用務員は見た!(用務レンジャーシリーズ)
階段を清掃中、中2男子生徒が一人、授業中の教室を飛び出して来た。
長身のとっぽい感じのお兄ちゃんだ。まぁそこそこ女子生徒にもモテそうな…。
「○○くーん、帰るんだったら職員室に行ってから帰ってねっ」
追いかけるかわいい声。
「うっせぇんだよ」
「○○くぅん、なんで帰っちゃうのぉ?(プンプンと怒った声)」
「うっせーよ」
俺の背後での会話。
このやり取りを聞いていて、俺はてっきり男子生徒をクラスメートの女子が追いかけてたのだと思って聞いていた。
しかしふっと見上げて気がついた。
女子生徒だと思った声の主は先生だった。
30歳前後の目のくりっとした、かわいらしい雰囲気のある講師の先生だ。
その女性講師が、まるで女子生徒の様に、軽く口を尖らせて立っていた。
会話は続く。
「××がうぜえんだよ」
「そんなぁ、××くんがウゼーていってもさ、みんな、がまんして席に座ってんじゃん」
「いやなんだよ、あいつ。ハゲとか言うしよっ」
「だって○○くんハゲてないじゃーん。気にする事ないよぉ。
それに○○くん、帰るって、おうちに帰っちゃうの?」
「…さあ」
「おうちになんか帰ったらさ、親のがよっぽどウゼーじゃん。違う?」
「うぜえよ。みんなうぜえよ!」
「じゃあ、どうするのぉ?公園とか行くのぉ?」
「……うっせーな……」
「公園行って一人でいてもつまんないじゃん」
「……」
「給食食べてから帰ればぁ」
「……」
突然、女性講師は軽く首を傾げ、はたで聞いてる俺がドキドキするほどの甘い口調で言う。
「ねぇ、教室戻ろう♡」
「!…」
「戻ろうよぉ、ねぇ?♡」
講師は熱く少年をじっと見つめる。
「…あぁ、……わかったよ」
少年がふとニヤリと微笑んで言う。
少年はあきらめて教室へ戻っていく....
+++++++++++++++++++
おっ、おい、おい、おい。
い、いいのか?少年。
それでいいのか?
おじさんには今の光景はキャバクラ嬢が客にニューボトル入れさせてるみたいにしか見えなかったぞ。
ほんとに、そこでグラっと落とされちゃっていいのか?
そんな中途半端な説得で納得しちまっていいのか?
おじさんは君の将来に一抹の不安を感じたぞ。
うーむ………。
まあ、いい。少年よ。
いつか、君も痛い目にあって世の中を悟るだろう。
おじさんも幾度となく引っ掛かってきた。
大丈夫だ。いつか俺はバカだったなぁって振り返る日が来る。
........
と、いうか、こういう先生の対処方法ってアリか?
初めて見たぞ。こういうテクニック。
あえて生徒と同じ目線で望んでるだろうけど、こういうのアリか?
この講師は普段はちゃんと敬語も使える、小学生のこどもだっている、
結構まともな大人の女性だぞ。
まぁ、ここ数日、少年は毎日のように飛び出したりして色々問題のある
生徒だという事は聞いている。
代わる代わる先生が話してるのも知ってる。
でも、でも
14歳の少年にそんな言い方したら、少年が勘違いしちゃうだろ?
いや、最後の少年のニヤリを思い出して、思った。
奴は絶対勘違いしてる。間違いなく勘違いしてる。
「まいったなぁ、この先生、俺に惚れてるな」と。
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