監視ロボット報告書_新木場ベースについて(MISSION8 Revival感想②)

※この記事は、ego:pression 第12回ダンスパフォーマンス公演 イマーシブシアター「MISSION8 Revival」のネタバレを含んでいます。
 また、筆者が想像を膨らませている創作部分もあるため、ご了承のうえお読みください。


【報告】新木場ベース B.C.2122年 X月Y日
【報告者】監視ロボット No.241215-Ypn

 かつては、多数の工場や事業者が軒を連ねていた、人工の埋め立て地、新木場。都心から離れたこの場所は、今や特に見るところのない荒涼とした建物の残骸が残る場所と化していた。
 小惑星衝突の影響による気候変動が著しいとはいえ、しかしながら新木場の海は未だに美しく、そのきらめきを我々に見せてくれるのだった。
 監視ロボットの命を受け、わたしが次にたどり着いた新木場ベースには、何に使うかわからない人間たちが残した遺物や遺構たちが残されているのみであった。他のベースと、特に代わり映えしない、無機質な空間が広がるのみであった。

 監視ロボットは、そのベースの背景情報は一切与えられない。ただ目撃し、記録し、それを後のニンゲンたちに伝える形で残すことが使命である。
 先程からわたしが表現している比喩や表現も、監視ロボットとして事象を記録し、それらを後のニンゲンたちに理解しやすく伝えるための手段である。
 美しい海とはどういうものなのかを鑑別するプログラムはインストールされている。それは、人間が情動を引き起こされる光の揺らめきであったり、色合いであったり、そういったものを総合して、ニンゲンが言う美しい海は成立する。
 しかし、その実、それが何なのか、美しいと感じる情動がどのようなものなのか。わたしには、よくわからなかった。

 わたしは、ベースの入口でいつものように注意事項を聞いていた。周りには、わたしと同じく、多数の監視ロボットが、、シャッターが開くのを待っている。途中、2体のロボが収集品を携えてやってきたが、それが何に使うものなのかよく分かっていないようだった
 シャッターが開くと、どのベースとも同じように、複数のロボットが遺物の収集やベース内の清掃、保守管理を行っていた。
 いくつかのロボットは、人間たちの遺物を、雑然とした状態から分類し、管理できる棚に運んでいるようだった。わたしも1体のロボットに.陶器製で平っべたく白いものを運ぶよう依頼され、ロボの後に続いて、収納することを手伝った。
 監視ロボットは、ベースの保守管理に干渉してはならないが、ロボ達に請われれば、その限りではない。
 ロボ達は、1日の仕事を終える時間になると、エネルギー源となる液体を補給し、皆一列になって、シャットダウンされる。これも、いつも通りの光景。ただ一つ、小柄なロボットがいつも列に戻るのが遅く、妙に目を引いた。初期不良だろうか?

 何回か同じ夜が過ぎ、このベースも他と同じようなものであると、いつも通りの監視作業を終えようとしていたある日。
 ベース内にアラームが鳴り響き、赤い警告灯が緊急事態を知らせた。
 何事かとベースの奥に目をやると、そこに設置されていた小さなポットの扉が開き、中からニンゲンが飛び出してきた。
 よく見ると、そのポッドは、小惑星衝突前にニンゲンたちが作成した、ニンゲンたちの生命を保全するためのコールドスリープ装置であった。どうやら、新木場ベースのロボ達が近くのシェルターから運んできたものらしい。
 ニンゲンを取り囲むロボたち。装置の中から出てきたニンゲンは、怯えた目をして尻もちをつき、周りのロボット達に困惑しているようだった。
 ロボ達は、MISSION8のために製造されたロボットであることを表す刻印がないことで、それがニンゲンであると気づいたようだった。
 ふと、ロボたちの胸元にある、赤く光るネームプレートを見るニンゲン。これは初期不良が見つかったため、絶対に触れてはいけないと、我々監視ロボットに警告されていたものだった。
 ニンゲンがおもむろに、そのスイッチを押すと、ロボット達の画一的な動きが、突然それぞれまるでニンゲンのような個性を持った動きへと変わることに気づいた。次々とロボット達のスイッチを押していくニンゲン。
 どうやら、各ロボットたちは、ベースの保守管理や収集以外にも、それぞれ何らかの職能を与えられて開発されたロボットのようだった。ロボットたちは思い出したかのように、自分の職能を表すジェスチャーをして、ニンゲンに伝えている
 この現象はどのベースでも見られないものだった。そもそもわたしは、ニンゲンが動いているのを見たのは初めてであったし、こういったことは起こり得なかった。
 かくして、新木場ベースは、他のどのベースとも全く違う個性的なロボット達と人間が過ごすベースとなったのだった。
 ここからわたしは、自身の監視機能をいくつかに分離し、計3体のロボットと、ニンゲンの挙動を監視し、記録することとした。

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