農業法人事例A社、令和4年度中小企業診断士2次試験事例Ⅰ
令和4年度中小企業診断士2次試験事例Ⅰの深堀を行う。
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1.農業の外部環境
まずは、農業白書を引用。
事例Ⅰ企業にも関連する部分を抽出する
(1)機会
⓵農林水産物・食品の輸出額が1兆円を突破
・ 2021年の農林⽔産物・⾷品の輸出額は、前年に⽐べ25.6%増加の1兆2,382億円となり、 初めて1兆円を突破。
・品⽬別では、外⾷需要が回復し、またEC販売が好調だった⽜⾁・⽇本 酒や、贈答⽤・家庭⾷需要が増加したりんごの輸出が増加。
・国・地域別では、ホタテ⾙や⽇ 本酒・ウイスキー等のアルコール飲料の輸出が増加した中国向け等が増加。
・ 2021年度は、福島第⼀原発事故に伴う輸⼊規制措置がシンガポール、⽶国で撤廃、EU、 台湾等で緩和。動植物検疫協議では、ベトナムが⽇本産うんしゅうみかんの輸⼊を解禁等
・ ⽇本の⽣産額に占める輸出額の割合は他国と⽐較しても低い分、輸出増のポテンシャルは ⾼い。
・2025年に2兆円、2030年に5兆円の輸出額⽬標の達成に向けて、マーケットインの体制整備が不可⽋。
・輸出にチャレンジする産地・事業者の⽀援、オールジャパンでの輸出の取組や海外での⽀援体制が不⼗分であること等が課題。
②加工食品の国産原材料使用の動きの拡大
令和4(2022)年4⽉から加⼯⾷品の 原料原産地表⽰が義務化される中で、今後、加⼯⾷品における国産原料の使⽤の動きは拡大する傾向にある。
農業白書「加工食品の国産原材料使用の動きの拡大」に関するページは以下URL。
https://www.maff.go.jp/j/wpaper/w_maff/r3/r3_h/trend/part1/pdf/c0_1_06.pdf
事例A社同様に、食の安全志向の高まりと言えるだろう。
③スマート農業、DX化の波
ロボット、AI、IoT等先端技術を活用したスマート農業技術を実際の生産現場に導入し、効果として、農業経営の改善を目指す動きが増加傾向にある。
公益社団法人日本農業法人協会による農業法人白書を見ると勉強になる。
2.事例企業A社について深堀分析
事例企業の全体像を掴むことが大切。
すると、試験委員に寄り添うことができ、
試験委員の思い(回答)を理解することが可能になる。
この事例のテーマは、
■①新規事業による活動領域を拡大していると共に、②事業承継を検討し始める時期に差し掛かっている、農業法人A社への、組織・人事面での診断と助言
■①就農人材の獲得と定着、②経営資源の確保、③生産性向上と横断的な調整可能な組織、④後継者中心の組織体制の整備
(1)法人化前
強み
経営者を含めた農業経験豊富な従業員間の連携し、多くの品種を栽培するノウハウを持っていること
販売業者、地元菓子メーカー等社外の他業種との連携や共同開発を行うノウハウを保持していること
有機JASとJGAPの認証を受けていること
地元菓子メーカーと共同開発した特産品の認知度が高いこと
家族経営より、迅速果敢な経営が行われていること
経営理念「人にやさしく環境にやさしい農業」
弱み
明確な役割分担が無く、組織デザインが明確化されていないこと
繁閑に応じた人の調整できていない
従業員の定着率が悪い
人手不足による不安定な出荷量と品質
人事態勢が未整備であること
(2)法人化後
自社工場、倉庫を保有
自社工場にて、総菜商品、サンドイッチを製造し、既存の大手中食業者を含めた複数の業者に卸す様になる。(大手中食業者への売上依存の解消へ)
ドメインの再定義
BtoBのみならずBtoCへの新たな事業展開、
BtoB
食の安全志向の高まりを機会として捉え、自社製品の作り手や栽培方法が見える化を行い、人気を博す
BtoC
直営店は、常務の娘=後継者が担当。
常務の娘は、一貫して飲食サービス業や店舗マネジメントや商品開発の業務に従事。農業については、門外漢。
後継者は若手社員かの提案を上手に取り入れて、搾りたてのトマトジュース、苺ジャムなどの商品を開発し、販売にこぎつけている。
オープンカフェ形式の飲食サービスも提供。
消費者との接点ができたこと、自社商品に対する消費者の声が取得できる様になってきた。
顕著な問題・・・BtoC事業は着実に売上高を伸ばしてきたが、人手不足 生産が兼務する従業員だけでは対応できくなりつうある。
A社は、今後も
地域に根ざした農業を基盤に捉えつつ、新たな分野に挑戦したいと考えている。
事業承継、次世代を見据えた組織・人事体制の構築
「組織は戦略に従う。」
3.事例企業A社の課題・解決策
(1)新規就農者の獲得と定着
A社は、
中途採用者の帰属意識が低い
新規採用者が長く働いてくれない
「仕事は盗め!」という組織文化がその背景にある
更に
地域の農業関係者に新参者は溶け込むことが難しい状況にあった為である
交流を支援すること、溶けこむ関係構築を支援すること、
要は、受けれ体制、人材育成の仕組み作りが全くなかったと言える。
直営店を人材募集のチャネルとして活用する
商品認知度を人材募集にも活用する
そして農業の楽しさを伝える情報発信を行うことである。
現経営者主導で、人材を育成する教育体制を構築することが必要である。
<動機付け要因・衛生要因>
①獲得
・半農半X
ここ数年、都市住民の農山漁村や農業への関心の高まりがうかがわれる中で、別の仕事をしながら農業をする「半農半X」や短期・短時間の就業先として農業に携わる動き等の広がりが見られるようになっている。
・アルバイト、短期労働者、副業
短期で働きたい人とアルバイトを雇いたい農業者をマッチングする取組。
デイワークを利用してアルバイトをする者は、副業として利用する社会人が最も多く、次いで学生。アルバイトをする者の多くからは、「満足度が高い。」との声があり、また、アルバイトを雇用する農業者からも、「当初は1日単位で雇うことに不安があったが、始めてみたらとても真面目に一生懸命に作業してくれてとても助かった。」との声もある。
・農業との多様な関わり方を認める
雇う側、雇われる側の双方が、就農時間、雇用形態、居住地域等に柔軟に対応することで、多様な農業への関わり方が可能となっている。
農業の現場では労働力不足に直面していることから、今後、このような新たな動きが更に広がり、農業現場での短期的な労働力不足の解消に寄与するとともに、将来的な就農につながっていくことが期待される。
②定着
定着率が低い原因の最大はこの可能性が大である。
それは、採用のミスマッチ。
対策は、体験入社、インターンシップ、体験、アルバイト、副業、(前述)
採用時の面接官の評価目線のばらつきをなくすことも重要。
その為に、「自社がどのような人材を求めているのか」「理想とする社員像」を明確化、具現化しておくこと。
結果後、採用者が、入社後に勤務している様子もイメージしやすくなる。
・動機付け要因
提案制度
従業員の提案を上手く経営に取り入れていくこと
権限移譲
任せることで、モチベーションの向上を図る
農業経験者、大学で農業を経験した人材のモチベーション向上策
非経済的なインセンティブを用意する
新たな品種開発テーマを与える、自由裁量を与える
・衛生要因
■残業や休日勤務を減らすサポートをする
~仕事もプライベートも充実できる環境作りを
■柔軟な働き方をサポートする
~在宅勤務、フレックスタイム制、
効率的な業務が行われる仕組み作りも必要だろう
■社内のコミュニケーションを円滑にする
~人間関係に悩んで転職する人が多いのが現状
コミニケーションの場を作る
社員の大きなストレス要因になる
■給与を上げる仕組みを作る
「会社へ貢献したい」という社員のモチベーションを上げるためにも、仕事のパフォーマンスに見合った給与体系を整えなければならない。
昇格・昇給制度をつくり、それに伴って給与も上がる仕組みにすれば、社員の成長意欲向上も期待できるだろう。
■公正・客観的・妥当性のある人事評価制度
評価が正当でない場合、どれだけ給与が良く、福利厚生が整っていたとしても、転職する理由になる。定着率を上げる為に、評価軸を明確化し、昇進・昇給の基準をはっきりと示すこと。
正当に評価してもらえると分かれば、社員は自社のことを「働きがいのある会社だ」と認識し、目標達成のために努力するよる。
「なんとなく生活のために働いている」社員は、好条件の企業を見つけるとすぐに転職してしまうし、仕事へ真剣に向き合うことも望めない。
■キャリア形成をサポートする仕組み作り
一見、社員のキャリア形成をすると転職しやすくなってしまうと感じるかもしれないが、それは違う。ジョブ型雇用や成果主義が浸透した現代社会では、キャリアを形成できない会社は社員に離職されやすい。人間関係が良くても、自分のキャリアプランに合っていない会社は退職されるリスクが高まる。
JAグループサイトにおける新規就農に関する情報が掲載されており、とても参考になるので、ここにリンクを貼っておきます。
中小企業全般にいえる人材確保の上で見直すべきポイントについては、経済産業省のミラサポが参考になる。
人材確保には、「組織・業務」「求人像」「職場環境」の見直しが重要であると説いている。詳しく知りたい方向けにリンクを貼っておきます。
(2)大手中食業者とどの様な取引関係を築いていくべきか
(1)戦略的視点で考える
基本は、WINーWINの関係、相互互恵的な関係、対等な関係だろう。
中食業者と取引を通して、厳しい要求に応えて対応能力を蓄積することができた。
依存度をどうさげるか?
過度に依存するのは止めよう。
対個人向け事業を拡大していく為の経営資源を確保しよう。
直接取り入れた消費者の声を中食業者取引に活用し、両者事業のシナジー効果を発揮させることである
(2)組織的視点で考える
継続的な取引関係は学習関係といえる。
学習できる関係を構築することで、組織能力を獲得できる。
実際に、A社は、中食業者の厳しい要求に応えて対応能力を蓄積し、更には維持強化することができている。この中食業者との取引を通して獲得できた経営資源=スラックを活用し、新たな品種開発を行うことが望まれるのである。
(3)組織デザイン
役割分担が不明確な組織体制の改善
地域に根差した農業を基盤にしつつ、新たな分野に挑戦していく為の
後継者(常務の娘)を中心とした組織体制を構築していくストーリー。
機能別、事業部別は、組織形態の話
今回は、組織構造を問われていること。
役割を明確化し、分業化・専門化(→生産性向上)を図り、効率性を発揮し、
対応力を強化すべきで、これを行えるのは、機能別組織である。
経営資源を分散させてはいけないし、事業部間の重複など許される状況に、A社はないだろう。
その上で機能別組織のデメリット=弊害を補う為に、部門間移動、流動性を確保することが望まれるであろう。
新しい分野に挑戦していくこと。
既存事業の枠には囚われず、新しい分野に挑戦していきたい。
既存事業の効率化と新規事業の専任化
両利きの経営を前年度を振り返り、今一度整理する
(4)事業承継
権限移譲と人員配置
後継者に生産・加工を経験してもらう。
基盤とする農業を経験してもらう。知れるレベルになってもらう。
常務の娘が担当している直営店を任せることができる人材を確保する為に、現経営者と常務が後継者を指導育成する。
若手従業員を後継者の補佐する人材として登用・育成する
お客様の声、新しい分野に関する情報が、トップに集中し、組織全体で共有できる組織デザインが必要だろう。
後継者に中央集権化されつつ全体を俯瞰でき、新しい分野に挑戦できる組織体制を構築するべきである。フラットな組織を目指す。
(5)株式会社化(法人化)
現状では、株式会社か合同会社とどちらかを選ぶケースが多いようだ。
株式会社
出資者(株式保有者)と経営者を分離することが可能。
有限責任である。
合同会社
有限責任であることは共通点。
出資者(株式保有者)と経営者を分離することが不可能
つまり、出資するのならば経営に参画しなければならないのだ。
社員(≒従業員)が出資者兼経営者になれる。
(6)事業ドメイン
事業ドメインとは、企業の生存領域のことをいう。
事業ドメインを定義することで、企業の活動領域が、そしてアイデンティティが規定される。
4.私がA社に助言したいこと
以下は、今のA社に、私ならアドバイスしたいことになる。
・直営店、食品加工分野で生まれつつある新しい組織文化を全社的に広め、定着させましょう
直営店、食品加工分野では、常務の娘が主導し、若手社員の声、提案を受け入れる文化が芽生え始めているし、定着し始めている雰囲気も読み取れる。現経営者も常務も世代交代の必要性を感じているのであれば、この機運を妨げる様な行動をしない様に伝える。
そして、重要なのは、A社の強みの源泉でもある生産分野においても、若手社員の声を受け入れる様な、多様性が認められる、社員がやりがいを感じることができる、生産業務を通して達成感を感じることができる様な組織文化を構築していきたい。
それには、現経営者のサポートに下で、常務の娘が生産分野についての経営教育を受けること、その中で、常務の娘が生産分野で働く社員との活発なコミニケーションを図ることが必要である。
常務の娘中心に、生産分野の教育体制の整備を先導し、運営まで行うのも良いと思う。
・株式譲渡のついて計画的に行うこと
譲渡する株式数をどうするのか?
株価をいくらにするのか?
こうしたことを考えるには、それ相応の期間が必要であり、現経営者や常務が信頼できる税理士等それなりの専門家の力も借りなければいけない。
はやめはやめの譲渡計画の立案を行い、逆算しての行動をおこしていくことを助言する。
以上になるが、口述試験対策として、皆様のお役に立てれば嬉しい限り。
以下は、速報で作成した youtube動画になる。
5分もかからず終わってしまいますので、是非お役立てください。