キッチン 5冊目
吉本ばなな
「まあね、でも人生は本当にいっぺん絶望しないと、そこで本当に捨てらんないのは自分のどこなのかをわかんないと、本当に楽しいことがなにかわかんないうちに大きくなってっちゃうと思うの。」
「案ずるより産むがやすし」
私が彼女より勝っているとか、負けているとか、誰に言えよう。誰のポジションがいちばん良かったかなんて、トータルできないかぎりは誰にもわからない。しかもその基準はこの世にないし、ことにこんな冷たい世の中では、私にはわからない。全然、見当もつかない。
世界は別に私のためにあるわけじゃない。だから、いやなことがめぐってくる率は決して、変わんない。自分では決められない。だから他のことはきっぱりと、むちゃくちゃ明るくしたほうがいい。
今の涙の美しさはちょっと忘れがたい。人の心には宝石があると思わせる。
人々はみな髪を光にすかして幸福そうにすれ違ってゆく。すべては息づいて、柔らかな陽ざしに守られながら輝きを増してゆく。生命にあふれ出すきれいな光景の中で、私の心は冬枯れの街や、夜明けの川原を恋しく思う。このまま、こわれてしまいたいと思う。
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