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救いを求める者達

今年最後の現場は朗読でした。
何度か再演されているオリジナル作品とのことで、Twitterで過去公演の感想ツイートなどを検索して期待値が高まっていた状態で本公演を観劇しました。
いつものことですが一個人がだらだらと適当を垂れ流しています。
今回も上演台本が手元にありますので、それも眺めつつ記憶の糸を手繰り寄せていきたいと思います。


〜今回観劇した作品〜
オリジナル朗読劇「文豪、そして殺人鬼」
令和元年師走公演 12月8日昼・夜公演


<あらすじ>
昭和40年代。 各地で起こる心中事件が紡ぐ、三人の奇妙な友情の糸。
若き小説家:菅忠義(かんただよし)、あるハンディキャップを背負った一糸朱知(いっしあけとも)。隣同士に住む青年二人は、各地で起こる心中事件を追うフリー記者:尺光輝(しゃくこうき)と出会い、それぞれの罪と罰に対峙する事になる。
(公式より引用)

終演後キャストトークでも話されていましたが、芥川龍之介の「蜘蛛の糸」になぞらえたストーリーになっています。登場人物の名前を確認すると

一糸朱知:蜘蛛
菅忠義:カンダタ
尺光輝:釈迦

となります。
菅の家で大事に手入れされていた蓮・蓮池というのも、モロですよね。冒頭の、蓮池をバックにした尺の語りで既に意味深な雰囲気が漂ってました。


最初は朱知と菅の日常のやり取りから始まる。夜の蓮池のところで、少なくとも朱知が「蓮さん=菅」であることに気付いてたのは言うまでもないよな、と思いました。冗談めかして蓮さんに頼んでいるところも、菅のことを信頼しているからこその言葉なんだろうか…と最初は思ってました。

繁華街での尺との出会いから焼肉店までの流れ。これは他の方々の仰っているのを見て納得しましたが、菅と朱知の中に尺が入って来たことによる、菅の中での不和(超簡単に言うと嫉妬?みたいな)が際立つ場面だったように思います。尺と初めて会った後の帰り道で不機嫌そうに「ああ」しか言わなかったり、オカンとオトン設定に対してボツと言い放ったり。焼肉の後に色々連れ回してたのって、自分と朱知との時間を…げふんげふん。

物語も終盤に差し掛かる頃から、朱知の「菅さんに迷惑はかけたくないけど会いたい」気持ちと、菅の「罪を償うはずが結果的に朱知に縋っている」状態。この2人の関係性は『共依存』という言葉が一番近いと思います。
終盤の尺の「随分と二人とも人任せですね」という台詞が、尺が自分を殺してくれるだろうという意味と、2人の共依存的な関係の暗喩というダブルミーニングのような気がしました。


ところで、菅の独白にも出てきた彼の経歴が少し気になって一つ可能性として考えたのが、菅のモデルは芥川龍之介ではないだろうか、ということです。

①菅は東京大学卒で、(関西某所?が舞台)祖父母の家に住んでいるミステリー作家。一方の芥川氏は、東京帝国大学(現在の東京大学)卒で、大阪に移り住んでいたことがあるらしい。
②尺が菅の自殺幇助の際に、睡眠薬を使おうと持参していた(服薬が直接的な死因になっていたかは不明だが)。因みに芥川氏の死因は服毒自殺とのこと。

決めつけのポイントとしてはかなり弱い気はするのですが、正直言ってポッと出たミステリー作家さんを『文豪』と呼ぶのは誇張し過ぎなのでは…?と引っ掛かってしまいました。


また、序盤で述べたようにメインの3人は「蜘蛛の糸」になぞらえたキャラクターなのですが、朱知という“糸”を通して、菅と尺が色んな意味で繋がる…と考えさせられるような描写がありました。

・焼肉屋のシーンで朱知にお肉をふーふー冷まして食べさせてたところを「オカン(菅)とオトン(尺)みたい」と例えてみたところ。
・菅の家で口裏あわせをするシーンで、(舞台上で)朱知が真ん中に立っており、菅と尺がそれぞれ手を差し伸べて座らせるところ。

最初は朱知の手助けをするために菅が手を差し伸べる部分があり、朱知と菅のみの繋がりを示しているところと対照的だな、と思いました。


最後に、釈迦がモチーフでありながら劇中では“殺人鬼”だった尺ですが、彼がこの後自身の仕事の為に殺人を犯すということはないのではなかろうか、という希望を持ちたいです。

昼食後、朱知に留守番を頼んで部屋を出た後の尺の独白で、

「誰かが死ななきゃ仕事にならない。まあ、毎日どこかで誰かしら死んでるから、続くっちゃ続く……。でも、もう続かない気もする。よく、わからない」
「それでもこうして仕事に行く僕は、少しは偉いんでしょうか?」

と言っているのですが、朱知の純粋な言葉を浴びて、自分のしてきた事に心持ちの揺らぎが生じているのではないだろうか?と考えました。続けることに対して後ろめたさが少し出てきてはないかな?、と。

これに加えて、終盤のやり取りがあり、最終的に朱知に対して一緒に行かないか?となんだかんだ言葉を掛けている。結果それは叶わないのですが。

「そちらの世界とこちらの世界、一体どちらが極楽でしょうか?」
別の視点から考えると、1人残された尺は、釈迦でありながらカンダタだったのかもしれない…と今書いているところで気付きました。


これは考察という妄想ではなくただ言いたいだけなのですが、「『なぜ死んだのか』の答えは、『なぜ生きているのか』の答えと同じ」が個人的に思うところがあって、かなり刺さりました。








>追記(読まなくても良い)
エセ関西弁警察の関西人なので、やっぱりネイティブじゃない人の関西弁がどうしても引っかかってしまうのが否めなかった。いや、頑張ってくださってるなというのは伝わりました。(永野さんも大変だったと仰ってたし)
でも出来たらより正しいイントネーションで演じてくださる方だと嬉しいな…とちょっぴり思いました。
OPのキャスト紹介を兼ねた演出がめっちゃ格好良かったです。あとサントラあったら欲しいかも…などと。余韻に浸って鬱になれますね。