私が読者を連れ回す!
さまよう蟹(94年生まれ 西原町出身)
私が幼い頃、父は土日になると、家族を連れてトヨタのエスティマで出かけていた。早朝に叩き起こされ、7時ごろに泡瀬のA&Wでモーニングを食べたら、大抵はそのまま国道329号線を北上する。そうして私は毎週、沖縄島の至るスポットを連れ回された。
中部なら中城や沖縄市、北部なら恩納村や金武町、宜野座、そしてやんばる。南部なら大抵玉城か糸満。父の気の向くままに、家族で史跡やB級スポットを訪れた。
やんばるの山奥、カヌチャの近く。おしゃれなペンションのような建物に家族で入った。店内で出されたのは、こだわりの陶器に入れられた繊細な見た目の沖縄そば。食べたことがないような、澄んだ味わいのものだった。沖縄そば屋なのにミントパイも売っているし、レジ横にはおしゃれなお店のフライヤーもいくつか置いてある。「沖縄そば屋さんなのに、おしゃれだな。」沖縄そば王・初代王者のいしぐふー(やんばる店)との出会いは、雑然とした店内で無骨なそばばかりを食べていた私には衝撃的なものだった。自分の生活圏内である西原になさそうなおしゃれなお店が、市街地でもないやんばるの山奥にあるのも、ギャップを感じて面白かった。
晴れた糸満。店内のショーケースにいくつも商品が並ぶ、古い商店風の建物に家族で入った。父が手に取った袋には「ファミリーロール」の文字。真ん中に入れられた切れ目に、紫とグレーの中間色(言うなれば田芋色)のクリームがぎゅっと詰められた丸いパンが5つ。未だに何の味かわからない少しジャリっとしたクリームが特徴のファミリーロールは、素朴なのに時々無性に食べたくなる。「絵本にあるみたいなパン屋さんって本当にあるんだ。」サンエー西原シティ店内のパン屋しか知らなかった私は、絵本の中に出てくるような、パン販売のみで独立して生計を立てている店舗があると知り驚愕した。さらに、ファミリーロールは基本的に糸満市内でしか手に入らないらしく、「あんな美味しい食べ物をみんなは知らないんだ」と、私だけが知っている秘密があるような気分にさせてくれた。糸満のスーパーローカルパン屋「ハマキョーパン」と、謎の菓子パン・ファミリーロールとの出会いは、私を絵本の中の、秘密の世界に連れてってくれた。
暑い日も寒い日も父に振り回されていた私たちだが、私は好奇心旺盛なこともあって沖縄島のあちこちを巡るのは苦ではなかった。
西原にいるだけでは知ることができない沖縄を教えてくれたのは父だった。あちこち巡るたび、この島の輪郭のようなものが少しずつ、うっすらと浮かび上がってくる。どんな場所にも人の生活、息遣いを感じる。私にはそれがたまらなく興味深かった。生活圏内を飛び出して知らない世界に行くことで、いつしか沖縄に興味を抱くようになり、高校生になる頃にはそれが「人の生活や民俗・文化に興味がある」と言語化されるまでに至った。
私はもはや信仰に近いレベルで、「沖縄は面白い!」と信じている。高校卒業後、進学に伴って内地に出たが、結局沖縄の魅力に逆らえずにUターンで戻ってきた。内地にいると沖縄に関する情報を得にくい上、沖縄の人々の生活感や息吹を感じられない。それが嫌で、もっと沖縄について知るには沖縄に住むしかない、と実感して帰沖を決めた。沖縄に帰ってきた今は、私の信じる沖縄と、その魅力を伝えたいと思ってコラムをひとつひとつ執筆している。沖縄のさまざまなスポットや行事を調べては現地に赴き、コラムのネタを探す日々だ。
私のコラムを入口として、沖縄の魅力にどっぷり浸かってほしい。父が私にしてくれたように、コラムの読者を沖縄の至るところに連れ回したい。