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テルマー湯

 今日はサウナについて。
 
 前に書いた「サウナしきじ」の記事から見事サウナの虜になった私は、ひとり旅から帰った後も、サウナ目的で地元のスーパー銭湯に通う日々を送っていた。
 しかし、地元の施設はしきじのように水風呂に入った後に休憩するための場所、いわゆる「ととのいスポット」がなく、露天エリアにある寝ころび処で代用するしかなかった。
 さらにその寝ころび処は石でできているため、しきじにあるベンチのように深くくつろぐ、ということはできないのだ。
 また、コンディション次第で薄く整うことはできるものの、ほぼ運によるところが大きく、しばらくサウナに対し悶々とする日々を送っていた。

 またあのディープ・リラックス状態を体験したい。
 頭のもやもやを一瞬で吹き飛ばしたい。


 そうした思いが募って見つけ出したのが、サウナ検索サイト「サウナイキタイ」だ。

  このサイトはスーパー銭湯やスパなど、全国のサウナを体験できる施設を検索することができるもので、私はそこで一つ、めぼしい施設を見つけたのだ。
その名は「テルマー湯」。
 新宿の歌舞伎町のど真ん中にあり、京王線ユーザーの私にとって抜群のロケーション。それに新宿で買い物をすることが多いため、そのついでに寄れば、サウナのためだけに新宿に来た、という異常性を回避することができるのだ。


 そして訪れたテルマー湯初体験の日。

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    その日は二月のはじめ頃で、新宿のHMVやディスクユニオンなどでレコードを物色した後、歌舞伎町のドトールコーヒーで読書をキメた後だった。
 それは吉本興業の本社の真向かいに位置しており、立ち並ぶ雑居ビルや靖国通りの喧騒からは想像できないような、落ち着きのある白とクリーム色を基調としたエントランス。
 普段高級感とは無縁のリーズナブル・ライフを送っている私は、そこでしきじとはまた違った緊張感を覚える。
 浴室はその高級感の割には少しこじんまりとした印象を与えるが、そこには二種類のサウナに複数種の温泉にジャグジーもあるため、充実度は高い。


 そして、問題のサウナは。


 サウナ室に入った瞬間に思った、「すごい所に来てしまったぞ」と。 

 90度に設定されているというテルマー湯のサウナは、普段70度後半のサウナを利用している私には、そう感じざるを得なかった。
 しかし、しきじは比較的小さな部屋だったからか、熱気が全身を包む感覚があったが、テルマー湯のものは広く、天井も高い。そのためか、段差ごとでの体感温度はかなり変化するものの、体で感じる熱気の強度(?)自体は、まろやかな印象を受けた。
とは言え久しぶりの本格的なサウナ。それに私はまだまだビギナーの身。その熱に身が怯んだ私は、来店時は最上段(体感温度が一番高い)を陣取る気分でいたが、それを諦め、せめてもの気持ちで上から二番目の段に腰掛けた。


 サウナ室はテレビ付き。音量はやや大きめだが、時間の経過から熱でそんなことも気にしていられなくなる。サウナ好きの中には、室内にテレビは要らない、という人もいる。しかし私の場合、テレビがあると時間を把握しやすい上に、このように、熱でテレビなど気にしていられなくなるので、どちらでも良い、が正直な気持ち。


 ぼんやりそのテレビを眺めながら、日頃とは比べ物にはならないほどの暑さに耐えること、約十分。
 サウナ室を出て斜め右に水風呂の存在を認め、歩みを進める。少々歩くものの、体を包む熱気は絶え間ない。スーパーサイヤ人状態。しかも未来のトランクスがセルと戦ったときくらいの。

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 そしていざ水風呂へ。
 冷たさは心地よく、水深は身長175センチの私が座ると顎まで届きそうな深さ。水温も普段通っていた施設より低めな印象を受けたが、サウナとのコントラストもあり、非常に心地よい。
 その心地よさで、うっかりすると長風呂しそうだったので、水風呂から見える電波時計で1分半を目安に上がり、サウナ室の真横にある一人がけベンチに腰掛ける。


 「はっ」と息が漏れた。
 そう、この感じだった。私が求めていたものは。しきじで体験したあの感覚が私を包む。


 研ぎ澄まされていく感覚。聞こえる音は、周りにある温泉の水音が浴室に反響していく音と、その奥でうっすら聞こえるヒーリング・ミュージック。
 究極の癒し状態の訪れに、頭をこの上ない多幸感が支配する。あまりの気持ちよさに自分の体が溶けていってしまうのではないか、という考えにすら至る。
 

 いや、私は恐らくそこで溶けたに違いない。ドロドロの体がサウナの効能によって浄化され、もはや実態をなくしたゆうじ、大学三年生。
 彼は顔と水だけの状態となり、天高く舞い上がる。
 そして、それを呆然とした様子で見上げるピンクの水干を着た少女に
「よきかな」との言葉を残し、消えていったのだった。

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