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映画『ブレイブ -群青戦記-』公開記念! 『キングダム』原泰久×『群青戦記』笠原真樹 師弟対談【完全版】 & 漫画『群青戦記』シリーズ無料試し読みも!

実写映画『ブレイブ -群青戦記-』公開を記念して、原作漫画『群青戦記グンジョーセンキ』作者・笠原真樹先生と、その師匠にあたる『キングダム』作者・原泰久先生による対談が実現。二人の出会いから、漫画の創作論、そして自身の作品の実写映画化を経験する漫画家ならではの思いまで、対談の様子を余すところなくお届けします! さらに対談記事に続けて、映画原作漫画『群青戦記 グンジョーセンキ』2巻分無料試し読み&週刊ヤングジャンプ連載中『真・群青戦記』2話無料試し読みも公開中ですのでお見逃しなく!

●『キングダム』の現場での出会い


──笠原先生は、原先生の仕事場で『キングダム』のアシスタントをされていたそうですね。

笠原 『キングダム』の巻数で言うと、5巻の終わりから12巻までです。
 思っていたよりも長くいたんだね。
笠原 2年位です。5巻の終わり頃にヘルプのような形で入って、6巻からクレジットに載せていただいてます。
 あの時は『リクドウ』の松原(利光)もいて……。
笠原 そうですね。基本的には僕と松原さんと、チーフの鮫島さんがレギュラーで入る感じだったかと思います。

──現場に入って、どうでしたか?

笠原 僕はマンガの専門学校も行ってないですし、初めてのアシスタントの現場が原先生のところでしたので、スゴく緊張していたのを覚えています。

──どのようにして、アシスタントになったのですか?

笠原 原先生がアシスタントの募集をかけているのを見て、募集要項に「一枚絵を描いてください」というのがあったので、『キングダム』の山の民のカットを描いて送りました。
 当時は忙しくて、面接する余裕もなくて……とにかく現場に来てほしかった。まずはヘルプとして入ってもらって、人となりを見て、大丈夫そうならレギュラーに……って感じだったね。

──初めて原先生の現場に入ったのは、何歳の時でした?

笠原 24です。

──それまでは何を?

笠原 社会人でした。

──笠原先生の第一印象を覚えていますか?

 スラッと背が高くて、でも優しそうな感じ。あとしっかり喋って、しっかり質問もできる子でした。分からなかったら聞くってのは、意外とできない子が多いんですよね。あとは、ここでは言えないような面白い話も一杯持っていました(笑)。……でも最初の頃は、即戦力というよりは、一から覚える状態だったよね。
笠原 全くの素人だったので……(汗)。先輩の松原さんの描く背景が物凄くレベルが高いし、原先生の完成原稿を拝見しても、自分の描いているものとは全然迫力が違う。自分なんか役に立たないし、プロになれないんじゃないかって、打ちのめされてました。ここまでの物についていけるのかと、不安に思ってました。

──そうした中で、他のスタッフの方から学んでいったわけですね。

笠原 はい。松原さんや鮫島さんから教わりました。原先生も気さくに話しかけてくださいますし、現場の雰囲気が温かくて、段々緊張も和らいでいきました。当時は朝10時から夜の2時まで通って、それが週4日間続いて、最後は徹夜……と、一緒に過ごす時間も長かったですし、打ち解けるのは早かったと思います。
 一緒の時間は長かったね。今はそこまで長くはなくなったけど、当時はそういうのがギリギリあった時代でね(笑)。でも笠原は嫌な顔一つせず、真面目にやってくれた。笠原がレギュラーになる前の頃、大きい絵の仕上げを任せたんですよ。そしたら他の子が作業を終わらせる中、笠原はやっぱり時間がかかる訳です。他の人間を待たせる状態になると、まあまあ緊張するじゃないですか。でも彼は、自分が納得するまで、良い意味で空気を読まずに、キッチリやったんです。そこが良いな、と思いました。
原稿の仕上げにはネリケシを使うんですが、真っ黒になった、まん丸のネリケシがたまたま原稿の真ん中に乗っていて。それをうやうやしく“出来ました!”って、持ってきたもんだから、ちょっと面白かった(笑)。
笠原 ネリケシの献上みたいになって(笑)。
 その仕事ぶりを見てレギュラーにすることにしたんだと思う。この子は納得するまでやる責任感があるし、この先もずっとサボらないだろうって。
笠原 そこは原先生の姿……何日も徹夜されててシンドいはずなのに、ずっと真摯に原稿に向かっている姿を見て、自然と勉強させていただいた所もあります。
 僕はとにかく体力の限界まで頑張るっていうのを貫いていて……僕があんまり口を出さなくてもいい空気をスタッフが作ってくれてるので、僕は僕で集中して、そういう背中を見せれば良いかな、と。
笠原 原先生が集中して原稿に入り込んでいるときは、こっちの作業が仕上がっても、中々声をかけづらいんです。タイミングを見て、先生がちょっと息をついたときに持ってったりと、気を使いました。

●楽しく、緊張感溢れる『キングダム』の現場

──アシスタントをしていた頃の思い出などありますでしょうか。
笠原 当時は休憩時間に、公園でミニサッカーみたいなのを、月に一度くらい皆でやっていたんですけど、僕は動きが変になっちゃうときがあって、そんなときに原先生がちょっと笑ってくれるのが嬉しかったです。
 いや、笠原は運動神経良いんですよ(笑)。

──サッカーがお好きなんですか?
笠原 いえ全然。高校では、バスケットボール部だったんです。原先生も、バスケ部だったんですよね?
 うん。……笠原がバスケ部って今知ったよ。いや、当時聞いてたんだろうけど、忘れてるね(笑)。あと、松原も運動神経が良かったよね。
笠原 みんな熱中してやってましたね。
 楽しかったねぇ。……サッカーも余裕があるときじゃなくて、ないときにあえてやっていたんです(笑)。ネームに詰まって、途中までしかできていないのに原稿を始めるときがあって。スタッフに作業をさせたまま、ネームの続きを喫茶店でやって。……要はその週の進行が遅れてるんですよ。「また最終日に徹夜で、そのまま昼までかかるなぁ」って流れも見えるんで、ちょっと嫌になって遊びたいと思ったんです。それで僕が仕事場に戻るときに、喫茶店と仕事場の間にある公園にスタッフを呼んで……15分くらいか……もっとしてたかな? たしか昼の休憩中にもやっていました。
笠原 あんまり子供がいない時間帯を選んでましたよね。
 うん。子供がいないときに、大人が5、6人で、ハーフコートくらいでサッカーをして(笑)。意外とみんなガチでやるから面白かったよね。笠原はひっくり返るくらい本気でやってるから本当に面白かった。
笠原 あとは、たまに映画なんかも流しながら作業をしていました。終わった後に、原先生からどうだった? って聞かれたり。そんな具合に、先生に気遣っていただいたので、現場が辛かったって思い出はないです。

──どんな映画を見ていましたか?
笠原
 ホラーが多かったですよね。

──それは原先生がお好きだった?
 いやー、覚えてないですね(笑)。眠くてしょうがなくて流してたんじゃ……。
笠原 たしかその時は、色々と重なった結果……僕が14日間、泊まり込みをしたときです。
 紫夏編の時だよね……。『キングダム』8巻の後書きに、「14連泊した者も」って書いているのですが、これが笠原ですね。笠原は家が遠かったんだよね。
笠原 はい。電車がなくなっちゃうので……。
 近場に住んでるスタッフは、家に帰っていたんですが、笠原だけはもう一泊、もう一泊……って言いながら、ずーっと居てもらったんだよね(笑)。
笠原 でも、最初から14日分の用意はしていたんで(笑)。
 たしかネームを2話分作らなければいけなかったんです。先にネームをやって、そこから原稿を2週連続で描いてたんですけど、僕はできた原稿が気に食わなくて、何度も捨ててやり直していたんです。一度仕上げたもののネーム自体が気になって、そこから何回も描き直しを繰り返して。
笠原 僕はそれは知らなかったです。
 あ、覚えてない?
笠原 僕までは伝わってきてなかったと思います。
 ほんとに? 多分、僕はピリピリしてたけど、笠原は何も嫌な顔せずに頑張ってくれていて。“一番笠原が割り食ったなー”と、思ってた。
笠原 いやいや、全然です。
 ほんとに嫌な顔をしないから、凄く甘えちゃったんだよね。

──原先生は、作業中にスタッフの方と話をされたりしていたのですか?
笠原 作業中は、漫画に集中されていました。たまに飲みに連れて行ってもらったりもしていましたが。
 僕は意図的にアシスタントと距離を作るようにしているんです。むしろ笠原とは、彼が作家になってからの方が喋るようになりました。作家になって初めてできる会話も多いんですよね。
笠原 アシスタントやっていた時に読む『キングダム』と、連載作家になった後で読む『キングダム』は全然違います。アシスタントを卒業してからの方が、ドラマ重視で描かれている事は実感できました。〝この物語は、これを言いたくて描いていらっしゃるんだな”ってことへの読解力が増してるというか、自分が連載するようになって気づくことも多いです。

──作家になってから見る『キングダム』は、どのあたりが違って見えるのでしょうか?
笠原 ページの熱量が高いなって思います。自分で描いてみて、ああした画面を作り、それを継続しすることが、いかに大変かが分かりました。本当に尊敬します。

──今は、どういったタイミングで、会われるのでしょうか?
 節目節目の……新年会とか、イベント事がある時です。
笠原 あとは原先生が東京にいらしたタイミングで、呼んでいただいたりとか。
 お互い忙しいから、そのくらいが精一杯だよね。

●現場からの卒業と『群青戦記』誕生まで

──歴代のアシスタントの中では、2年間というのは、長い方なのですか?
 基本、すぐに辞めるか、長く続くかに分かれるんで。笠原の2年っていうのは、早い方ですね。
笠原 当時、原先生のところで仕事をしながらも、自分の原稿を描いて、「デビューしたい」という思いがあったんです。それで、原先生に相談して、卒業させていただきました。
 うちを抜けたときの笠原は、何かの賞に入ったんだよね。
笠原 はい。「ヤングジャンプ」とは別の雑誌で……(編註 2009年「ヤングマガジン」主催の、ちばてつや賞・ヤング部門で優秀新人賞を受賞)。
 そのタイミングで笠原に火がついて、相談を受けてね。ちょっと早いな、とも思ったんですけど、本人がやる気があるならって。でも、そこから『群青戦記』までは、少し時間かかったよね。
笠原 3年ぐらいです。先生のところを卒業して、バイトしたり他のアシスタントの現場に行ったりしてました。

──先ほど出た、「ちょっと早いな」というのは?
 ちょっと上からな言い方になってしまうんですけど、当時の笠原のネームを見たときに、連載にまでたどり着くには、もう三段階ぐらいネームの壁を超えないと、と思ったんです。ネームにアドバイスして、直したのをまた見てアドバイスして、というレベル上げが三段階くらい必要じゃないかと思いました。
笠原 辞めた後、「やっぱり早かったな?」と思ったりもしました。
 でも、ずっとウチにいても、どうなったか分かんないからね。あのタイミングで一回出たのが良かったんじゃないかな。そうでなければ『群青戦記』も生まれてないだろうし。
笠原 卒業はしたものの、「ヤングジャンプ」の連載会議に企画が通らず鬱々とする中で、原先生のお力をお借りしたいなと思って、ネームを見ていただいたこともありました。
 笠原の良いところは、卒業した後も「ネームを読んでもらえませんか?」って持ってくるところなんですよ。中々そういうことをできる子は少ないんで。
笠原 いやもう、甘えちゃってるというか(汗)。
 で、ある時、『群青戦記』のプロトタイプ版を持ってきてね。タイムスリップをする話で、面白いなって思った。でも、タイムスリップのきっかけが、科学者だか学校の学生だかの科学実験でっていう感じだったので、それは強引すぎるんじゃない? っていう感じのアドバイスをしたんです。タイムスリップのときに、地面からセミが出てくるアイデアも、最初はなかったかな。
笠原 なかったですね。
 あのセミが地面から出てきて脱皮して死ぬって演出、僕は凄く好きなんですけど、ああいう演出は笠原が自分でゼロから生み出して来たんで、おおっと思いましたね。

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『群青戦記』1話で、タイムスリップの際、大量のセミが羽化するシーン。

──笠原先生としてもあのセミのシーンは会心のアイデアでしたか?
笠原 どうでしょう……。でも先生も推してくださったので。
原 僕がやたら褒めるんです(笑)。

──ちなみに、高校生アスリートが戦国時代に行く、というアイデアは、どういったところから生まれたのでしょう?
笠原 連載会議に企画が通らずにいた当時……2012年だったんですけど、たまたま深夜テレビを見ていたら、ロンドンオリンピックをやってたんです。それで、フェンシングとか、馬術とかアーチェリーを見ていたら、「競技っていうのは戦争が起源になっているな」って気づいたんです。つまり、アスリートってのは、「戦わせたら強い集団」だと思ったんです。
 元々タイムスリップ物を描こうと思ってたわけじゃないんだ?
笠原 はい、競技を見て、この人たちが戦国時代にいたら面白そうだな……っていう感じですかね。それで、僕の通っていた高校はスポーツ強豪校だったので、それをモデルにした話を考えて、連載会議に出したら通った……って感じです。

── 一方で原先生は、どういったプロセスで『キングダム』のアイデアを着想したのでしょうか?
 僕は元々歴史が好きだったんです。『キングダム』の前、学生時代に描いた読切でも、幕末を舞台にしていましたし。その一方で、自由に物語を作りたいから、日本ではあまり定着していない舞台を選んだんです。例えば『三国志』だと、皆知ってるし、“このキャラはこうじゃない!”とか、“こんなエピソードはない!”とか、色々突っ込まれちゃうじゃないですか。だったらもう、もうちょっと資料の少ない、皆が知らない時代にしようと。……実は別の目的で『史記』を調べていたのですが、いざ読んでみたら、"これをそのまま歴史ものとして描いた方が面白いな”って思ったんです。

──笠原先生は、歴史ものへの興味は、以前からあったんですか?
笠原
 学生の頃は、歴史が苦手で敬遠していたんですけど、『群青戦記』を描こうと思って調べてみたら、面白く感じられるようになりました。

──『群青戦記』を描く上で、資料調査などは苦労されましたか?
笠原
 歴史の出来事も勿論ですが、作中に登場するスポーツについてのリサーチにも苦労しました。歴史の方は、専門家の方が監修についてくださったので、そちらの話も聞きながら進めていきました。

──参考までに、お二方の漫画の作画環境をお聞きしてもよろしいでしょうか?
 僕はずっとアナログですね。
笠原 僕は今はデジタルに移行しました。

──移行というのは、いつ頃でしょうか。
笠原
 『群青戦記』を始めて〝本当に週刊連載って、時間が無いな”って思ったんです。時間のなさから、どうしてもデッサンが狂っていってしまって……〝これをどうしよう?”って考えて、そこから修正が可能なデジタルの方が自分に向いてるんじゃないかって結論になって、移行していきました。
 どの位から移行してるの?
笠原 『群青戦記』の3巻位から、デジタル化を始めてると思います。それでも、線画はペンで描いていたんですが、10巻位からは線画もデジタルになってますね。
 線画もデジタルに?
笠原 フルデジです。

──作品を描きながら、アナログからデジタルへ移行して行くのは、苦労したのではないですか?
笠原
 大変でした。週刊連載しながらでしたし。
 連載しながらの移行は難しいって、みんな言ってるよね。
笠原 もう、やるしかないっていう状況だったんで、強行しました。それと、原先生とか、松原先生が、アナログで凄い力強い絵を描かれているじゃないですか。自分は同じ方法ではそこまでたどり着けないだろうなと感じていたのも、移行の理由の一つでした。

●同じ誌面で連載する作家として


──『群青戦記』が、同じ「ヤングジャンプ」で始まって、原先生としてはどう思われましたか?
 笠原がゼロから生み出したものにリスペクトはありました。ポテンシャルの高いものを生み出していて、凄いなと。ただ、客観的に見れなくて、「笠原の作品だ」という風な見方になってるんですね。贔屓目で見たり、変に厳しい目で見たりしてしまうから、心配になるときもあれば、面白いって拍手するときもあります。……でも、笠原には、ちょくちょく「面白い!」って言ってたよね。
笠原 はい。信長の登場回のコマ割りは良かったって、メールをいただいたりもしました。先生も本当にお忙しいのに、「僕だったらこうする」みたいなアドバイスの文章を送ってもらったりもしました。
 あったね。お節介過ぎるかもしれないけど、時々変なスイッチが入っちゃって、メールを送ったりするんです。演出の仕方……「こういう絵が見たい」みたいな意見を(笑)。「旗とか家紋をドン! と見せようよ!」みたいな話をして、ラフも描いて送ったんだっけ。
笠原 そうですね。あとは武将の兜は先祖の証だから、そういった家柄への思いを描いてもも良いんじゃないか、といったアドバイスも。
 同じ雑誌に、歴史を題材にしたマンガが載る訳だから、それぞれの作品の「色分け」が武器になる訳ですよ。僕は『キングダム』で昔の中国の色を出す。一方で、笠原の『群青戦記』は、馴染みある日本の甲冑が出てくるという点が、独自の色になる訳で、最大限使った方がいい。だからカッコいい甲冑をドンと見せろ……といった感じのことを言ったんだと思います。あと、旗も、日本のは縦長で、独特な形じゃないですか。だからその特徴が映えるように下からアオるような見せ方がいい、とか。
笠原 コマ割りでいえば、縦長になるように描くんだ……と。あと兜は、17巻などでカッコよく描いてみました。日本っぽい感じで描いたほうがいいよ、ということをおっしゃっていただいて。兜は大事にしてました。旗とかはこういったオリジナルの旗ですよね。

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『群青戦記』10巻より、味方の救援が登場する重要なシーンで、印象的に描かれた旗。

──原先生から見て、笠原先生の作品は、原先生の作風を受け継がれている、と感じる事はありますでしょうか?
 系譜みたいなものはあるよね。「ヤンジャン」に一緒に掲載されてると、画面の濃さとかで同じ系譜ですよねってよく言われます。笠原も松原も、しっかりと絵を描いてるし。
笠原 特に松原さんは、メチャクチャ濃い絵ですからね。
 作品がイケメンじゃない感じというか(笑)。
笠原 泥臭さ……みたいな感じですかね。
 そう、泥臭い。『キングダム』もイケメンじゃなくて、泥臭い熱量を出す作品だと思っていて。笠原の作品にも、そういう泥臭さがあるのが好きですね。お互い、もがいて描いているなっていう感じがします。

●歴史を題材としたマンガを描く心構え


──『キングダム』も『群青戦記』も、歴史を題材としたマンガですが、両先生は物語を描く上で、史実とフィクションのバランスを、どのように取ろうと心がけていますか?
 『キングダム』の場合は、資料に二、三行しか記載されていない出来事ばかりで、情報量が少ないんです。ただ、その記述を無視しちゃうと全部フィクションになっちゃうから、そこは動かさない「骨子」として、後は自由に描くって方針ですね。一方で、歴史を伝える話ではないので、描きたいテーマを伝えるために伸び伸びと描く、ということも心掛けてます。
笠原 ドラマ重視、ですね。
 そう。ドラマ重視。

──笠原先生は、いかがでしょう?

笠原 僕は、そもそもの設定がタイムスリップというブッ飛んだものなので、大胆にやらせていただいてます。特に武将のキャラ付けとかは、バチが当たるんじゃないかってくらい大胆にやってるんで……折を見て、その人のお墓に謝りにも行ってます。
 行ってるの!? 偉い!
笠原 本能寺も行きましたし、大阪城の秀吉像に「すいません」って言いに行ったりとか。あと『真・群青戦記』の真田にも、「好き勝手描かせていただきますけど、よろしくお願いします」ってお参りを。

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『真・群青戦記』は笠原先生が原作を手掛け、『終末のワルキューレ』(作画)のアジチカが作画を務める最新作。週刊ヤングジャンプで連載中。

 ちょっと分かる。僕は紀元前だけど、それでもバチが当たりそうな気がするもん。

──歴史ファンなどからの反応は、気にされていますか?

笠原 「こんな風にこの武将を描いて大丈夫かな?」って、恐る恐る描くこともあったんですけど、SNS等の反応を見てると、意外と皆さん寛容でした。ただ、ビビってエンターテインメント性が欠けてしまうのは違うと思うので、思い切って描いています。

──『キングダム』の方でも、歴史好きな方からの反響はありますか?

 そうですね。驚いたのは、「始皇帝は良い人だ」っていう風に思っている方が増えているんです。僕たちの世代は、始皇帝って悪いイメージしかないので、逆説的に描いたら面白いだろうって思って、『キングダム』を始めたんですけど……今となってはこっちのキャラクターが広まっているという(苦笑)。
笠原 『キングダム』を初めてヤングジャンプで見た時、“これは普通の歴史マンガじゃないな”って思いました。ちょうど山の民の登場していた頃でしたが、仮面を着けて戦ってたり、楊端和が女だったり、崖に山の民の城が立ち並んでるシーンが見開きで描かれていて、そこから惹かれていきました。僕みたいな歴史が好きじゃなかった読者も巻き込んで人気になっているなという印象を抱きました。

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笠原先生は『キングダム』の独特な雰囲気に惹かれたという。

──歴史に興味がない読者も、エンターテイメント性で惹きつけるパワーがあったんですね。
 いかに歴史に興味がない読者にも作品を届けるか、ってところに気を付けて描き始めましたね。

●映画『ブレイブ -群青戦記-』に思うこと

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実写映画『ブレイブ -群青戦記-』3月12日(金)公開!

──映画『ブレイブ -群青戦記-』の話に移りますが……笠原先生は、最初に映画化の話を聞いた時、どう思われましたか?
笠原 正直、映画になる事は全然想定していなかったというか……何年か前に、映画化するという話をいただいて、それからずっと進行してるらしい様子はあったんです。でも正直、どうせ実現はしないだろうなって思ってました。それが、蓋を開けてみたら、素晴らしい監督とキャストの皆さんで……想像以上の布陣にびっくりしました。

──初めてスタッフを伝えられた時はどうでしたか?

笠原 確か、スタッフもキャストも、いっぺんにバンって見せられたんですよ。それを見て……どこからびっくりして良いのか、判らない感じでした(笑)
 そりゃビックリするよね(笑)。

──本広監督の作品は、以前から見られていましたか?

笠原 はい。マンガ家になる前会社員の頃に、『踊る大捜査線』を劇場で見ていたんですけど、その時はまさかその監督が自分の作品も監督するなんて、想像もできませんでした。

──ちなみに、原先生の方は、『キングダム』が映画になるという話が来た時に、どう思われましたか?

 僕の場合は、予算的にもスケール的にも、実写化は無理だろうなと思っていました。実際に映画化の話が来たのは、何十巻も描いた後でした。しかし、プロデューサーさんと綿密に話をさせてもらって、“これは本当に実写化できるかも”と思った。そこで一回喜びつつも、どういう風に実写化すればいいんだろうと考える方に頭を切り替えました。

──制作の方にも、関わっていったのですか?

 はい。少しでも良いものができるように、脚本に関われるようにしてもらいました。ただ、あまり原作に忠実に実写化することに囚われちゃうと、二時間の映画にならないから、“どんどん変更していいですよ”って話もして。

──今回の『群青戦記』も、映画に合わせて原作の内容を大きく再構成していますが、いかがでしたか?

笠原 当初お話をいただいた時点では、個人的には設定だけ利用してもらって、後は自由にやっていただければ……と思っていたんですど。それが、上がったものを見てみたら、原作の良いところも残していただきつつ、映画化された感じで、バランスの取れたエンターテインメントになっているなという印象を抱きました。

──脚本などもチェックされたのですか?

笠原 はい。最初の脚本では、例のセミのシーンがなかったので、こちらからお願いして、入れていただきました。
 そうなんだ。
笠原 出来上がったシーンすごい良かったです。セミの幼虫の生々しさの表現とか、映像の見せ方がさすがでした。

──完成した映画『ブレイブ -群青戦記-』を見られて、どの様な感想を抱かれましたか?

笠原 自分が描いた作品ですが、映画は別の物として考えていました。でも映像になって観たら、「こんな風になるんだ」って思いました。自分が描いた物とは良い意味で別物になっていて。ビックリしたというか高揚感というか、体験したことの無い気持ちになりました。
 感動して泣いたりした?
笠原 エンドロールで自分の名前があったときに、グッとくるものがありました。
 僕も笠原の名前が出たときにグッと来た。『キングダム』の映画のときは、僕は制作側にも回ってたので、エンドロールで自分の名前が出てもそこまで感動はなかったんだけど、友達や会社の先輩は、僕の名前が出たところで泣けたって言ってくれたんです。それで今日、笠原の名前を見た時、その時みんなに言われた事が分かりました。こういう事かーって。一番感動したかもしれない。

──笠原先生は、撮影の現場には行かれましたか?

笠原 はい。現場を見るのは初めてだったんですけど、見学していたシーンが、実際に映画として完成すると、本広監督のチームの技術の高さや、役者さんたちのカメラを通して演技を伝える力のすごさを感じました。

──主演の新田真剣佑さんはどうでしたか?

 新田真剣佑さんは、蒼そのものでしたね。びっくりしました。
笠原 『群青戦記』の蒼って、少し鬱屈してる部分があるんですけど……新田真剣佑さんは、精神的にもイケメンというかスゴく凛々しい感じじゃないですか。でも映画の中では、ちゃんと最初は鬱屈してる部分もあって、そこの演技もハマってて良かったです。
 最初から表情が蒼だったね。素でそういう人かと思っちゃう位、本当に蒼だって思いました。それで段々と決意を固めていく過程で表情が変わっていって……感動しましたね。
笠原 あと、新田真剣佑さんのお父さん(千葉真一)は、映画『戦国自衛隊』に出ていますし、あの作品は、『群青戦記』とも共通するテーマがありますから……なんだか凄い繋がりができてしまったと思います。
 それと、三浦春馬さんの家康(作中では、松平元康)も良かったです。声が良いし、カッコいいし、本当に家康だなって感じで。
笠原 『群青戦記』の家康って感じでしたよね。渡邊さんの不破が出す、陰のオーラに対して、明るい陽のオーラ、本当に明るい光みたいな感じでした。

──高校生チームと対照的な、戦国武将としての立ち振る舞いが決まってましたよね。

笠原 凄く寄せて頂いたというか、原作を良く見てくださったんだなって思いました。
 最後の蒼のシーンもかっこよかったね。ネタバレになるから詳しくは言えませんが(笑)、本当にかっこよかったなぁ。
笠原 そこの新田真剣佑さんの顔が、三浦春馬さんに似てましたよね。
 声も凄い似てたよね。

──不破瑠衣役の、渡邊圭祐さんはどうでしたか?

笠原 原作の不破は、現実離れしてるキャラクターだったので、最初は誰が演じるんだろうって思ったんです。渡邊圭祐さんは、若い方ですが、いい雰囲気を出して不破を演じられていました。実のところ、渡邊さんのことは存じ上げていなかったんですが、映画を機会に好きになりました。
 僕も渡辺さんが好きになりましたね。後はヒロインの山崎さんも、すっごい良かったですね。
笠原 そうですね。芯の強さを感じました。
 観客を凄く引き込む力のある方だと思います。

──映画の中で、一番気に入ったシーンはどこでしたか?

笠原 やっぱり決戦に向かう前の、新田真剣佑さんと三浦春馬さん……蒼と家康の会話シーンですね。本広監督が記者会見で、「この映画は《継承》をテーマにした」って仰ってたんですが、あのシーンを見ていて、「ちゃんと継承されたな」ってことを感じて、感動しました。
 あそこはすごく絵的にきれいだったよねぇ。

──原先生は、どうですか?

 率直な感想としては、終わって拍手したい位、面白かったですね。何回か涙も流したし、見どころいっぱいあったし、良い緊張感でしっかりと見れて面白かったですね。それと『群青戦記』は、本当に映画に向いていた作品だったんだなって、改めて思いました。凄くスケールが大きくて、高いポテンシャルを持ってる原作を、映画ではキッチリとまとめ上げて昇華してもらえていたと思います。あと、自分は合戦をする時の掛け声が好きなんです。エンターテイメントをする上で、あれは重要な武器になるものだと思っていて──タイムスリップした高校生たちが、この先の方針が決まって「やるぞーっ」って掛け声をかけたり、合戦が始まる前に「おーっ」て叫んだりするシーンは、奮い立つし面白いと思った。あとは、先輩を助けて後輩が戦うといった、高校生ならではの構図も美しかったね。あの辺はちょっと涙が出ました。アメフト部がお母さんの話をするシーンも凄く良かった。
笠原 みんなでお弁当を食べるシーンですね。
 原作のアメフト部員の「お母さんの唐揚げが好き」ってくだりを使ってるのが良かったよね。

──読者の方に、ここを見て欲しいというシーンがありますか?

笠原 なにより、新田真剣佑さんが演じる蒼の成長ぶりですね。
 僕はとにかく面白いから映画館に行ってください、というところですかね。良いシーン盛りだくさんだし、見た後で話が尽きないですね。
笠原 3月に公開なんですけど、4月に高校に入学する人で、どの部活に入ろうかと悩んでいる学生さんは、この映画を見て、部活を選んでもらってもよいと思います(笑)。
 部活の中では、科学部も良かったよね。特にあのオニギリくん(笑)。
笠原 坊主頭の。
 現代への戻り方を考えてた子。
笠原 ああいう笑えるシーンもあって、面白かったですね。
 本当にエンターテイメントを楽しめる作品だよね。

──では最後に、お互いに向けてメッセージを頂けますか?
 今の笠原は、映画『群青戦記』の公開で注目されて、チャンスを掴むときが来ていると思います。ここで全力で『真・群青戦記』の方も当てて欲しいな、と。とにかく元気に頑張って、ガムシャラにやって、「ヤンジャン」を二人で盛り上げて行けたらいいなと思います。
笠原 右も左も判らなかった僕を拾ってくださって、マンガ界に入るきっかけを作って頂いた原先生には、スゴく感謝しています。……普通、素人は採らないですから。原先生は、どんどん遠くへと進まれていますが、なんとか自分も喰らいついて行けるよう、頑張ります。


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