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サウナ徒然草〜偶然さんを探せ。きっと彼はLL COOL J〜

私は東名厚木健康センターの炭酸泉に浸かりながら、どこか落ち着かない様子で浴室内を眺めていた。

それは2週間前のことだ。

SNSのDMに届いた1通のメッセージ。

「つよぽんさん!お久しぶりです。
来月5月1日の仕事帰りにAKCチャンスに恵まれたのですが、よかったらご一緒どうですか?急なお誘いで申し訳ないです。ご多忙な毎日だと思いますので、ご無理はなさらずで大丈夫です。」

実に丁寧な好感度しかないメッセージだったので、私はふたつ返事で快諾した。

しかし、ひとつだけ問題がある。

彼はDM内で「お久しぶりです。」っと言っているが、それはSNSのDMのやり取りが久し振りなだけであり、実際に私は彼の顔すら知らない。

その日以来、私は彼のことを想像した。

いつも見る彼の投稿から私の最大限の想像力を駆使して彼の人物像を思い描いた。

まず彼のSNSアカウントのアイコンだ。
サウナハットを被り綺麗な顎、エラが少しだけ張っている。

身体はそこには映ってはいないが、恐らくマッチョだろう。

背は高いはずだ。

肩幅も相当だ。

私は想像した。綺麗な顎。エラが少し張っている。マッチョ。肩幅が広い。

それはつまりはLL COOL J。

完全にととのってしまった。
彼はLL COOL Jに似ている。

間違いない。

しかし、それだけでは情報は不十分だ。

彼は旅するサウナブロガー。

忙しない毎日の合間に温浴施設だけでなく、それなりにハイプライスなホテルサウナの宿泊体験を投稿している。

どうやら比較的、時間と経済的な余裕がある様だ。

私はじっちゃんの名にかけて推理を繰り返した。

時にはスマホに右手を当ててサイコメトリングをした程だ。

そんな私が出した結論はこうだ。

彼は東京の中心に住むエリート。
丁寧な言葉遣いからは育ちの良さと純朴さが感じ取れたので出身は地方だ。
年齢はおそらく33歳。
多分だがゴールドマン・サックスで働いている。外見はLL COOL Jそのもの。


私は少しだけ憂鬱になった。
私の推理と特殊技能であるサイコメトリングを駆使した結果、彼はどうやら私より格上の人物の様だ。


だがしかし、そんな彼が誘ってくれるのであれば私はそれに値する男。
文字通り裸一貫、私は彼を見つけだそうではないか。

それが私のプライドだ。

私にはヒントは必要ない。

「サウナハットは被ってますか?今日はどこのタオルを使用しますか?」

そんな質問は絶対にしない。

私は東名厚木健康センターの炭酸泉に浸かりながら、どこか落ち着かない様子で浴室を眺めていた。

目の前には肩幅の広いマッチョな村田諒太似の人がいた。

私が想像する彼に限りなく近い人物だ。

しかし、彼は立ち上がるや否やサウナ室に向かったがタオルすら持っていなかった。

私が想像する彼がタオルすらも持たずにサウナに来るはずがない。

どうやら彼は彼ではないようだ。
LL COOL Jにも似ていない。
彼はまさに村田諒太そのものだ。

私は彼を求めてサウナ室に入ることにした。

そこにはLL COOL Jはいなかった。

ひとり気になる目力の強いサウナーがいたが記憶を辿ると、たまに見る常連さんだった。

私はその後も想像上の彼を探し続けた。

少しいかつめのSIMON JAPに似ている彼は私のターゲットだ。

肩幅も広く申し分なかったが、タオルには「箱根駅伝」と書かれていた。

サウナーのタオルは施設で借りるタオルか有名施設のタオルであることは経験上知っている。

どうやら彼も彼ではないようだ。

ここまで来ると全ての人が気になった。

目の前にいる彼は久保建英に似ている。
今にもスペイン語を流暢に喋り出しそうだ。
あーそうだ。彼は私がまだ深夜帯に東名厚木健康センターに通っていた頃、23時に必ず現れる大学生だ。私はその時も彼のことをタケフサ・クボと心の中で呼んでいた。

今では髪を短く切り立派な社会人となっていた彼に、私はサイレントに「お久し振り。」っと囁いた。

私の横にいる外国人の方も気になる存在だ。

恐らく彼はギリシャ人。

新婚旅行にギリシャをチョイスした私には分かる。

欧米の人が日本人、中国人、韓国人を見分けるのは至難の業だが日本人には違いが分かるのと同じ感覚だ。

因みに中国人は高級ブランドに身を包みながらも大概はプーマのランニングシューズを履いている。


もしかしたら私が追い求める彼はギリシャ人なのかもしれない。

SNSのアイコンを疑え。
全てを疑え。

この世界では女の子ですらおっさんであることなんて日常茶飯事だ。

私は彼の動向を注意深く見守ったが彼がサウナ室に入ることはなかった。

それどころか彼は温泉に浸かりながら満面の笑みで。

「ブラボー。ジャパニーズカルチャーイズソーマッチブラボー。」っと呟いていた。

どうやら彼も違う様だ。

そんな最中のことだ、私の目の前に少しだけエラの張った、綺麗かつシャープな顎を持つ男性がサウナ室へと入っていった。

背も高くマッチョ。肩幅も広い。

私は確信した。彼こそがLL COOL Jだ。

私は彼を追いかけてはサウナ室へ入る。

10分もすると、その彼は立ち上がりサウナ室から出て行った。

私も彼を追いかけサウナ室から出る。

そして水風呂に入り彼の横に座り話かけた。

「さとるさん!?やっと逢えましたね。」

LL COOL Jは言った。

「どなたかと勘違いしていませんか?」

水風呂の温度計は16℃を指し示していたが、私の背筋は凍っていた。

私は彼に謝罪しては外気浴をしながら考えた。

サウナで知り合いに会うことを「偶然」と呼ぶ。

パターンは3パターンだ。

①いつもの常連と事前連絡なしに会う
②SNSなどで交流のある人に、いきなり話かけられる。
③SNSなどで交流のある人に事前連絡を頂いた上で会う(計画偶然)

②、③のパターンで私は数多くのサウナ仲間達と出逢ってきた訳だが、私は今まで1度たりとも自ら誰かに話かけたことはない。いつでも私より精神力のある強者達が話しかけてくれることにより「偶然」は成立していた。

私は後悔した。

何故話しかけてしまったんだ。私はただただ私より精神力がある強者達に身を委ねれば良いことを経験上知っていたはずだ。

かくして初めての「お声がけ」に失敗した私だがLL COOL Jを探す旅はあっけなく終わる。現実とは常にそんなものだ。

よくよく考えて見れば私なんて自分をフリー素材だと思っているし特に職業柄失うものはない。地位も名誉もない小市民だ。

私は常にSNSで顔出し上等の精神で生きている。相手は私の顔を知っているのだ。

私はいつもの様にサウナ室の出口付近にあるテレビ前の椅子に座っていた。

そして上段から小柄な男性が降りて来ては言った。

「つよぽんさん。やっと逢えましたね。」

私は満面の笑みで答えた。

「さとるさん。」

私は彼に続く様にサウナ室から出ては水風呂に浸かりながら彼に話かけた。

とにかく答え合わせがしたかった。

以下が答え合わせの結果だ。

・LL COOL Jに似ている △
・長身 ×
・肩幅が広い ×
・エリート ○
・東京の中心に住んでいる ○
・地方出身 ○
・33歳 ○

勝った。

私は確実に勝ったのだ。

私の推理とサイコメトリングは本物だ。

私は近々仕事を辞めようと思う。
営業マンは向いてない。

私の天職は確実にサイコメトラーだ。

今日ここにサイコメトラーつよぽんが誕生した。

最後にこんな私に声をかけてくれた強者「さとるさん」にリスペクトを込めて彼のブログを紹介致します。

ナイスガイかつイケメンが運営するサイトだぞ。少しだけLL COOL Jにだって似てるんだから。

人生は一期一会。
全ての出逢いに感謝。

One Love.

LL COOL Jにはお世話になったのでLL COOL Jの名曲を紹介します。

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