競輪

 正午を過ぎた晴れの日、大宮のラーメン二郎に並んでいました。開店から1時間弱の店外には既に行列が二つ。入り口から店の扉に沿うように六人の列と、道を挟んだ歩道に七人の列。僕は日除けのニット帽をカバンから取り出してスマホアプリのアグリコラを遊んで待っていました。暑すぎる。気温は35°の快晴。早く涼しい場所へ行きたいと行列の誰しもが思っていたでしょう。気づけば僕の後ろにも更に七人ほど並んでおり、僕は二列目の先頭に。もうすぐ建物の日陰に入れそうだなと思ってから、僕の意識は再びアグリコラへ移りました。

アグリコラのアプリ

 「はやく行けよ!スマホばっかり見やがってよ」突然の声にふと我に返りました。顔を上げると、入り口の行列は三人になっていました。あ、しまった。これは僕を指して言っているやつだな。と気づくと同時に、罵声を浴びせてきた二つ後ろの、恐らく50代前半くらいのおじさんに怒りが湧きました。中肉中背で白髪混じりの黒縁メガネ。Tシャツに短パンだがステータス普通くらいのサラリーマンと行った感じでした。そんな言い方しなくても、教えてくれたら移動するのに。と伝えたところ、おっさんはブツブツ言って知らんぷり。コイツいつか殺してやると思いながら日陰に移動し自販機で黒烏龍茶を飲んで涼む。涼むと言っても店外なので当然暑いのですが、日向よりはだいぶマシ。

店外の様子

 もうしばらく待っているといよいよ僕も入店でき、食券の購入へ。僕はデブの割に一度にたくさん食べれないので、ラーメン小を更に麺半分(125g)で頂くことに。クソジジイは僕の二つ後ろに並んでいます。いかにも性格の悪そうな顔をしています。こいつと隣で食いたくねえなと思っていたところ、僕の前に一人並んでいる状態でカウンターの席が続けて4つオープン。「奥から詰めてお座りください」という店員さんの声に従って着席。よし、あのボケナスと隣にならなくて済みそうだ。と思っていたら、僕のすぐ後ろに座っていたメガネが手前の席に座りやがった!最悪。ボケナメコはコップの水を持って僕の隣に着席。はあ。大きなため息。こいつを少しでも居心地悪くしてやろうとしてガン見。ハゲはポケットから競馬か何かの予想表を取り出して必死に記入している。1〜6コースがちらりと見えたので敢えて話しかけてみた。「ボートですか?」と。すると「競輪です…」と、か弱い声で素直な返答。うるせえ!とか、はあ?とか、そんな風に返されることを期待していたので不意打ちされた気持ち。もしかして、この人はこの猛暑にやられてつい声に出してしまっただけの小心者なのでは?という疑念が生まれました。

 「ニンニクアブラショウガ」のコールを済ませ待っていると、何故かおじさんの方が先に着丼。食べる前に話しかけると飯がまずくなるかもなと思い、先に食べ始めたおじさんと、それから僕のラーメンを待っていると、数分後にやっとご対麺。ラーメン二郎大宮公園前店ラーメン小麺半分ニンニクアブラショウガ。

油が表面に浮いていて怖い

 うまい。二郎の直系がそれ以外のインスパイア系とで決定的に違うのは麺のうまさだと思います。スープやトッピングはそれぞれの店の個性が強いですが、この力強い麺は系列店で概ね共通して独特のうまさがあります。

 麺を啜りながらおじさんにかける言葉を考えていたら、おじさんが丼をあげました。ごちそうさまでした。僕はおじさんを見て「おにいさん」と声をかけました。「暑くてイライラしてたのかも知れないけど、人に当たっちゃダメだよ。優しくしようね。競輪、当たるといいね」と伝えました。「はい、ありがとうございます」おじさんの返答は反省と優しさがこもっているような声でした。深々と頭を下げておじさんは去って行きました。

 人は何歳になっても一時の感情を他人にぶつけたり悪態をつくことがあるものだと気づきました。そしてそれを悪く思ったり反省したりして謝ることができるのだとも。きっとおじさんは普段真面目に働いて、休日に競輪を楽しんだり、僕と同じようにラーメンを食べに来たりする普通の人なのでしょう。正直僕はおじさんに文句を言われたときにかなりムカついたし、言い返した後からもイライラが膨れていたので、隣に座ったときはかなり悪意を抱きながら話しかけました。でもそのときの返答の声を聞いておじさんの心情が少し理解できて腹の虫が収まったように、負の感情が芽生えた時こそしっかりコミニュケーションを取りさえすれば、丸く収まることがたくさんあるんだろうなとこの小さな出来事から考えられました。見ず知らずの人にも優しくしよう。

 僕のラーメンは麺半分で注文したのにかなり多く感じました。もしかしたら通常の量なのではと思いながらもなんとか完食。ごちそうさまでした。黒烏龍茶を飲み干して、駅に向かってテルメのサウナより暑い道を歩き始めました。

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