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その恋もう一度·· その十二
第十二章 転生
週明け。諏佐くんは娘さんの入院なので会社は休みだ。彼はスマホでしか撮影してなかったので、親子で一緒の所、ゼフィルスの写真と何枚か送っておいた。すると斎姫が陽菜との写真が欲しいって言ってるというので陽菜と斎姫ちゃんのツーショットも撮ったの送った。それは喜ばれたらしい。
そんなこと思い出していたら十一時頃、スマホが鳴った。諏佐くんからだった。
「津久田さん。今入院手続き終わったのですが、担当の看護士さん陽菜さんでした。」と言う。
「え、N病院に入院するんだ。」そう陽菜は通勤しやすいように東京ではなく川崎のN病院に勤務していた。入院病棟担当で主に内科と小児科と言っていたので、偶然とはいえ少しおどろきだった。
「いろいろお世話になっちゃいます。」と恐縮した声をしていた。
夜になり家に帰ると陽菜が「斎姫ちゃん、うちの病院に入院だって。」というので「ようちゃんが担当看護士なんでしょ。」と答える。「諏佐くんから連絡あったよ。」
「あの子ね、白血病なのよね。」と言う。続けて「今は7割くらいは長期生存出来るけど、あの子儚い感じがすごくして心配ね。」
「あの子、ようちゃんのこと気に入ってたみたいだったね。」と言う。
「あの、何か分からないけど他人の感じがしないの。詠一さんのこと生まれる前から知っていたって思った時と、同じような感じがするわ。」と言う。元の世界線とは違ってきていると思った。何か起こりそうな気がする。
陽菜は入院病棟なので夜勤などもこなす。体力的には結構強くて、夜勤で徹夜明けでも割と普通にしている。
斎姫ちゃんが入院して1週間ほどが経過した。夕方に陽菜から電話があった。斎姫ちゃんの容体が急変したという。昨夜夜勤だったのに帰れなかったのは、それが理由のようだ。大きな病院なので別の看護士に頼んでもいいのだが、陽菜の気性ではそれが出来ないようだ。今夜もつきあうという電話だった。
寂しいけどそれも陽菜なので、仕方ないかなと寂しさを紛らわすようにPC開けて蝶の写真を眺めていた。陽菜と行った所を思い出していた。
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いつの間にかウトウトしてしまったようだ。掛かってきたスマホの音で目を醒ました。
番号も見ずに慌てて出てしまった。こちらが話す前に電話口が声を出す。
「天宮さんのご主人ですか。」はい、と言うと即座に「天宮陽菜さんが倒れたので、迎えにお願い出来ますか?」と。なぜとか何があったとか疑問はあったが聞いている時間も惜しい。了解して、すぐに車に乗りN病院に向かった。
時刻を見ると午前2時。道も比較的空いていた。四十分ほどで病院につき深夜なので警備員に訳言って入れてもらう。すぐ女性の看護士が来て案内してもらった。
陽菜はナースステーションの休憩用のベッドに横になっていた。
「ようちゃん。大丈夫?」そっと訊いた。「あ、詠一さん。ありがとう。大丈夫よ。」と言った陽菜の顔はなぜか生気を感じなかった。
過労だろうとは言われたので連れて帰ることにした。
「帰ろう。立てる?」だめなら抱きかかえるつもりであった。そうしたら、フラッしながら立ち上がる陽菜。
「斎姫ちゃん見てから帰るよ。」と言い僕に掴まってゆっくり歩いて斎姫ちゃんの病室に行った。そこには容体急変したので呼ばれたのだろう、諏佐くんがベッドの横に座っていた。僕らを見ると「奥さん、大丈夫ですか。すごく苦労掛けちゃったみたいで、すいません。」と言った。「仕事ですから。」と陽菜。
「斎姫ちゃんは容体は?」と訊くと、「奇跡的に良くなったんです。」と言うので、ふとベッドを見るとそこにスヤスヤ寝ている斎姫ちゃんは以前みたのとくらべ血色も良く生気に満ちているように見えた。えっ、急変したっていうのになぜ。顔の雰囲気も少し違って見えた。
陽菜も斎姫ちゃん見て安心したのか「帰ろうよ。」と少し甘えた感じで言った。こんな感じで言うのは珍しい。相当弱っているのかなと。
病室を出てから車までは抱きかかえるて行った。そのまま入院させたほうが良さそうではあったが、一緒にいなければならないと感じる。
帰りも四十分ほどで到着。陽菜をベッドに寝かす。自分も横に寝て陽菜の顔を見る。やつれた感じだが満足そうではあった。
その時、二人のベッドの空間が歪んで見えた。
こちらの世界に来た時のことが思い出された。
周りが真っ暗になったと思ったら上昇する感覚。同じだ。停止するとボッと光っている所に時空管理者の影がいる。自分の意識に直接話しかけてくる。
影「アマテラスは役目を果たした。あなたにも苦労してもらったが報われたということだ。」
詠「どういうことだ。何が起こったくらい説明してくれ。」
影「君と陽菜は元の世界では果たせなかったことをこちらでは果してくれた。」
影「アマテラスの神格と言った方がわかりやすいと想うが、その神格を育てるために君達の愛情が必要だった。元の世界ではそれが不十分だったので、こちらでやり直してもらった。」
影「こちらでは我々が考えるより早く神格が出来上がった。アマテラスはその神格を持って次の仕事があるはずだった。」
影「しかし、君の愛した陽菜という女性は、それを断り神格を別の者に引き継ぐことにした。」
詠「えっ。それが斎姫ちゃんってことか?」病院で見た斎姫ちゃんの生き生きとした顔を思い出した。そういえば陽菜の面影があった。
影「その通りだ。一応この時空は安定する。君の役目も陽菜の役目も終わった。元の世界に戻さなければならない。時空の安定のためにな。」
詠「陽菜はどうなるんだ?」
影「アマテラスの神格が無くなった状態になる。」
元の世界では陽菜は死ぬはずでは?
詠「陽菜は死ぬのか?」
影「君の知り得ぬ所だ。」
詠「そうか、戻るのか。」でも仕方ないか。陽菜との恋をもう一度やり直せ、こちら以上に愛せたのだから満足するべきか。
そう思った瞬間、再び真っ暗になったと思ったら、元の世界のベッドで寝ていた。目を開けて両手を見ると、間違いなく七十歳の自分の手であった。
長い夢だったな。一炊の夢か。
続く