自分の素質を確かめなければ
昨今、写真を撮る為だけの行動が多い。
それじゃあ、全部写真に収めて終わりではないか。
実際それ以降が大切なのに。
だからこそ、撮影禁止の場所に行ってみたいと私は思う。
カウンター・カルチャー。
そして、写真に残せないからこそ、それを五感に焼き付けて、自分の考えを巡らそうと思う。
初、裁判傍聴。
それは霞ヶ関にある。
入り口には警備員がいて、飛行機の手荷物検査みたいな金属探知機を通らないと中には入れない。
まず、皆が流れる方へ流れてみる。
すると、あるモニターの前に皆集まっている。
覗き込むと、そこには今日の裁判の日程が映し出されていた。
なんとなく色々触ってみる。
目星いものは見つからない。
なんせ私は殺人事件の裁判が見たくて来たのである。
私は殺人事件を起こすような人間の気持ちがあまり理解できない。
憤慨し、理性の糸が切れそうになることは多々あるが、行動までにはなかなか移せない。
だからこそ知りたい、殺人の動機を。
殺人事件を起こすのは意外と普通の人と言われているが本当なのか、この目で確かめたい。
本当に普通の人間なら、自分にもその素質があるか見極めたい。
だから、私はここに来たのである。
しかし、どこにも見当たらない。
人気となるであろう裁判は、HPで事前に抽選券が配られることが知らされる。
殺人事件は人気の部類に属すであろうから、そこに載ってない時点でないことは分かっていたが、一縷の望みをかけて来たがやはり、なかった。
仕方がないので、適当に見繕って離婚裁判を選んでみた。
部屋番号も書かれていたのでメモした。
移動しようとしたが、なんせエレベーターも部屋もかなりの数である。
てんでわからん。
案内板を確認するが、わからないのでなんとなくその階まで上がる。
なんとなくその階を歩いていると、部屋の中に部屋があることに気付いた。
透明の扉の奥がいくつかの部屋に別れ、扉が2、3個。
そして、皆一様にその透明の扉を抜けて、壁を見ていたので、真似してみた。
そこには、その部屋で行われる裁判の内容が書かれていた。
それを確認しながら回っていると、離婚裁判の部屋を見つけた。
誰もおらず、扉も開いていないので、入っていいのかもわからず、うろうろする。
どうすればいいのだ。
誰か手本を見せてくれ。
これでは裁判が始まってしまう。
わからない。
わからなくなったら、もう手に負えないので、とりあえず、違う部屋に行ってみることにした。
人だかりができていた。
その部屋では、選挙で不当に落とされたから、当選させろ!と迫る裁判を行う直前であった。
原告の女の人が息巻いて、「頑張りましょうね!」なんて言っていて、おそらくその女性を支持していた人が周りに集まって、一様に「頑張ってくださいね」と声をかけている。
なんかこう、胸のあたりがムズムズする。
私はたぶん、悪いことを考えていた。
他人を失望させるような、悪いこと。
その部屋は支持している人たちでいっぱいで入れそうになかった。
だから、向かいの部屋の紙を見た。
そこには、
『覚醒剤取締法違反、関税法違反(審理)刑事』
と書かれていた。
まあ、悪くない。
初心者は、本当は第一審を見るのがいい。
第一審では、被告の生い立ちから全て洗いざらい述べるところがあり、面白いらしい。
第一審ではないけれど、とりあえず、入ってみないと始まらないので、他の人に続けて入ってみる。
13:35
起立→礼
(通訳あり、裁判員裁判)
久しぶりに起立→礼したなぁ。
学校みたいだ。
裁判員裁判で一般の人がたくさんいた。
皆真面目そうな顔をしていた。
13:40
午後の法廷
検察側からの証人尋問。
途中から出たり、入ったりする人がいて、ずっと見ている必要はないみたいだ。
内容は割愛させていただく。
13:50
弁護人側からの証人尋問。
最初の方は頑張ってメモを取っていたが、静かで厳かすぎて、途中寝ていた。
起きても何度も寝落ちした。
睡眠には最高のコンテンツである。
今度から寝る前見ようかな。
眠すぎたので、途中退出。
他に面白いものがないから、館内をうろうろする。
また人だかりができていた。
入ってみると、そこには
『建造物侵入、強盗致死、窃盗』
の判決裁判であった。
15:00
起立→礼
15:05
判決 4年6ヶ月
日雇いであること、初犯であることを考慮した結果である。
裁判官は優しい声と優しい顔つきで
「親御さんも心配したことでしょう。しっかりと務めて、外に出たら親孝行をしてあげてくださいね。」
と言った。
被告は、
「はい!!!!!」
と、この裁判所内で最も大きい声で返事をした。
15:10
起立→礼
驚いた。
あんなに裁判官が優しいのも、
被告の声の張り方も。
これからのことを思って憂鬱になりそうなものだが、凄くはきはきとしていた。
これが人生か。
どんな状況でも、そこにおかれた時にどう思うかは本当にその人間次第なのだろう。
その心持ち次第なのであろう。
今回お目当ての殺人事件の裁判が見られなかった。
本当はそんなのないほうが、日本は平和で何よりなのだが、もし行われるのであれば、時間をみつけて行ってみたい。
この目で確かめなければ。