TENGAの話
ずらりと並んだ化粧品のようなプラスチックのボトルがある。これが“究極の性のグッズ”として国内はもとより世界中で今話題のTENGAだ。このTENGA、どのくらい話題かといえば、発明者である?典雅の代表取締役の松本光一氏はフォーブス米版・アジア版など海外の雑誌にも登場、さらにテレビ番組でも引っ張りだこ、おかげでヤフーの検索ランキング7位となったため、朝の番組でTENGAが紹介された。また、あの福山雅治のラジオでも話題になり、ケンコバは「神の穴」とまで評したという。
従来の製品は切れ目を入れたスポンジにローションというごくシンプルなもので、それを改良しようと考えたアダルトグッズメーカーは皆無に等しかった。そこへ松本氏は徹底的かつ根本的な改良を加えたのだ。TENGAのベーシックな商品ラインナップは5種類あり、それぞれ機能が違う。人気商品の「ディープスロート・カップ」はコーラの瓶のように中央部分がくびれているが、これには理由がある。
「まっすぐな筒状だと使う人によってゆるいと言ったり、きついと言ったりするんですね。誰でも適度な締まりがあったなと思ってもらうにはどうするか?人間は差が必要なんです、比較なんですよ」
くびれた部分はそこだけ圧力が高い。「入ってぎゅっと締まって解放される」(松本氏)ことで、万人が満足する刺激が実現したのだ。さらにこの商品、底の部分に穴が開いている。穴を塞ぎ、引き抜こうとすれば、当然内部の圧力は下がる。ディープスロートの名前は伊達ではない。
5万個売れたら大ヒットのアダルトグッズ業界で、TENGAは発売以来3年で累計300万個、現在も月12~15万個が売れ続けている。業界の常識を根底から覆し、さらにまったく新しいマーケットも開拓した。また、こういったグッズを女性が購入することは今までは考えられなかったが、?典雅には女性から購入の問い合わせが何件も来る。彼氏の浮気防止、単身赴任の夫用、妊娠中のプレゼントと意外な市場が広がっているそうだ。さらに、より刺激の強いブラックバージョンなどラインナップは拡大中だ。
TENGAを作るまで、松本氏はアダルトグッズと縁もゆかりもない自動車整備だった。それがなぜ?「日本でこんなに耕されていない土地はない。僕はそこに入ろうと思ったんです」松本氏にとって約束の地はアダルトグッズだったのだ。
TENGAを作るまで、松本氏はアダルトグッズと縁もゆかりもない自動車整備だったという。それは「日本でこんなに耕されていない土地はない。僕はそこに入ろうと思ったんです」松本氏にとって約束の地はアダルトグッズだったのだ。前編はこちら
そもそも発明少年だった松本氏。「図面作って模型作って、たとえば私の母親は足が悪いんですが、足が悪い人は杖使うでしょ? 物拾う時、大変なんですよ。だから大変じゃない杖を考えたり」
発明協会にも入っていたそうだ。そんな松本氏、事情があって自動車整備工をやめ、中古車のセールスを始めた。これが性に合ってみるみる収入が増えた。喜ばしい話だと思うが、松本氏は欲求不満になっていた。
「お金があっても……物足りないというか。整備工の時はものづくり屋として、金はなくても満たされているところがあったわけ。欲求が出てくるんですよね。物を作って世の中の人に喜んでもらいたいな、という欲求が膨らんでくるわけですよ」
休日には何か作りたい、発明したいと雑貨店、ホームセンター、家電店を見て回った。「回ってわかったのは、日本の商品はすごく工夫してあるし、パンフレットとかカタログとかすごくちゃんとしているし、あまりに単純なものは商品として通らないこと。何か特徴がないといけない。勝ち抜くために、もしくはお客さんにとって便利なように工夫がされているわけですよ」
そんな時、アダルトビデオショップに入って(あれ?)と思った。「今まで見た店と違うわけ。10年前から同じ商品だよな、とか、プラスチックの成型品でも合わせ目が悪いよな、とか、デザイン性ないな、名前が悪いなとか。決定的なのはバーコードも販売会社名もホームページもない。ようは問合せ先がないんですよ」
さすがに見るところが違う。「プロダクトとしておかしいぞと。今どきバーコードなかったらコンビニに置いてもらえませんよ」コンビニがアダルトグッズを棚に置きたいかどうかは別にして、たしかに置けない。「その瞬間、思ったわけ。安心して手に取れる、一般プロダクトとしてのアダルトグッズをやろうと」
仕事をやめ、貯金1000万円で発明人生をスタートした。後がまったくない人生を賭けた勝負である。できるまでやる、と腹をくくった。そして……開発には3年かかった。「1年ぐらいやり続けると不安になりますよ。仕事をしていないでしょ? 収入がない状態で朝から晩まで自主製作をしているわけですよ、あてもなく。ここでやめると、1000万円使ってアダルトグッズを自主製作したダメなオヤジになるなと」
朝6時から夜2時まで、石膏で型を作るところから試作を繰り返した。「自分で作って自分で試して自分でボツにする、誰にも評価されない。今、こうやって形になってるから話にできるけど」
試作品は完成しても、それがすぐに商品化されたわけではない。現在、商品の販売はAVメーカーのソフトオンデマンドに委託しているが、この契約も難航した。何度も門前払いされた挙句、ようやく決まったという。量産するために工場で土下座、グッドデザイン賞での展示拒否など波乱の3年間。まるでドラマだ。
「楽しんでもらえればいいんです。コンセプトはね、バカで真面目で賢い、なんですよ」 タイ、台湾、シンガポールで発売、さらに欧米でも販売予定TENGA。オナカップそのものがなかった海外では、日本発の新カルチャーとして評価されているそうだ。日本の次は世界の男を直撃するTENGAである。