見出し画像

その恋もう一度···  その終

終章  終の棲家
 影の言った通り元の世界のようだ。向こうの世界での三十年間は楽しかったな。と想うことしかできなかった。
 目が覚めてとなりをふと見ると誰もいない。もう起きたのだろう。朝6時頃である。自分もモゾモゾと起き出す。と気がついたのだろう。声をかけられた。
「詠一さん、起きたの?」あれ、陽菜の声じゃないか。こちらの世界では陽菜と一緒になれなかったはずだが。
 ガラッと引き戸が空いて顔を出す。陽菜だ。五十七歳になっているはずの陽菜であった。素敵に年を重ねた綺麗な陽菜がこちらを見て笑っている。
「おはよう。ねぇこっち来てよ。いい所見れるよ。」と何かを誘う。あわててゴソゴソと起きる。隣の居間にいくと棚においてあるプラスチックの水槽を陽菜が眺めている。
 水槽には水はない。中には小枝と葉が入っている。キジョランという木の枝と葉である。そこに緑色の膨らみがぶら下がっている。アサギマダラの蛹だ。
 なぜかその記憶があった。元の世界にはそんなものは居間にはおいてなかった。でも今はその水槽が陽菜が買ったアサギマダラの飼育セットであることがわかった。
 元世界じゃないのか? それとも世界が変わったのか? 影の仕業だな。どちらでもいいや。とにかく陽菜と一緒にいれるようだ。
「カメラ持ってきて。羽化しそうだから写真撮って。」と陽菜が言うので、急いでカメラをセットする。
 二人で肩を並べてじっとアサギマダラの羽化を待つ。陽菜の顔を見る。照れるように陽菜が肩に頭を預ける。
 じっと顔を見る。陽菜が目をつぶったので、そっと唇を寄せた。長いこと。ずっとそうしていた。ふと気づいて目を見合わせるとアサギマダラの羽化が終わっていた。
「詠一さん、また撮り損ねたよ。残念。」とからかうように笑顔で陽菜が言う。


陽菜と詠一


 確かに、また、と言った。それは向こうの世界の記憶なのだろうか。陽菜がアマテラスの神格を譲ったのは自分と住む世界のほうを選択したからなのかもしれない。
 羽化したアサギマダラを笑顔で眺める陽菜。アマテラスにメタモルフォーゼするより、いつまでも「虫愛づる姫君」である方を選んだのかな。
 ここが終の棲家となりますように。

 お終い

後書き
 始めて自分の妄想を文にしました。好きな人ともっと早く出会えたら、という妄想から創ってみました。その状況をつくるためにパラレルワールドとタイムリープを設定したのです。
 
 しかし難しかったです。途中から私小説風に変えたり適当なこと有りました。
 この位の展開でもアイデアでなかったりと。でも後半は一気に書けたかな。
 一応名前も日本神話から連想してます。
天宮陽菜→アマテラス  津久田詠一→ツクヨミ  諏佐→スサノオ  斎姫→イツキシマノヒメ うまく神話には寄り添えませんでしたが、とりあえず書けたことで満足しましょう。
 読んで頂いてありがとうございます。

いいなと思ったら応援しよう!