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【漫画原作】「スポットライトと核兵器」第2話
第2話
暗闇の中、玲は何者かに追われている。
遠くの方で祖母が叫ぶ声がする。
「玲!早く逃げな。ここから早く!」
その声に後ろ髪を引かれながらも、玲は懸命に走るが、追いつかれて押し倒されてしまう。
自分を押し倒した人物が闇から顔を出す。
それが母親だと分かり、玲は体を強張らせた。
無表情な母親の腕が振り上げられ、玲の顔に目掛けて振り下ろされる。
悪夢から飛び起きた玲は、荒い呼吸を続ける。
見知らぬ部屋のベットで寝かされていた。
ドアが開き、スーツの中年男性が入ってくる。
「起きたか。」
「あの、ここは‥?」
「うちの事務所だ。山川玲くん。」
「あれ・・・。俺?」
まだうまく動かない頭で記憶を辿っていると、別の人物が部屋に入ってきた。
その男を見て、玲は思い出す。
「あ、昨日の!」
「彼はうちの社員のウィルというものだ。私は近藤。」
「はぁ・・・。」
「早速だが。この契約書にサインしてくれ。」
差し出された契約書には、簡潔に以下が書かれている。
『SAM&E事務所は山川玲に1000万円貸付する。
返済に向けて、山川玲はSAM&E事務所に所属し、活動を行うものとする。もし事務所の所属が解除された場合、残金は別途返済するものとする。』
「つまり、君の借金一千円をうちが肩代わりする。君は返済のためにうちで働くというものだ。アイドルとしてデビューしてな。」
「アイドル‥‥?」
訳がわからない状態の玲に、近藤は名刺を渡す。
『タレント・エンターテイメント事務所 SAM&E事務所 取締役 近藤ひろ』
と書かれていた。
「SAM&Eは、私が新しく立ち上げた事務所でね。この度、ボーイズグループを作ってデビューさせようと準備している。今も候補生は数十人いるが、君もそこに入る。無事にデビューすれば引き続きうちで働くことができるし、人気が出れば一千万なんてすぐに返済できるぞ。」
「ちょっと待ってください。僕、アイドルなんて無理です。歌も踊りもしたことないし。」
「そうなのか?昔、歌の動画をYouTubeに上げていたのを見た。歌手を目指しているようなチャンネルだったが。」
ウィルが口を開く。恥ずかしい黒歴史を知られて、玲は顔を真っ赤にして叫んだ。
「なんで知って?!あれは素人の遊びみたいなもんで。」
口ごもる玲に、近藤は壁をダン!っと叩いた。
「だったら、この契約はなしだ。君は元の生活に戻る。借金の肩代わりもなしだ。」
部屋を出て行こうとする近藤。これまでの生活が急に思い出されて、玲は叫んだ。
「待ってください!」
近藤が後ろを振り返ると、玲が正座していた。
「やります!やらせてください!」
その姿に近藤は「ようやく自分の状況が分かったか」と満足そうに口の端を上げると、ゆっくりと近寄る。
「とはいえ、簡単なことじゃない。まずは死に物狂いでダンスと歌を磨いてもらう。」
「はい。」
「もちろん、だからと言ってデビューが決まっているわけではない。他の候補生と競って、負ければ出て行ってもらう。その場合は全て振り出しに戻るだ。いいな?」
「分かりました。」
「ではここにサインを」
玲はサインをし、近藤は契約書を受け取って出ていく。
「これでお前は今日からうちの研修生だ。頑張ってくれ。」
部屋に残されたウィルと玲。
何か言葉を発しそうになったウィルに玲は頭を下げる。
「昨日は助けていただいて、本当にありがとうございました!!」
「え?」
「さっきは失礼な態度をとってすみません。しかも、社長さんまで紹介してくれて。機会をくれてありがとうございます!僕、頑張りますんで!」
やる気に溢れる姿にウィルは苦笑いを浮かべる。
「いいのか?多分、これから大変だぞ。寮での共同生活をしながら、練習漬けの日々が待ってるけど。」
「・・・寮があるんですか!?もしかして僕もそこに住めます?」
「ああ、これから案内するよ。」
「やったー!!!これで脱、野宿生活!本当にありがとうございます!」
能天気に目を輝かせてお礼を言う玲に、ウィルはこの先のことを思い描いてから笑いをした。
(大丈夫か?本当にわかっているのか?)
それから数ヶ月後、ダンス練習場。
数十名の若者がダンスレッスンに励んでいた。
ダンス講師が研修生に声をかける。
「そこ、早い!ショウ!もう少し周りを見ろ!」
「はい!」
厳しい指摘の声が響く中、音楽が止まる。
「玲!」
「はい!」
「お前、抜けろ!横で練習しておけ!」
「・・・はい!」
玲は唇を噛んで集合練習から抜ける。
何事もなく練習が続けられる。玲は腕に爪を立てて悔しさを発散させると、練習場の隅でダンスの練習を始めた。
(く、クッッソ・・・・!クソクソクソ!!!!)
その姿を、ウィルは練習場のドア越しに見つめていた。