【漫画原作】「スポットライトと核兵器」第1話
あらすじ
【主な登場人物】
レイ/山川玲 (ヤマカワ レイ)
Procyonのボーカル。
父親を知らず、貧しい環境で母親と祖母のもとで育つ。
母親は精神的に不安定で育児放棄気味であり、良い思い出のないまま死別。
16歳の頃に母の多額の借金が判明し、借金取りに追われて居住地を転々とする。
借金返済のためにSAM&E事務所の研修生になり、アイドル歌手となる。
燃えやすいタイプで気合いで全てを解決する男。情に厚い。
ウィル
Procyonのボーカル。
自称アメリカ人。24歳でProcyonでデビューを果たすが、実は200年前ほどから歳をとらず生きてきている形跡がある。
玲の母親マリコとアメリカで出会っており、歌手になる彼女の夢を応援していた。
人と深い関係を築くことを避けて生きてきたが、玲を手助けするためにProcyonに加入することになり、グループの仲間と絆を構築していく。
音楽やメンバー、ファンなど大切なものが増える中で、自分の使命を思い出し元の世界を戻ることを決意する。
面倒くさがりで生活能力はゼロ。ふざける事が好きでメンタルは人一倍強い。
Mic(ミック)/キム・ハジュン
Procyonのボーカル。玲の3歳年上。
韓国人で有名音楽プロデューサーを父に持つ。
韓国の事務所で練習生をしていたが、ウィルの後を追ってSAM&E事務所に所属する。父親の友であるウィルと幼い頃に出会い、以降憧れの人物となる。
研修生時代はウィルが玲を気にかける事が気に入らず、仲は悪かった。
冷静沈着で打算的なタイプ。仕事に絶対妥協しない厳しいタイプだが、心を開くと愛情深い。
ルーカス/寺田将司(テラダ マサシ)
Procyonのラッパー。Micと同い年。
大阪出身で単身上京し、SAM&E事務所に所属する。大家族の長男で経済的な余裕もなく、研修生時代は玲と貧乏生活を送る。
ダンスも得意で明るく、兄貴分的な存在。
NANAMI/名波ケン(ナミ ケン)
Procyonのラッパー。玲の1歳年上。
アメリカ国籍の日系人。作曲のスキルもあり、楽器も演奏できて多才な存在。
マイペースで動じる事が少なく、静かな存在。実は過度のアニメオタク。
ライ/佐藤 誠二郎(サトウ セイジロウ)
Procyonのラッパー。玲と同い年。
裕福な家庭で育ち、母親の応援の元、父親や兄の反対を押し切ってSAM&E事務所の研修生となる。研修生時代、玲は家庭環境の違いから羨ましく思い、ライの態度に反感を覚えて度々衝突する。
メンタル強め。ポジティブな性格でかまってほしい寂しがり屋なタイプ。
ショウ/中村 翔太(ナカムラ ショウタ)
Procyonのボーカル。玲の2歳下。
両親がダンサーで幼い頃から歌手を夢見る。歌もダンスもピカイチの実力者だが、ビビりで緊張しやすい性格のため中々それを表現できないでいた。
メンタル弱めで内向的。メンバーからは子犬のように可愛がられている。
第1話
人類が滅亡するまであとーー。
空にキノコ雲が広がるシーン。
徐々にコマが小さくなり、夏の場面に変わる。
田舎の小さなアパートの一室で、女子高生がオンライン配信を見ている。
スマートフォンの画面には、満員の東京ドームで7人組が歌い踊る様が映し出される。
「今日は本当にありがとうございました!」
リーダーらしき男の声に合わせて、メンバーたちはお辞儀し、ドームの歓声はより大きくなる。
歓声とペンライトの光を感慨深げに見つめていた玲は、メンバーのウィルがしゃがみ込む様子を見て思わず駆け寄る。
ウィルの元に駆け寄った6人は、彼を抱きしめた。
「本当にありがとう。どうか、今を大事に生きてください。」
震える声でウィルがそう告げると、不安げなどよめきが客席から湧き起こった。
「本当にありがとうございました!また会いましょう〜!」
不穏な空気を払拭するようにリーダーのMicが力強く声をあげ、BGMの音量は大きくなりライブは終了した。
まだ小さく震えるウィルの手を引きながら、玲は楽屋へ戻っていく。
「ねぇ、ウィル。俺らって幸せだったよね。」
ゆっくりと歩きながら、玲はウィルに尋ねる。
「デビュー当時は、そりゃ辛いこともたくさんあったけど。Procyon(プロキオン)の名前も俺たちメンバーも随分愛してもらえて。…7人であちこち行ってコンサートしてさ。楽しかったよね。」
そう言いながら、玲は涙が止まらなくなる。
「時々思うよ。これがずっと続くって信じてた頃に戻りたいなって。」
懐かしく甘辛い記憶が巻き戻る。
ー2年前ー
綺麗なスタジオの一室で、玲がインタビューを受けている。
アナウンサーの熱心な声が、スタジオに響く。
「Procyonが今月でデビュー5周年ということで、おめでとうございます!」
「ありがとうございます。本当に早いですよね。ファンの皆さんとスタッフの方々、そしてメンバーには本当に感謝でいっぱいです。」
「レイさんにとって、他の6人のメンバーはそれぞれどういう存在ですか?」
よくある質問だがなんと答えようか、と玲は頭を回転させながらカメラに視線を向ける。
「年下からいきますね。まずは、ショウ。気の合う弟ですね。
次に同い年のライ。ライバルでも親友でもある存在です。よく喧嘩もしました。」
ここでスタジオに1人の青年が静かに入ってくる。長髪を結い上げて、軽やかな足取りできたウィルはそのままそっと玲を見守る。
「NANAMIは、多才。いざという時に助けを求めることも多いかな。ルーカスは陽気な兄ちゃん。最近、影響されて僕までおしゃべりになってる気がするな。」
玲は、楽屋で騒ぐルーカスを思い浮かべて苦笑した。不思議なことに、そんな彼の横でNANAMIは平気で爆睡をしている。
「後は、Mic兄とウィルですね。Mic兄はリーダー。昔はかなり怖かったし、尖ってましたけど。今はかなり丸くなりましたね。ウィルは…」
考えながら、待機場所でこちらを見ているウィルと目が合い、玲は意地悪っぽく微笑んだ。
「ウィルは手のかかる赤ちゃん。一応、6歳年上ですが、最近は世話が大変で。」
「失礼な奴だな。立派な29歳に向かって。」
アナウンサーと笑っていると、ウィル本人からの横槍が入ったが華麗に無視を決め込む。
「では、話は遡りますがREIさんが事務所に入ったきっかけから、改めて教えていただけますか?有名な話ですが、バス停でスカウトされたとか。」
「そうですね…。バス停ではありましたね。」
カメラの奥でこちらを見守るウィルに、視線を向ける。
視線が合うと、ウィルは満足そうにニヤリと口の端を上げた。
(バス停はそうなんだけど、そんな華々しいものじゃないんだよな。)
当時を思い返して玲は苦笑いを浮かべる。
間違いなくあれば自分史上、最低最悪な日だった。
場面が変わる。
大雨の中、高架下のバス停。
ベンチに座る幼い玲の姿が浮かび上がる。
大きなスポーツバックを抱えて、高熱でゼーハー言いながらスマホを見る。
メールボックスには『誕生日おめでとう』と書かれた広告DMと並んで、消費者金融からの督促を促すメールが複数件入っていた。電話が何度か鳴るが、無視を決め込んでうずくまる。
(頭も体も痛いし。帰る家はないし、寒いし。もう死ぬのかな、俺。
16年の短い人生だったな。来世、人間はもういいや、鳥とか亀がいいな。)
寒さを誤魔化すように、ぼんやりと『Still world is beautiful』の歌を口ずさむ。
すると、隣のベンチに座っていた男が立ち上がった。
人がいたことに驚きながら、視線を向けると男と目が合った。
「僕はいくけど。」
「え。」
「君はどうする?くるかい?」
少しも他者を受け入れないような声色だったが、玲は縋るような想いで男の手を取ろうとした。その時ー
「ここにいたぞ!!!」
ガラの悪い男たちの声が高架下に響いた。見慣れた借金取りの姿に玲は青ざめる。
「ほんとによ。探したよ、山川玲。なぁ、ばあちゃんはどこにいるんだ?連絡取ってるんだろ。」
「し、知りません。」
取り囲まれ、玲は喉の奥から声を絞り出す。
「ふざけんじゃねぇぞ。お前らの1千万円、孫を売り飛ばしてでも返してもらわないとな。」
腕を掴まれ、拉致されそうになり、玲は必死に抵抗した。
それまで黙っていた男が、玲を借金取り達から引き離す。
「何するんだテメェ!」
「関係ないやつは引っ込んでな。それともお前が金返してくれるのか?」
「1千万だっけ?‥‥どこに振り込めばいい?」
奇妙な間ができる。
「俺の気が変わらないうちに。どこに振り込めばいいんだ?」
戸惑う借金取りたちが告げた口座に、男はスマホで金を振り込んだ。
「これで、借金返済だ。‥‥だったら、もう用はないよな。失せろ。」
最後の一言に人並みならぬ怒気を感じた借金取りたちは、その場を後にした。
その場に取り残された玲。状況が把握できないままぼんやりと男を見つめる。
「じゃあ、行こうか。」
何事もなかったかのように差し出された手を見つめながら、玲は意識を失った。