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信じることだよ
米を炊いた。
我が家は炊飯器がないので、いつも鍋で米を炊く。
やや固めが好きだ。
炊きたてご飯を一膳食べた。
数週間前、憧れているあの人が、いつか誰かのものになってしまう妄想に囚われて落ち込んだ。
数日前は、私にとっての大切な人を不快にさせたかもしれないと思い悩んだ。
私はこのままでいいのか。
いつまで『何者にもなれない自分』のままでいるのか。
大雨ではないが、心の小雨が続いた。
秋なのかもしれない。
ご飯を食べ終えてぼんやりしていると、誰かの声がした。
『……酒は感情を増幅させるのだが』
…………誰だろう。
命のあるなしに関わらず、あらゆるものが自分に語りかけてくることがある。
なので誰の声か、たいてい即座にはわからない。
『酒は米の持つ力が凝縮されている。だから、飲んだ者の感情を増幅させる。悲しいときに飲めば悲しい気持ちが増幅し、嬉しい気持ちで飲めばさらに嬉しくなる。酒とはそういうものだ。……しかし、米は違う。米は純粋に力になる。米はエネルギーそのものだから』
声の主はひたすら米の話をしている。
きっと米の声だろう。
すでに目の前に米はなく、すべてお腹の中にあったけれど。
そのときふと、離れている大切な人と心がつながった気がした。
私が大切に思うように、相手も私を大切にしていることが、じんわりと理解できた。
それは気のせいかもしれないけれど。
そう考えていたら、再び米が喋った。
『信じることだよ』
『今誰かと繋がれたと感じたことも、今私の声が聞こえていることも。気のせいだと思ったらそうなる。でも、信じていればそれもまた真実となる。感じたことが嬉しいことなら、それをそのまま信じることだよ』
そういうもんか。
そうだなあ。
信じること。
それならそうしてみるよ。
そう返すと、米の声はそこで途切れて消えた。