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いじめの心理学 2

ミルグラムの服従実験 

 いじめを考える上でもう一つ大事な実験は、アッシュの弟子ともいえるミルグラムという心理学者によって行われた服従実験です。
 服従実験も本当の実験の形を被験者に伝えず行う実験です。被験者は教師役と生徒役に分かれます。教師役は別室の生徒役に簡単な問題を出します。生徒役が間違えた場合に電気ショックのスイッチを押すよう教師役は指示されます。電気シックは生徒が間違えれば間違えるほど強くなっていきます。
 実は、この実験の被験者も教師役の一人だけで、生徒役は被験者のフリをしている実験協力者、サクラです。電気ショックは実は全く与えられず、生徒役の話す言葉も全て演技です。生徒役が間違えた時に教師役がどこまで電気ショックを与えるかというのがこの実験の本当の姿なのです。
 結果は驚くべきものでした。危険であると説明を受けた強さを超えて最大の強さまで電気ショックを与えた被験者は半数を超えたのです。生徒役の苦痛の声が隣の部屋から聞こえているにも関わらずです。躊躇した被験者も実験者の「実験を続けてください」という声に従うことが多く見られました。
 様々な前提条件を変えて行われたこの実験からいくつかの重要なことが分かりました。一つは、多くの人は危険であると知りながらも、強制力のない指示に従って残虐な行為をしてしまうということです。責任は自分に指示を出した人があるのだからと、人は頼まれるままに残虐な行為をしてしまう傾向があるのです。
 もう一つはいじめの発見にも関わることです。人は一度判断を下すと、次の判断もその判断を無駄にしないように同じ判断をしてしまう傾向があるということです。


 学校でいじめが疑わることがあった時に(いや、それ以前のちょっとしたことがあった時に)、まぁこれくらいは大丈夫だろうと判断すると、次に前より少し大きなことが起きた時に、これも大丈夫だろうと判断してしまう傾向があるのです。この繰り返しで、深刻ないじめがいじめと認められず見過ごされてしまうことは充分に考えられます。
 

割れ窓理論

 もう一つ、いじめと関係する心理学の実験、いえ、実践を紹介します。
 割れ窓理論と言われる理論があります。これは落書きなどの軽微な犯罪が見過ごされたままにしてあると、窃盗などの重い犯罪が増えるというものです。実際に落書きや壊れた車などを放置したところ犯罪率が上がったという実験も行われています。割れた窓を放置していると犯罪が増えるという意味で、割れ窓理論と名づけられています。
 割れ窓理論を最も有名にしたのは九十年代のニューヨークの治安回復です。それまで危険な街として有名だったニューヨークですが、割れ窓理論を参考にし軽微な犯罪を見逃さない為にパトロールを強化したところ、ニューヨークの治安は回復し、気軽に観光できる街へと変化しました。この実践については対策の所でもう一度述べます。


 学校でのいじめも、この割れ窓理論に通じる部分があります。大津のいじめ事件では、クラスが学級崩壊状態であったことは関係していると考えられます。クラスが荒れていて無秩序の方が当然いじめは起きやすく、深刻になりやすくなります。

いじめの集団心理まとめ

 いじめはいじめる側の心の問題というだけでなく、環境や集団の影響が大きいことは心理学の様々な理論からも言われています。人は思っているほどに自分だけで自分の行動を決めていないのです。
 だからこそ私はいじめを行為そのものではなく、その行為が見過ごされてしまう集団の作用と定義すべきと考えるのです。
ここで改めていじめを起こしてしまう、隠してしまう集団の心理について振り返りましょう。
 アッシュの同調実験からは、人はおかしいと思っても周囲がおかしいと思わずやっていることに対しては、それはおかしいことでないかもしれないと周囲に合わせてしまう傾向があることが分かりました。
 ミルグラムの服従実験は、人はその責任が自分にないと判断すると残酷な決断を消極的に行うことが分かりました。また、じょじょに状況が変わるような時に、自分が一度出した判断を否定しないよう次の判断をしてしまう傾向もあることも分かりました。
 割れ窓理論の実験では、秩序がない混乱した場所では無秩序な行動を取りやすかったり、おかしいと思えなくなる傾向があることが分かりました。
 こういったことから、集団の中で加害行為が起こってもそれを問題と見えなくなってしまうことがあるのです。さらに周囲が問題としなかったことで、加害者側がエスカレートするこもありえます。
 いじめがクラスの中で見過ごされるだけでなく、担任など周囲の大人によっっても見過ごされてしまうのは、こういった集団の影響によるものが大きいと考えられます。

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