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ドラマ『ロキ』を楽しむために見るといいヨーロッパ映画2本

 最終第六話の展開から賛否両論出たドラマ『ロキ』。私はかなり高評価なのですが、それは『ロキ』を見て二本のMCUに関係ない映画を思い出したからです。
 ※ 以下この記事にはドラマ『ロキ』のネタバレがあります。

 一本目は『ファニーゲーム』。というか全てのミヒャエル・ハネケ作品です。『ファニーゲーム』は平和に暮らす家族が突然やってきた若者二人に理由なくひどい目に遭わされる映画ですが、この若者二人はこれが映画だと知っているメタキャラクターで観客に語りかけてきて、見てる人はこの不条理な事件の傍観者、共犯者の様な気持ちになりたまらなく不快な気持ちになります(見るのにはかなりの覚悟がいります!)。
 ハネケの映画は不思議な映画ばかりでどの映画も不条理を描き、見た後に不快な気持ちにさせられます。それは映画がよくできてないからではなく、ハネケは意図して見る人を不快にさせようと映画をつくり、視聴者は見事にハネケの思惑どおり不快にさせられます。映画には笑わせる、泣かせる、怖がらせる、びっくりさせるなどの感情と一緒に不快にさせるといったネガティブな感情を見る人に抱かせるという戦略もあるのです。

 『ロキ』は不思議なドラマで主人公のロキはヴィランであり人を騙し続けてきた存在でした。『ロキ』はそんなロキに焦点を当てたロキの心の成長を描くストーリーと思わせつつ、第一話から「いや、本当にそういうストーリーなのか、ロキやドラマに騙されてるのでは?」と疑心暗鬼にかられる仕掛けもいくつも散りばめられています。
 この疑念は最終第六話で現実のものとなります。ロキはTVAの創設者に辿り着きますが、そこで長々とマルチバース(多次元宇宙)の説明を聞かされ、自分の仕事を引き継ぐか自分を殺して宇宙に混沌をもたらすかの選択を迫られます。この選択は今後のMCUに重要な影響をもたらすMCU全体の肝ともいえるものです。「ロキ」はロキの物語と見せかけたMCUの重要なターニングポイントを描く物語だったのです。ヒーローの物語なのに最終話に戦うべき敵はおらず、予想もしなかったシーズン2へと続いていきます。
 私がこの時思い出したのは『ファニーゲーム』でした。『ファニーゲーム』が不快な思いにさせられることを楽しむ映画だったように『ロキ』は騙されることを楽しむ作品だった。そう思うと『ロキ』はまさにロキのドラマではないかと思うのです。


 『ロキ』を見て思い出したもう一本の映画はラース・フォン・トリアーの『アンチクライシスト』です。この映画は子どもを亡くした夫婦がその悲しみと向き合う話なのですが、バイオレンス&性的でこちらも見るのにかなり覚悟がいる映画です。

 『アンチクライシスト』は傲慢に自分の力を過信したカウンセラーの夫と自然に赴くまま欲望に身を委ねる妻との対決を描く映画です。
 『ロキ』第六話で在り続ける者の選択を前にロキとその女性の変異体シルヴィは対決します。シルヴィは感情の赴くままに在り続ける者を殺害しようとし、ロキは冷静に秩序を引き継ごうとそれを阻止しようとします。この構図はまさに『アンチクライシスト』の夫婦の対決と似ています。
 在り続ける者は自身の後継者としてロキを選んだわけではありません。ロキとシルヴィに自分の後継となるか自分を殺して混沌の世界にするかの選択をさせる為にロキとシルヴィを選んだのです。

 以上『ロキ』をより楽しむ為のヨーロッパ映画二本。どちらも見るには精神力がいる映画なのでご注意を。
  
 

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