雨が降った
雨が降った時に地面から上がってくる匂いをペトリコール (Petrichor) というらしい。ギリシャ語で「石のエッセンス」を意味する。
今日は雨が降った。友達とドライブに出かけたのだが、雨の日の車中は良いという結論に至った。
最後まで人が忘れない物は、香りらしい。最初に声を忘れる。次に体温を忘れる。それから形を忘れ、横顔を忘れる。香りという形のないものを的確に表現する言葉がないから、人間はまず香りを意識的にも無意識的にも覚えるのかもしれない。
街を歩いているとたまに懐かしい香りに遭遇することがある。そんな時、ここからすぐにでも立ち去りたいという焦りにも似た感情にさせられる。もう断ち切った、忘れられたと思っていた記憶を香りは一瞬で呼び戻す。香りの呪縛のような、これはきっとまだまだ僕に付きまとうのだろう。昼間のトンネルや映画館の雰囲気に近いモヤモヤしたものだ。
雨が降った時の匂いは、植物中の鉄分と地表の微生物が混ざったものらしい。雨の匂いがどこか懐かしいような死を連想させるのは偶然ではないのだろう。
おやすみ。
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