The Byrds "You ain't goin' nowhere" -外出自粛のテーマ、あるいは来たる秋のためのカントリー・ロック①-
こんにちは。
またコロナの新規感染者が増えてきましたね。私の仕事場も自宅待機になったり出勤になったりを繰り返していて、最後にまともにフルタイムで働いたのっていつだっけ?という感覚に陥ってしまっています。実際は普通に働いている日の方が多かったりすると思うのですが(1日、2日イレギュラーな日があると、その印象で他の普通の日の印象が薄れて、遠い昔に感じてしまうってことかな)。
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そんななかなか外出がままならない日が続くと、私の中に一つの曲が頭に浮かぶ。
それはボブ・ディランが作詞・作曲し、アメリカのロック・バンド、バーズがカントリー風にアレンジして発表した曲「You ain’t goin’ nowhere」だ。邦題は「どこにも行けない」。
私はこの邦題のインパクトに引っ張られて、引きこもりがちな生活が続くと、脳裏にこの曲が浮かんでしまう。さらに、サビの「ウーイー!」という掛け声が、その退屈さを嘆く叫びのように感じて、胸がキュッとするのだ(ボブ・ディランのヴァージョンはさらにその趣が強いような気がする)。
歌詞の内容は、第一バースは出かけたくても出かけられない憂いを歌っており、現在の社会情勢や邦題から受けるイメージに直結しているものの、それ以降は何やら物騒な雰囲気の内容となっている。
ボブ・ディランの原曲もバーズと同様、カントリー色が強いものとなっており、西部劇のようなハードボイルドな感じを表現したかったのかもしれない。しかし、なんせ作詞したのがあのボブ・ディランなので、文脈の中だけではなかなか全ての意味を汲み取ることは難しいだろう(だれか正しい解釈知ってたら教えてください)。
また、この曲のようにカントリー色の強い楽曲を聴くと、黄金に輝く稲畑に涼しい風が吹き抜ける情景が頭に浮かぶ。
まさしくそのようなカントリー・ロックはこれからの季節にぴったり。ということで、この記事の後にもいくつかお気に入りのカントリー・ロックを紹介したい(記事のタイトルも秋とこういった音楽を掛け合わせたものにしました)。
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Clouds so swift, Rain won’t lift
Gate won’t close, Railings froze
Get your mind off winter time
You ain’t goin’ nowhere
雲の流れは速く 雨は止む気配もない
扉は開まらないし 手すりは凍っている
冬は気分が滅入ってしまう
どこにも行けないからね
Whoo-ee! Ride me high
Tomorrow’s the day
My bride’s gonna come
Oh,oh, are we gonna fly
Down in the easy chair
ウーイー 元気付けてくれ
明日は花嫁が来る日なんだよ
オーオー 落ち着くしかないのか?
あの肘掛け椅子の上で
I don’t care how many letters they sent
Morning came and morning went
Pack up your money, Pick up your tent
You ain’t goin’ nowhere
奴らがいくら手紙を寄こそうが 気にしないさ
夜が明けて 朝も過ぎ去った
お金を集めて テントを畳んだところで
どこにも辿り着けないだろうに
ウーイー 元気付けてくれ
明日は花嫁が来る日なんだよ
オーオー 落ち着くしかないのか?
あの肘掛け椅子の上で
Buy me a flute, and a gun that shoots
Tailgates and substitutes
Strap yourself to a tree with roots
You ain’t goin’ nowhere
フルートを買ってくれないか それと
テールゲートと偽物たちを撃つための銃もね
太い幹にお前を縛り付けてやる
どこにも行けないようにな
ウーイー 元気付けてくれ
明日は花嫁が来る日なんだよ
オーオー 落ち着くしかないのか?
あの肘掛け椅子の上で
Now Gengis Khan he cloud not keep
All his kings supplied with sleep
We’ll climb that hill, no matter how step
When we get up to it
ジンギスカンは諸王たちに
休息を与え続けることは 出来なかったが
僕らは丘を越えていくさ どんなに急だとしても
やると決まった その時には
ウーイー 元気付けてくれ
明日は花嫁が来る日なんだよ
オーオー 落ち着くしかないのか?
あの肘掛け椅子の上で
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訳していて、サビに毎回登場する花嫁と、第三バースの対決のイメージから、恋敵との決闘に臨む主人公の心情を描いた詩なのではないか、と思った。
それらモチーフや冬の寒さが命取りになる状況が、なんとなくドストエフスキーの「カラマーゾフの兄弟」を連想させた。もともと、ボブ・ディランのインタビューや文章には、そういった文学作品に関する言及は多いので、そこからヒントを得た可能性もなくはない(のかな?笑)。
・ボブ・ディランのヴァージョンは何種類かあって、バーズが参考にしたのは恐らくこのヴァージョン(またはこの前後に録音されたデモ)。その後発売されるベスト盤に再録されたものが入っているが、歌詞を大幅に変更している上に、歌詞の一部を(ほんとに、ほんとに細かな一箇所だけ!)変更して歌ったバーズに対しての皮肉が歌われている。
バーズはこの曲をリリースして以降、カントリーと自分達との親和性を自覚したのか、どんどんこの路線を推し進めていく。
この曲が入ったアルバム「ロデオの恋人」は売上的には不発に終わったが、のちに出て来るイーグルスやニール・ヤングの台頭を考慮すると、カントリーをロック・バンドが演奏することの最も始祖的な存在だったと気づかされる。
また、この作品の二年後に発表したアルバム「untitled」では、カントリー・ロックの創始者だからこその、かなり深めた楽曲を展開しており、その当時大量に出現したカントリー・バンドの追随を許さない、ベテランの風格すら感じる。
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もともと、バーズもこの曲も個人的に大好きで、この曲が似合う秋がそろそろ訪れようとしていると、とてもワクワクしてくる(もち、ボブ・ディランも)。
また、夜になって鈴虫やコオロギの鳴き声を聞きながら、眠りに落ちることができるのも、これからの季節の良いところの一つだ。
バーズがテレビ番組かなんかで披露している映像。カントリーとしては四人という比較的少数の編成で見事曲の雰囲気を再現していて、バンド・ロマンを感じる動画。
では。