青春徒然草〜それでも私は漏らしてない〜
サウナで考え事をしたところで何も解決しない。
画期的なアイデアをサウナに求めるな。
サウナに入った所で実力以上のものは出てこない。
それどころか大抵のことは忘れてしまう。
サウナ前に私は毎回なにかしらの「お題」を持ち込むがサウナ室に忘れて来てしまう。
酩酊とすれば悪戯にどうでも良い生産性のないことばかりが降って来る。
何が降って来るかは私にも分からない。
そして、今日も私は目を閉じ、魔法の呪文を唱える。
パルプンテ。
パンサラッサ。
オニャンコポン。
魔法の呪文を唱えると私は堕ちていく。
深い、深い、深海に堕ちて行く。
そしてマントルを超え地球の核へと堕ちて逝っては、またマントルを超えブラジル辺りで目を覚ます。
あれは私が高校生だった頃。
高校3年生だった私は体育祭でオレンジ組の団長を勤めていた。
高校生にとっての体育祭は「全て」と言っても過言ではない。
そんな体育祭のメインイベントは応援合戦と言う名の組対抗ダンスバトル。
私はそんな組対抗ダンスバトルの先頭で踊る団長だ。
The 花形 of 花形。
その効果は凄まじく勢いに身を任せた私は高校のミスターにも選ばれてしまった。
小学生の頃は足が速い五味君や神山君が羨ましかった。
中学生の頃は野球部の吉岡とバスケ部の吉岡が羨ましかった。
そうモテるのはいつもスポーツマン。
しかし、高校生になれば足が速くなくてもスポーツが出来なくてもモテることが可能だ。
足が速いことよりギターを弾ける方がモテる。
坊主頭よりも茶髪の方がモテる。
私は中学時代の自分に感謝した。
帰宅部でニキビ面、
家に帰ってはギターばかり弾いていた。
周りは浜崎あゆみや安室奈美恵に夢中だったが私はイングヴェイ・マルムスティーンとヴァン・ヘイレンと鈴木あみが好きだった。
私のヒーローは常におっさんのギタリスト。
そんな日陰でこっそりと過ごしていた少年が高校生になりバンドを組んだ。
ギターヒーロー達とはサヨナラをして、当時の最先端であったリンキンパークを弾けばヒーローになれた。
しかもリンキンパークのギターはびっくりする程簡単だった。
私は感謝した。
イングヴェイ・マルムスティーン師匠に。
話が少し逸れてしまったが、
そんな青春を謳歌する私はオレンジ組の団長として1週間後に清川村のリバーランドで開催された打ち上げパーティーに参加していた。
リバーランドで開催される打ち上げパーティーはこの高校の伝統だ。
後輩達は「つよし先輩」をまるで神の如く称えてくれた。
高校生達は飲めない酒を無理矢理飲み、吸えない煙草を吸っては青春を謳歌した。
そんな私は今では酒も煙草も嗜むが、どちらもデビューは24才。
少しノリが悪いのは重々承知ではあったが十分に場の雰囲気だけで酔えた。
時計の針は12を回る。
完全に酔ってしまった私は夢心地でトイレに向かい小便をする。
股間が温かった。
それから太ももが温かくなった。
そして足下が温かい。
どうやら夢心地の私は息子のベン・ジョンソンを出し忘れた様だ。
私は必死でトイレットペーパーで小便を拭いた。
トイレットペーパーは案外水分を含まない。
私は焦っていた。
とにかくトイレットペーパーをグルグルと腕に巻いては床に滴る小便を拭き続けた。
その時だ。
ドンドンっとトイレのドアを誰かが叩く。
「村井っ!!何してるの!!もう漏れるんだけど。早く出て。」
神崎さんの声だった。
私は不完全ながらも床に滴る小便を最後まで拭き続けてはトイレを出た。
そして皆が集まる飲み会の会場へ戻るとトイレから神崎さんの悲鳴が聞こえた。
「キャーッ。濡れてるんだけどー。トイレ濡れてるんだけどー。」
トイレから出てきた神崎さんは言った。
「村井っ!!トイレ濡れてる。」
私は冷静を装い言った。
「濡れてたよね。俺が入った時も濡れてたよ。」
神崎さんは言った。
「やっぱりー。清掃さんが入ったのかな。」
どうやら神崎さんは酔っている様だ。
私はホッとした。
そんな時だ普段は大人しい康さんが口を開いた。
これはまさに晴天の霹靂だ。
「村井漏らしたでしょ?」
私は真顔で答えた。
「漏らしてないよ。」
どうやら私の黒いハーフパンツは明らかに不自然に色付いていた様だ。
でも私は決して漏らしてはいない。
実際にトイレにいたし、少々青春が楽し過ぎて、うっかり息子のウサインボルトを出し忘れただけだ。
そう、それでも私は漏らしていない
私には確固たる自信と確信があったが、少しだけ居た堪れなくり外に出た。
ここは神奈川県清川村にあるリバーランド。
その名の通り川が流れるコテージだ。
私は明らかに不自然に黒く色付いた黒いユニクロのハーフパンツを誤魔化す為に川に入水した。
今思えば、これが私の水風呂初体験だった。
気持ち良かった。
水温は15℃くらいだろうか。
私の小便が自然へと帰っていく。
私はあまりの気持ち良さに水風呂(川)に大の字になり浮かんだ。
気付けばビショビショだったが、視界には満点の星空がサラウンド。
私は思った。
「帰ろう。」
私は清川村から10km先の家路を目指して2時間ほど歩いて帰った。
人々は多分飲めないお酒を無理矢理飲んでは語っているはずだ。
「村井絶対漏らしたよねー。帰ってこないし。」
私は神崎さんが好きだった。
神崎さんは私の小便を体験したことがある唯一の人だ。
もしかしたら運命かもしれない。
私は数ヶ月後に意を決して神崎さんに告白した。
「好きです。付き合って下さい。」
神崎さんは言った。
「村井は1番仲の良い友達。あとさっ、あの時絶対に漏らしたでしょ。」
私は漏らしてはいないので、必死に説明した。ただただ私のカール・ルイスを出し忘れたという紛れもない真実を。
でも思いは届かなかった様だ。
心が痛かった。
私は今神崎さんに聞きたい。
もしあの日あの時あの場所で私が私の偉大なるモーリス・グリーンを出し忘れなかったら私の彼女になってくれましたか?
そんな事を思い出した東名厚木健康センターでのサウナだった。
サウナは時に人々を青い春へと誘ってくれるものだ。
One Love.
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?