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「いつも通りの日常は壊れて消えた。」医療SF『疫神のカルテ』を最高のコミックスで届けたい!【YJ担当編集note】

こんにちは。ヤングジャンプ編集部のRと申します。入社4年目の社員で、普段は「週刊ヤングジャンプ」「となりのヤングジャンプ」で漫画作品の担当をしながら、新連載企画や読切作品を様々な作家さんと共に作っています。

主な担当作品:「バトゥーキ」「メイド・イン・ひっこみゅ~ず」(サンカクヘッド)「久保さんは僕を許さない」「転生ゴブリンだけど質問ある?」「疫神のカルテ」

本記事では3/18(木)にコミックス第1巻が発売となった「疫神のカルテ」という作品についてご紹介したいと思います。!

●死に至る病が蔓延する世界を舞台にした超絶SF医療アクション!その凄みとは?

「いつも通りの日常は壊れて消えた。」

今となっては重い響きとなってしまった本編の一説の引用になりますが、そんな死に至る病が蔓延した世界を舞台にした「疫神のカルテ」は2020年11月からWEB漫画サイト「となりのヤングジャンプ」とアプリ「ヤンジャン!」で連載されている、医療をテーマとしたSFアクション作品です。

作者は樋口紀信先生。

まずは担当編集より作品の見所をお伝えしたく思います!

アイコンやサムネだけでどうしても判断されてしまうWEB漫画、なんとか中身を見てもらえたら…!これはその場所に作品を持つ全編集者の願いです。ワンタップしたその先には作家さんが生み出した大きな世界が広がっているのに…!そんな日々の葛藤こそがこのnoteを執筆しようと思ったきっかけでもあります。

特に本作の魅力はなんといっても全ページクライマックスともいうべき、音楽で例えるならボリューム全開で続く爆音サウンド、その圧倒的なテンションと熱量です。正直、解説などは野暮、ハイテンションなキャプションと共に「見所をそのまま」ご覧ください!

作品世界に強制没入する息継ぎの間がないボルテージ!!

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ページをめくるたびに次々撃ち込まれる見せ場と決めゴマ!!

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声に出して読みたくなる、叫びたくなる、パワーワード全開の言語感覚!!

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問われる、鼓舞される、突きつけられる、重量級セリフの数々!!

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灼熱を画面全域に活写するエネルギーの塊のような見開き!!

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とにかくオススメポイントの全部に「!」をつけたくなる、樋口先生が繰り出す絶え間ない熱量の放流に脳が焼けてしまうようなそんなエネルギッシュな作品なのです!

上がった原稿を入稿作業をしている時、セリフの書体を指定する赤ペンを思わず強く握ってしまい、書く文字も心なしかでかくなってしまう!作業中にかかっていない爆音サウンドが聴こえてくるような気がする!仕事として原稿に向き合っていてさえ迫りくる強制没入テンションが一巻分たっぷり詰まっております!

この熱!この雰囲気!この言語感覚!好きな方にはこれ以上の私の解説などは全く不要かと思います!是非下記より本編を試し読みしてみてください!

しかしここだけでは疑問に思う方もいらっしゃるかもしれません。「医療漫画」なのになんで軍人が対応しようとしているの?画面全域がずっと燃えているのはなぜ?医者はどこだ?

この作品は、”疫神症候群”という超常能力を発現し死に至る病が蔓延した世界が舞台。発症した患者は多くの人から「死神」と呼ばれ、治療の機会もなく軍隊によって殺害されることが黙認されています。

そんな中、自らも疫神症候群の患者でありながら、その超常能力を使って患者の治療に挑む「医療遂行機構」という存在。主人公・赤野衣兎は兄の発症を機に医療遂行機構のメンバーと出会い、疫神症候群とその患者を巡る様々なドラマに直面していく・・というストーリーです。

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「医療」と「異能」と「救済」という重厚なテーマ。そう簡単に事態が収束するようなスケールではなく「病と戦う」様々なキャラクターが続々登場しながら、もちろん連載は隔週更新で絶賛継続しております!アプリなら「となジャン」よりも先の話まで読めます!

●「病に苦しむ全ての命を救うために医者は戦う」アクションだけじゃない、普遍的で熱い医療と救済の物語

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ここまではハイボルテージなアクションコミックとしての本作の見所について書きました。もちろんこの作品で登場する病も状況もフィクションです。ですが、病が世界を覆う未曾有の事態は今まさに目の前で起きている出来事でもあります。

樋口先生自身も第1巻のあとがきで触れていらっしゃるのですが、「医療SFアクション」という構想で作られたこの作品は、実は昨年来のコロナ禍を受けて描かれたものではなく、大元のアイデアは私が担当となる以前の2017年、具体的な構想としても2019年の前半頃から既にあったものでした。

連載決定後にコロナ禍が本格化してしまう状況となり、現実の世界が大きな厄災に包まれる中で果たして「エンタメ」としてこうした題材はどのように受け取られるのか、不安がなかったわけではありません。

しかし、本作の大テーマとしての「医療とは何か」「救済とは何か」という部分は、樋口先生の中に元から強く存在していたものです。

いかなる時代、いかなる状況であっても、もちろん今この瞬間もどこかで命を救うために戦う人々がいる。

「医療と救済の物語」、このテーマは非常に普遍的で人が生きていく限り必ず向き合うことになるもの。「疫神症候群」という恐ろしい厄災と命懸けで戦うキャラクターたちのドラマはいつの時代でも、そして不安立ち込める今の時代なら一層、多くの人に響く作品ではないかと思っています。

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●制作秘話❶「WEB漫画の常識外の驚きを届けたい!」

さて、ここからは興味を持っていただいた方にこの作品が連載に至るまで、そしてコミックス制作にあたって行ったちょっと通例の作品とは異なるアプローチについてもお話したいと思います。

ここまでご覧いただいた通り、医療用語と軍事用語が織り込まれたハードなセリフ回し、見開きが多用され、非常に高く繊細な画力で描き込まれたハイクオリティな画面。本作は一般的な「WEB漫画」のイメージからするといささか「らしくない」作品かもしれません。

なぜこのような作品を「紙の雑誌」ではなくWEBで発表しようと思ったのか。そこには編集者として「WEB漫画の常識外の作品で読者に驚きを届けたい」という想いがありました。

読みやすく、キャッチーなものが揃ったWEBの連載陣の中で、異質な存在感を放つこの作品は、WEB漫画に読み慣れた読者の方にとって新鮮な漫画体験を届けられるものだと思ったのです。

また、雑誌連載と異なり、WEB連載は常に過去話を無料で読み始めることができます。話を重ねるごとに面白さを増していく本格・重厚な作品だからこそ、WEB連載の方が作品の魅力を伝えるのにふさわしいのではないか、という考えもありました。

デジタルの世界は多様なようでいて、アイコンやタイトルのキャッチーさで読者数が大きく変わってしまう世界です。そうした中でもこうした「骨太」な作品を送り出し続けていくこと、WEBが主戦場になりつつある今、挑戦し続けなくてはいけないことだと思っています。

●制作秘話❷「樋口先生の圧倒的な熱量を凝縮した最高の一冊を作る!」

WEB媒体は最新話やそれまでのエピソードのかなりの部分が無料で楽しむことができるので、多くの読者様と出会うチャンスがある反面、商品となるコミックスに関してはこれまで以上により魅力的な形にしないと手にとっていただくのは難しいという課題もあります。

特に元々がWEB漫画の枠ですら収まらないスケールを目指した本作の最高の読書体験は「コミックス」がもっともフィットします。

そこで連載が決まった2020年1月、すなわちコミックス第1巻発売の1年以上前から、「読者にコミックスでどう楽しんでもらうか」ということを樋口先生と共に考えてきました。

「コミックスで最高の読書体験を提供したい!」

「樋口先生のこの圧倒的な熱量を凝縮した一冊を作る!」

まだ連載が始まる前の時点でそこをゴールとして、他作品とは大きく異なるアプローチで準備を開始することをにしました。

●制作秘話❸連載前からカバーデザインを開始

まずは、カバーデザイン。コミックスの「顔」となる非常に重要な要素です。しかし、実際には連載開始してから慌ただしく準備していくケースが多いです。これを思い切って連載開始前、まだ作家さんとしても時間的な余裕が十分に取れる段階から開始しました。

先生にいくつかラフを描いていただき、構図、ポージング、全体の色調を決めます。ラフが決まったら仮の作画とカラーリングをしてもらい、デザイナーさんに渡してロゴレイアウトの打ち合わせ。ロゴを赤にするか青にするか、白と黒のバランスをどう取るか、そして全体のロゴの置き方をどうするか・・・今の形で決定するまで30パターン近くのデザイン案をお願いした記憶があります。

下に貼ったのは最終的な決定デザインとほぼ同じ配置で、背景のカスレ枠の角度、ロゴのカラーリング、デザインのカラーバランスなどを変えたデザインラフ差分です。この時点では絵もまだ仮イラストの段階ですね。本当に細かい差でしかないものもありますが、絵の迫力、繊細さ、美麗さ、力強さ、カッコよさ、その魅力を一番引き立てるデザインを模索したあとです。

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そしてこれが決定版のデザイン。

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青と白を基調としたスタイリッシュなデザインになりました。また、このデザインに合わせ、先生もキャラの影の部分にブルーを使うなど、イラストの雰囲気もデザインにあわせて細かく微調整しています。

連載前に1巻のカバーが完成している、というのは非常に稀な進め方だと思います。

しかしながら「ゴールはコミックス」とした時に、カバーアートを決めておけば、本編の一番の見所や売りは何か、しっかり作家さんと担当が共有した状態で連載に挑むことができる、打ち合わせの指針をビジュアル化したものとも言えると思います。

また昨今はカバー画像の露出は早いほど、予約などで読者に購入して頂けるきっかけを増やせるとのデータもあります。早い段階でコミックスのカバーイメージを認識していただくことで興味をもって頂く機会を増やしたい、との思いもありました。

●制作秘話❹「巻単位」で構成を打ち合わせる

もちろんデザインだけ整えても意味がありません。「無料で読める連載だからこそ、より魅力的なコミックスを作る」ため、第1巻の内容について先生ときちんと練り上げてから連載を始めたかったので、連載決定から10か月ほど、通常の倍近くの準備期間を編集部からもらって、主にコミックスの1巻分の内容の構想に費やしました。

「コミックスで読むのが一番面白い」ことを目標に1巻分の範囲の中でどんなことをするか、ということを樋口先生と話し合い、話のまとまり、ページ配分を考える。

各話のページ数設定もその一つです。

漫画連載の1話のページ数というのは雑誌における収録本数や作家さんの執筆力を勘案して概ね週刊連載であれば18P相当というのが伝統的に設定されています。

しかし、「話の区切り」というのはテレビドラマがそうであるように、そこで一定のヒキやオチを組まねばならず、必ずしもその伝統的なページ数がベストとは限りません。

樋口先生の迫力のある見開きや大ゴマで印象的なセリフを見せる作風を最大化してボルテージを切らすことなく読んでもらう場合、話としての区切りの最適なページ数は様々です。すなわち「そのエピソードを一番面白く描くのにベストなページ数」だけを考えた場合、50ページだったり20ページだったりそのバラつきは非常に大きくなるわけです。

一方で連載では更新頻度を維持するため、長い話は分割して2話分、3話分という形で細くチャプター切って更新する形としました。

となると…「あれ?切ってしまうなら同じじゃね?」と思われた方もいると思いますが「コミックスで最高の読書体験を提供する」のを最優先し、通常の連載と発想を大きく変えて、連載時の区切りは逆に便宜的なものと割り切る決断をしました。

また、樋口先生の絵の魅力を本で存分に楽しんでいただくため、スマホで読むことの多いWEB漫画では避けられがちな「見開き」も制限することなく全開で入れ込んで頂いています。

こうして巻単位で打ち合わせを重ね、連載開始前の時点で、コミックス第1巻分、180ページほどの本編のネームを完成させた状態にしました。

●制作秘話❺「描きおろしエピソード」を丁寧に作る

連載をすでに楽しんでいただいた方にさらにコミックスを手にとっていただくためには特にWEB連載では「描きおろしエピソード」が非常に重要なコンテンツとなります。

ですが、カバーと同じでこちらも連載しながらだと慌ただしく作業することになり「おまけ」程度のものになってしまうことも多いものです。

連載で読んでいただいている読者の方のために、「読まないと本編を楽しめない」ようなものではダメで、でも「読むと本編が何倍も楽しめる」ようなオリジナルエピソード。次の巻ではどんなエピソードが収録されるのか、それを楽しみにコミックスを手に取ってもらえるような、本編の熱い内容をさらに厚く読めるエピソードについて、樋口先生と模索して作りました。

それが13ページの描き下ろし漫画「Extra Narrative.初診(ビギニング)」です。第1話から登場する「医療遂行機構」メンバー2人の出会いを描き、彼らの「患者を救う」という強い覚悟の出発点を知ることができるエピソードになっています。

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そのほか、巻中の空きページに入れる一コマ漫画や巻末に収録するキャラクター紹介など、「疫神のカルテ」第1巻には30ページを超える描き下ろしページがあります。その一つ一つに「無料で読める漫画を、コミックスで買っても十二分に楽しめるように」という樋口先生の想いが詰まっています。

連載開始前から始めた「単行本描きおろしページ」についての打ち合わせは、単行本作業が始まる直前まで続きました。

●紙のコミックスでは「カバー下」にもこだわる

最後に決めたのは私たちが「本体表紙」と呼ぶ、カバーを外した時に出てくるコミックス本体の表紙のイラストです。カバー下、という言い方の方が一般的かもしれません。ここにもメッセージを込めたいと先生と相談し、この漫画の「裏の顔」をテーマにしました。

カバーが芥郎、すなわち「医者」のイラストであるのに対して、本体表紙には第1巻に登場する「患者」が描かれています。「救う/救えない」医者の物語は、裏を返せば「救われる/救われない」患者の物語である、というコンセプトです。ぜひコミックスご購入の際はカバーを外してみていただけると嬉しいです。

●コミックス第1巻、改めてよろしくお願いします!

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ハードボイルドでかっこいいアクション漫画としても、時代に寄り添った「救い」のドラマとしても、非常に熱い物語です。樋口先生の作品のその熱さを一番良い形で伝えられる一冊を作りたい、その制作秘話をお話させて頂きました。皆さんのお手元におく価値のある一冊であると思っています。

既に「ヤンジャン!」「となりのヤングジャンプ」で本作をお楽しみの方も、この記事で初めてこの作品を知ったという方も、第1巻は3月18日に発売されたばかりですので、是非手にとって頂けると嬉しいです!

最後まで読んでいただき、ありがとうございました!