コンビの梵天は、『女芸人No.1決定戦 THE W 2023』で決勝進出。芸歴20年を超えるハンジロウも『THE SECOND 〜漫才トーナメント〜』でファイナリストとなった。沖縄芸人たちは今、全国的な活躍をしはじめている。

 県外を拠点にする沖縄出身の芸人が活躍する一方で、県内の動きも見逃せない。沖縄には地元発のお笑い事務所が2つある。オリジンlilとFECだ。ひとつの県内に、お笑い専門の芸能事務所が2つもあるのは、おそらく沖縄だけ。県内のメディアやイベントで活躍し、ユニークなお笑い文化を育んでいる現象は興味深い。

 そんな二社が全国へ活躍の場を広げていることにも注目したい。オリジンは、自身も芸人である首里のすけ(しんとすけ)が社長のもと、全国展開を目指し、今年、東京支部を発足した。各地で出張ライブを行い、日本中にファンを増やしている。

 FECも、自社の歩みと共に沖縄お笑いの歴史を語るドキュメンタリー映画『ファニーズ』を公開し、東京でも話題を呼んだ。


 芸人たちがそれぞれに攻勢を仕掛け、今までにない動きを見せている。その動きはまだひとつひとつの点だけれど、この点と点を結び、星座を描いたときはじめて、芸人たちの奮闘が、ムーブメントになっていくのではないか。その星座を目印に、より人が集まってくるのではないか。そのための言葉を僕は紡ぎたいと思っている。

 フリーライターとして、お笑いを取材をしてきた経験は、沖縄お笑いの脈動を、ムーブメントとして伝えるためにあったのではないか、と、図々しくも感じている。

 そんな思いで9月に開催したのが、トークイベント「沖縄っておもしろい」だった。登壇してもらったのは、オリジンの首里のすけさん。姉妹コンビ「梵天」の姉・薪子(1994年生まれ)さん。そして、FEC所属・ニライカナイの山城皆人さん(1996年生まれ)の3人。

 共通点は沖縄出身の芸人であることと、90年代生まれであること。正確には、首里のすけさんは89年12月21日生まれなのだが……。でも平成元年生まれということで、ざっくり同世代ということでお呼びしたら、「仕事の為なら、11日はサバを読むタイプです!」と快く引き受けてくれた。

うちなーんちゅは、隙あらばボケてくる

 会場のゆかるひに集まった30人超の観客たちは、男女比も年齢もほどよくバラけていた。これだけの県内在住者が、沖縄お笑いに関心を持っていることに驚くと同時に、希望を感じた。

 トークでは、沖縄が持つお笑いのポテンシャルについて盛り上がった。まず、ふつうの人たちの個性の強さである。「ありんくりん」の ひがりゅうたさんの生み出したキャラクター、’’地元の先輩まさとし’’や、アメリカ被れの「川満サリー」を見てもらえれば一目瞭然。うちなーんちゅのアクの強い県民性は、まだまだ県外には伝えていくべきだろう。

 薪子さんはうちなーんちゅのサービス精神の高さにも言及する。

「県外に出て気づいたんですけど、沖縄の人って当たり前にトークが上手なんですよ。多分、相手を楽しませようっていうサービス精神のある人が多いからなんじゃないかな」(薪子)

この薪子さんの発言に首里のすけさんもうなずき、「楽しませようとして、隙あらばボケてくる人が多いよね」と語る。

 ちなみに今回登壇してくれた3人は、コンビで漫才をする際には、ツッコミ担当だ。高校時代、学年で唯一のツッコミ係だった薪子さんは、エピソードトークを語りたがる同級生たちにツッコミながら場を回していたそう。首里のすけさんも、いじられツッコミは学生時代から友人たちに仕込まれたのだとか。たしかに僕も高校時代、そんな光景があったなと思い出す。日常にお笑いがあるのは、実は沖縄らしい光景だったのだと、今さら気づかされた。

 沖縄は「あるあるネタ」の宝庫でもある。独自の文化ゆえに、本土の人には伝わらない風習や習慣のネタはテッパンだ。首里のすけさんも「僕らは沖縄のライブでやり尽くしてるあるあるネタを、説明付きで内地でやったら、意外と笑ってもらえるかもしれない」と話す。「あるある」にも、沖縄お笑いの可能性は潜んでいそうだ。

 首里とすけさんのコンビ・しんとすけも、沖縄あるあると、うちなーぐちを良い塩梅で取り入れたネタで笑いをかっさらっている。

 ここで宣伝をすると、僕は大学生のときに『ウチナーあるある』という本を執筆した。240のあるあるが収録されている。苦労したので、ネタ探しに使ってもらえたら報われます。

沖縄芸人のジレンマ

 芸人にとって、沖縄というルーツは大きな武器だ。しかしその反面、沖縄という属性に悩まされることもある。東京で活動する薪子さんは、ライブやテレビで「方言喋ってみてよ」と言われると戸惑うそう。

「方言求められても、私たちの世代ってもう全然喋れないじゃないですか。ああやって振られると困るし、期待に応えられなかったって申し訳ない気持ちになるんですよね。かといって勉強して漫才とかに取り入れても、そのフォーマットではもう、ありんくりんさんとかガレッジセールさんには勝てない。悩ましいです」(薪子)

 普段沖縄でうちなーんちゅを相手にネタをしている芸人にとっては、内地で行われるお笑い賞レースの予選で苦戦するという。皆人さんは大学生時代に挑戦したM-1の予選が、人生で最もスベった舞台だったと振り返る。

「しりとりのネタだったんですけど、ツカミで『俺、古波蔵で一番しりとり強いからさ』って言ったら全くウケなくて。これ沖縄では爆笑なのにな、と焦ったら最後までずっとスベりましたよ」(皆人)


 これには首里のすけさんも「さすがにそこは調整しれ!」とツッコむが、皆人さんは「あの客が鈍かったんですよ」と、ボケをかぶせた。一応説明すると、古波蔵とは那覇市の地名で、全国的にも有名な漫湖公園がある……が、このニュアンスはさすがに沖縄県民以外(もっといえば、本島南部の人以外)には伝わらない(笑)。

 皆人さんのエピソードは極端な例だが、日々、沖縄で県民を相手に腕を磨くお笑い芸人にとって、本土のお客さんを相手にするのは、いつもと勝手が違って難しいだろう。

 だからといって、全国区になるためにこぞって沖縄から東京や大阪に芸人たちが行ってしまえば、今のユニークな沖縄お笑いが失われてしまう。そもそも、地方にいながら全国的に活躍できたっていいのだ。そのためにも地元のお笑いシーンが盛り上がることが不可欠だろう。

「若いお客さんが来ない」問題

 皆人さんは根本的な問題にも言及した。沖縄のライブ事情である。

 そもそも沖縄はお笑いライブの機会が少ない。薪子さんは、東京を中心に月に平均20本ライブをこなしているというが、皆人さんは平均3〜4回程度だという。ライブの機会が少ないのは、ひとえにお客さんの数が少ないからだ。

 また、お客さんの層にも偏りがある。東京では若い女性を中心に、比較的、若い層がお笑いライブに足を運ぶが、沖縄の場合、中年男性がメイン層。首里のすけさんは経営者目線で語る。

「沖縄では今、50代が一番人口が多いらしくて。で、この50代男性が一番お金を持っている。その層がお笑いライブに来てくれるからギリギリ成り立ってるけど、お笑い業界全体で未来に目を向けないと、50代男性ファンと共に沖縄お笑いは死んでいきますよ(笑)」(首里のすけ)

 皆人さんは「この話をメインでしたかったんですよ」とヒートアップする。

「FECもオリジンも、30年間やってきたのに、若い世代まで広がっていない。時が止まってしまった現状をなんとかしたいんです」(皆人)

 では、沖縄の若い世代は、お笑いに感心がないのかといえば、そうでもないのだ。たとえば、沖縄の老舗ライブハウスoutputで6月に開催されたニライカナイとカシスオレンジという沖縄芸人に加え、東京で活躍する若手吉本芸人のエバースのスリーマンライブには、20代のお客さんが集まった。

「沖縄にもお笑い好きの若者はいるんです。でもそれって“お笑い”が好きなだけで、“沖縄の”お笑いが好きなわけではない。というか、沖縄に独自のお笑い文化があるってことも知らないんじゃないかな? 俺らは沖縄のお笑いが好きだから、この島に残ってやってますけど、頑張ってるだけじゃ誰も見てくれない。その現実に沖縄芸人がみんな気づいて、もっと危機感を持たないといけないんですよ」(皆人)

 また、皆人さんはお笑い芸人になりたがる若い世代が減っていることも嘆く。2014年、当時高校生で沖縄のお笑いビッグタイトル「O-1グランプリ」のチャンピオンになった皆人さん。


当時は、彼らの影響で学生たちがお笑いを始めるようになったそうだが、今はほとんどいないという。

 芸人の人材不足を感じ取った首里のすけさんは、新人オーディションを行ったそうだが、そこで優勝したのは12歳の「小学生芸人ぼっち」だったというから驚きだ。

 彼が大人になっても芸人を続けられるように、フィールドを残すことが、この世代の課題だろう。

沖縄と東京の交流が、そして観客が、沖縄お笑いを育てる

 2時間のトークイベントはあっという間に終わった。今回、東京から来てくれた薪子さんと、沖縄で活動する首里のすけさんと皆人さん。3人が、「次は合同ライブをやろう」と言って別れていったのが、何よりも嬉しかった。

 今回のイベント『沖縄って面白い』が、来たるべき沖縄お笑いブームへの布石のひとつになれば嬉しい。

 薪子さんは、東京で活動する沖縄出身の若手芸人が多いことを教えてくれた。

 イベントでは、「天明ブラウン」のけん吾、具志堅と新垣6からなるコンビ「春組織」、ピン芸人のメガネロック大屋、オリジンを卒業し東京で仕切り直したコンビ「鉄筋ビビンバ」の名前が挙がった。東京近郊に住むお笑い好きたちは、ぜひこの名前をチェックしてほしい。

 東京で活躍する沖縄出身芸人たちと、沖縄で活動する芸人たちの交流が深まっていけば、「沖縄お笑い」のムーブメントも、ダイナミックになる。合同ライブを、東京と沖縄の双方で、定期的に行えれば、東京のお笑いファンにも「沖縄お笑い」の存在が広く認知されるだろう。また、東京で活動する県出身芸人たちは、地域に根ざした「沖縄お笑い」の魅力を肌で感じてくれるかもしれない。相互交流によって、進化する沖縄お笑いの未来を、勝手に夢見ている。

 そして何よりも、これを読んでいるあなたも、沖縄お笑いのライブに足を運んでみてほしい。お笑いライブに馴染みのない人は多いだろうが、大勢のお客さんと一緒に笑う楽しさは、一度味わったら、病みつきになるはずだ。50代男性だけの楽しみにしていてはもったいない。お笑いライブのチケット代は高くないから。

 首里のすけさんのオリジンは定期ライブを開催している。毎週水曜日には、那覇市の書店・ジュンク堂で『週刊オリジンお笑いライブ』を、第4土曜日にはテンブスホールで『喜笑転決』を行っている。皆人さんのコンビ・ニライカナイも、2ヶ月に1回、単独ライブを、そして所属事務所のFECが定期ライブ「FECお笑い劇場」を毎月第3土曜日にテンブスホールで開催しているので、足を運んでほしい。

 沖縄お笑いのこれからを作るのは、観客である僕たちだ。芸人たちに大いに笑わせてもらおう。沖縄お笑いの未来は、観客にかかっている。

 イベント後の打ち上げで、皆人さんと「東京で沖縄お笑いライブ」をやることを約束した。ライターとして文章で伝えると同時に、イベントやライブを企画するというアクションで、沖縄お笑いを盛りあげていきたい。

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