へんないし
タイラ(99年生まれ 伊良部島出身)
僕はたまに「人間ってかわいいな~」と思うことがある。
便利な文明や言葉の発明、誰もが感動するような芸術作品などを作る反面、何度も同じ過ちを繰り返したり、言動が矛盾してしまったりする。
僕は人間の本質はやっぱり、「生き物・動物」で、そこに知恵や知識、考えるという機能が追加されたものなんだろうなと思う。僕は生物学者でもなければ、人間という生き物の歴史を深く学んだわけではないけれど、きっとそうなんじゃないかな?と思う。
私が中学生の時、地域の史跡を巡って歴史や文化を学ぶカリキュラムが行われた。
住み慣れた島とは言え、普段の授業と違ってみなでバスに揺られて出かけるのは楽しかった。
そこで訪れた場所の一つに「不思議なパワー」を持つ所があった。詳しい地名や「何に置いて重要な場所であったか」は思い出せないが、所々に高い石垣があって、殺風景で、夕方の風が心地よい場所だった。
その土地の概要説明の後、数分自由に見学をする時間が設けられた。僕は複数名の同級生たちとあたりをぶらぶら散策しながら談笑していたのを覚えている。そして学校に戻る時間がやってきた。
ここでいつもと違う事が僕に起きる。
帰りのバスで隣に座る友達が、「いつものヤツ」じゃなかった。
別に仲が悪いわけではないけど、なんとなくつるむグループが違うような感じ。その子が隣になったのだ。僕も特に気にしていなかったのだが、道中で彼があるものを渡してきた。
「石」である。
伊良部島でよくありがちな、石灰のような白い石。でもよく見ると石の所々がキラキラと結晶のように光っていた。話を聞くと彼と複数人の友人たちが自由時間の際にたまたま石垣の周りに散らばっていたのを見つけたようだった。
中学生とは言えまだまだ子供で、そういうものには目がない年頃。誰が良い(多分サイズで競う)石を見つけられるか競争し、入手した石を持ち帰ってきたようであった。
その友人は自分が手に入れた石の中で、そこそこな品を私に譲ったのである。
僕も確かに綺麗だと感じたが、そこまで魅力的に思えなかったので、「だいずずみ!、ありがとうい~!」という風にとりあえず共感して、教室に戻ったらその石をアルミで出来た窓枠にそっと置いて家に帰った。
その翌日か、または数日後の休み時間に僕を含む数人の生徒が先生に呼び出された。
すると先生は「みんな、もしかして石持ってる?」と訪ねた。どうやら石を家に持ち帰った同級生がいて、その家にユタ的な力を持った人物が別の用事で訪れたらしい。
その時に、「良くない石がこの家にあるんじゃないか?、返さんと大変だよ!」と言われたそうだ。そこで保護者から学校に連絡が入り、生徒たちに拾った石を返却させることになったのだ。
他の友人たちはみな引き出しや筆箱に石を保管しているということだったので、石の返却は本日の給食後(昼休み)に敢行される予定となった。
しかし、僕はもうその石を持っていない。
先生にその旨を伝え、持ってないから「バン(伊良部島の一人称)行かなくて良いよね?」というと、ちょっと顔色が変わって探すように言われた。
とんだとばっちりである。その時の怒りは今でも覚えている。
まず、バン取ってないし。
いつも一緒にいないのに、たまたま隣になった人から貰っただけなんだが。
そもそも良い石を手に入れたからと、気が大きくなって普段の人間関係を超えて、施ししやがって。と今書いていて少し腹が立ってきた。
という風にキレながら石を探したけど全然見つからず、結局僕だけ石を所持せずに学校車に載せられ現場に向かった。その史跡に着くと手を合わせて「石とってごめんなさい、なんの悪意もありません」的な事を祈って学校に帰ってきたのだった。
対応してくれた先生や他の先生たちは僕に「君の手を離れたということは、必要ないものだったということだから返せなくても心配しなくて良いよ」とフォローしてくれた。
僕は「なんじゃそれ!」と思った。
保護者の対応、生徒への呆れ、昼休みの返上。いろんな面倒事が重なって「とにかく穏便に済ませたい」という気持ちが強かったんだろうと思う。それなのに「無くした」とか言うやつがいて心底面倒だっただろうな先生は。
それでも僕だけ返せずに怯えてしまうのは可愛そうだから、一応ごめんなさいしに連れていったんだと思う。
神秘的な体験や思想が身近に存在している地域性と田舎の学校現場の切実さが感じられる変な話だと自分で思う。
言い伝えも、不思議なパワーも元は人間の言葉や脳から考え出されたものだ。矛盾や都合の良い部分なんて、いくつも見つけることができる。あの時の落とし所もそうだと思う。
驚かせといて、テキトーだな〜と思うけど、それでも僕の価値観は「神様」や「不思議なパワー」を否定していない。
そういう自分も含めてまた、人間は可愛いし、動物だなと感じる。
でもその自分勝手で少々都合の良い性質は「かわいい」で済まされない言動へと発展していく可能性も理解しておきたいと思う。
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