クリープハイプ 「夜にしがみついて、朝で溶かして」ライナーノーツ

今からすこし話をしよう。
言葉はいつも頼りないけど。
それでも少し話をしよう
僕のクリープ愛が誰かに届くように

1.料理
アルバム一曲目にふさわしい疾走感のあるイントロ。
料理と恋愛には共通点がたくさんある。
冷めたらまずいなんて歌詞にドキッとしてしまう。
愛したあの子との日常生活と、料理の共通項を尾崎世界観は抜群のワードセンスで表現する。
軽快なメロディにテンポよく乗せられた同音意義の歌詞が、2人の暮らしを、料理を、洗濯を、選択を、悲しかったことを、幸せだった日々を、走馬灯のように想像させる。
出来合いの料理も溺愛して、焦げた料理にも恋焦がれた。
満腹中枢を満たしてくれたのは、料理じゃなくてあなただったんだろうな。
ハンバーグ食べるたびに思い出してしまう。

2.ポリコ
ポリコってどんな意味なんだろう。
そんなことを考えながら曲を進める。
汚れをこすっているからお掃除屋さんみたいなものだろうか。
ミュージックビデオを見てみてもそのような感じ。
ここでいう汚れって物理的なものじゃなくて心のモヤモヤみたいなものなのかもと思う。
どれだけ消そうとしても消えない心のモヤモヤなんて誰にでもあるもの。
そんな生き辛い日々を歌っている気がする。

3. 二人の間
ここで歌われる二人の関係性ってすごく多用だと思う。
恋人・夫婦・親友・はたまた親子や子弟?
言葉が無くても大丈夫って言い切れるわけではないし、言いたいこともあるけどまあいっかってなる関係性。
どんな関係性であっても実は1番理想的なのかもしれない関係。
それからどうした?それでもどうする?ってなるけど、きっとまあ何とかなるだろうとお互いが思いあえるそんな関係。
言葉がいらないってとても素敵なことでそんな関係を歌っている。
きっとこれからもずっと二人の間々で大丈夫。

4. 四季
何気ない特別なことがない平凡な日々や一年を素敵な一曲にしてしまうところが尾崎世界観の、クリープハイプの魅力の一つ。
疲れるけど楽しくて、間違ってばかりの日々を全力で肯定してくれる気がする。
ちょっとエロい思い出の春、あのバンドを思い出してしまう夏、謝ってばかりでダサい思いでしかない秋、どうでもいい時に降る雪に生きてて良かったと思った冬。
そんな一年に全共感する人も、部分共感する人も、自分の一年がきっと愛おしく思える曲。
年々、四季の季節感がなくなっていく日本だけれど、この曲がある限りきっとどの季節も大切な思い出と共に忘れない。

5.愛す
この曲はまず詩よりも曲について述べたい。
今までのクリープハイプのバンドサウンドとは明らかに異なる、メロウのようなヒップホップのような要素もある。
完全に新しさがあるのに拒否感を全く感じないのは詩にマッチしすぎているから。
この詩にはこの曲しかないと思ってしまう。
クリープハイプの力はもはや恐ろしい。
逆にもうブスとしかいえない、素直に傍には君じゃなきゃダメだといえない少し捻くれた僕はきっとこの恋を生涯忘れない。素直に好きって伝えた方が良いよってそんなの言われなくてもわかってるよバカ。
あなたの捻じれたカバンの紐を直してくれる人はきっと現れるけど、この捻じれた二人の関係はきっともう直らない。
素直になれなかった失った恋への後悔がこれでもかと胸に刺さる。
好きだよごめんねさよなら。

6.しょうもな
何もかも振り切ってしまうような疾走感のあるギターサウンドに言葉の連打。
これぞクリープハイプって感じ。
あんたにお前にてめーに用があるといわれ尾崎世界観がこちらを向いて歌ってるように錯覚する。
ライブでこの歌聴けたらすっごい楽しい気がする。
全然「しょうもな」くない歌詞はちゃんと届いてます。

7.一生に一度愛してるよ
バンドと恋愛を対比させた歌。
今までのクリープハイプの曲の歌詞を散りばめた詩がちゃんと奥まで刺さってくる。
こういうのファンは大好きです。あざといなクリープハイプ。
特に好きなのは「出会ったあの日は103です 一回も減らしたくない」のところ。
ラブホテルのオマージュだけど103の部分をカオナシが歌うところと、ラブホテルでは「一回くらい減るもんじゃないし」って歌ってたのが、「一回も減らしたくない」と変わってるところがすごく好き。
減らしたくないはきっと無駄に減らしたくないって意味で、この曲の一人称のこの恋に対しての真剣具合が伝わってくる。そう感じさせる尾崎世界観の歌唱力に脱帽。
昔は優しさと思いやりがあって私を一番に想ってくれた恋人に対してバンドと恋人が逆だったらなって歌ってるけど、バンドに対しても昔の方が良かった最近は同じような曲ばっかりで飽きたっていわれることの不安も歌っているように感じた。
大丈夫。このアルバムもちゃんと奥まで刺さってるし
死ぬまで一生愛してるよ。

 8.ニガツノナミダ
初めて聞いたのは2019年の神戸国際会館こくさいホールでのライブ「こんな日が来るなら、もう幸せと言い切れるよ」の大ラス。
アカペラでサビだけ歌ってくれたニガツノナミダは確かこの日初披露だった気がする。
その時の感想はSNSに速度制限、Wi-Fiスポットって歌詞がやたら頭に残って、新しいな面白いなくらいの感想しかなかったけど、フルを初めて聴いて新発見。
バレンタインの歌だったのか。
チョコを渡したい女の子の葛藤と、速度制限のいらだちを合わせて歌うのにすごい斬新さを感じるのに、めちゃくちゃマッチしているのが癖になる。

 9.ナイトオンザプラネット
まだ苦いあの夜の思い出を歌った曲。
命より大切な子供とアニメを観るママになっても思い出す、ずっとしがみついていたかったあの夜の思い出。
だらしない彼とのだらしない思い出。だらしなくて早く溶かしたいはずなのになかなか溶けない思い出。
額縁に入れたポスター、字幕で観たあの映画。
夜の朧気な光景はずっと記憶に残ってる。
そんな甘くて汚くてドロドロした、けど大好きだったあの思い出を
今日も少しずつ溶かして、そうやって少しずつ大人になっていく。

10.しらす
待ってました、カオナシ曲。
火まつりを彷彿させる祭囃子に思わず身体が踊りだしそうになる。
正直歌詞は断トツでわけわからんが(笑)
カオナシのまた尾崎世界観とは違った魅力的な歌声に曲がマッチしていて、
心にぶっ刺さる歌詞の曲が続く中ですごくいい意味で休憩させてくれる曲。
休憩的な曲なんだけれどしっかり存在感とインパクトを残してくるところがクリープハイプのすごいところ。
今日も聴くんだ大好きなアルバム。

11.なんか出てきちゃってる
これもしらすに続いて不思議な曲。
偶然ネジがゆるんじゃってという歌詞の間に尾崎世界観の独白が続く。
おまえといえる関係性の人と話しているみたい。
ゆるんだ所から何かが出てきちゃってるみたいだけど何なんだろう。
 一体何が出ちゃってるんだろうとか考えてたら尾崎世界観も出ちゃってるらしい。
聴く人の想像力がめちゃくちゃ掻き立てられます(笑)
出ちゃってるの偶然じゃなくて必然だろ

12.キケンナアソビ
こういうクリープハイプが一番好きかもしれない。
綺麗じゃない恋を歌っているのに、だらしない恋を歌っているのに、そんなクリープハイプはどうしてそんなに美しいんだろうといつも思わせられる。
そこにクリープハイプの魅力があるんだと思う。
嘘の匂いをを首から上だけでも残してほしいのに、体で繋ぎとめたくて首から下だけでも愛してほしいのに、これからも末永くお幸せにと口だけでも淡々といえてしまう、そう感じさせる尾崎世界観の歌いっぷりとクリープハイプの曲に唖然とし、どんどん引き込まれてしまう。

13.モノマネ
情景が浮かぶ歌詞はクリープハイプの特徴で魅力だけど、それがこの曲でも顕著に表れている。
ボーイズENDガールズを彷彿とさせる歌いだし。
まだまだ続きそうだったあの二人はきっと終わってしまったのだろう。
だからANDじゃなくてENDだったのかとか考える。
小さくなる石鹸が恋の終わりを暗示していてまるで小説みたい。
同じものが多くて幸せで、モノマネが上手にできていた前半部分。
もうこの時点できっとこのモノマネがずっとは続かない予感がしてしまう。
失ってから気づく幸せを、大切な人の涙に気づかなくて今更泣いてしまう私を、酷いモノマネと表現する所がとても切なくて素敵。

14.幽霊失格
ああ切ない。
幽霊にみたてられた恋人は本当にもうこの世にいないのか、はたまたそう思いたいだけなのか。
わからないけど、消し切れていない、幽霊にしきれなくて勝手に一方的に幽霊失格なんて言ってしまう気持ちがあまりにも切ない。
料理やモノマネと同じく情景がはっきり浮かぶ歌詞であっという間に感情移入してしまって、歌詞の切なさに思わず涙が出そうになる。
成仏して消えるくらいならいつまでも恨んでてなんて切なすぎる。
いつか笑顔で成仏してさよならが言える日が来ますように。

15.こんなに悲しいのに腹が鳴る
閉店間際の蛍の光のような、イントロだけであぁもう終わるんだと思わせる。
クリープハイプの魅力といえば詩だと思う人は多いだろうし、実際そうなんだけど、曲もめちゃくちゃ魅力的だと最後で再確認。
この曲では無様なまでに生きたいという欲望が丸出しになっている。
うまくいかないことがあって投げやりになって人生やめてやろうと思ってもお腹は減る。
身体は生きるために食べ物を欲す。
当たり前のことだけど忘れがちなこと。
この歌からクリープハイプのまだまだバンドとして生き続けてやるという強い意志を感じた。

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