クロアチア映画『101日』から考える政治的中立とはどういうことか 星野源×安倍晋三に寄せて
星野源と安倍総理の例の動画はわざわざ載せないし、説明もしない。
『101日』というクロアチア映画がある。
日本でいうところのテラスハウスのようなリアリティ番組をやっていたところ、だんんだんと世界情勢が怪しくなっていき第三次世界大戦が始まってしまうという映画だ。このテラスハウスは180日間、外との接触を断って行わるのだが、世界大戦へ向かう現実を知らないで生活している人々のテラスハウスはやがて国民的人気番組になっていく。。。というかなり変わったストーリー。
クロアチアはこの映画がつくられた頃の10年前にドロ沼のユーゴ内戦を経験している。じょじょに戦争に傾いている状況、すっかり戦時中になっている状況を知らせる細かい描写が本当にリアルでうまい。自分達の世界がじょじょに戦争という非日常に侵食されていくという描写は実際にクロアチアの人々が体験したものだったのだろう。
この映画の中盤で主役である番組のプロデューサーが首相に呼ばれ戦時の特別番組で首相と対談するシーンがある。首相は彼にこう声をかける(会話の内容はうろ覚え)。
「この番組はクロアチアの国民を一つにしてしてくれた」
プロデューサーは困惑しながら、でもしっかりと答える。
「僕はそんなつもりでこの番組をつくってない」
この映画の主人公のプロデューサーは何ら信念を持ってつくっているわけではない。ただのテラスハウスなのだから当たり前だ。信念などあろうはずもない。バラエティをつくってるうちに国が戦争一色になり、視聴者や国が勝手にそこに意味を見出しただけなのだ。
おそらくクロアチアではこういうことが実際にあったのだろう。戦時中には国が何でもプロパガンダに利用しようとする。これは実際にその時を体験したからこそ描ける描写だ。
星野源に安倍晋三が動画をコラボした件で、私はこの『101日』の描写を思い出した。
政治的に中立ということは何も声を出さないことではない。寄ってくる政治に対してきっちりと拒否をしないと中立にはならないのだ。
悲しいかな、須賀官房長官によるとこのコラボ動画には35万いいねがついたそうだ。星野源はその立場なりにできる限りの抵抗を試みたようだが、それがどれくらい世間に届いただろうか。
もし星野源が立場のせいでしっかり政治に対してNOが言えないのならば、『地獄でなぜ悪い』の弾き語り動画を流し、再び人々にコラボを呼びかけるのがいいと思う。ぜひ「ムダだ、ここは地獄だ♪」あたりを強調してほしい。
星野源を応援する気があるテレビ局はぜひ『地獄でなぜ悪い』を地上波で放送してほしい。