【エッセイ】コンプレックスはありますか?
同い年の友人と久々に呑んだ。彼は建築家で、僕の大好きな大親友のひとり。
彼は大阪に住んでいるから、僕が「ねぇ、いま大阪にいて、今日、京橋あたりで呑まない?」などとよく誘うのに、それが平日の夕方に差し掛かるぐらいの時間帯なもんだから、堅気な彼からは「こんな時間から?そりゃあ呑みたいよ(笑)」とあしらわれてばかり。まるで僕がワン・ウェイ・ラブな女のよう。
こうして自分が元・堅気であったことを時にすっかり忘れ、人はみな自由であるかのように接してしまうことを、僕は一応、たまには反省する。
彼との話は楽しい。何をしゃべったか翌日には大概忘れているが、いい。
「仕事を辞めたいけど、どうしていいかわからない」と言い出す彼。その感じは前々から知っていた。
僕は軽く熱燗をクイッと飲み干すように「辞めちゃえ辞めちゃえ」と言う。彼は、そだよね、と苦笑いしながら同じペースでクイッと熱燗を追いかけてきてくれる。
「ねぇねぇ、ユウコ(私)はコンプレックスとかないの?僕はコンプレックスだらけで……」
そんなこと久々に考えさせられた。
「そりゃ、ないことはないけど。例えば……」
……アンリャマ。出てこない。
でも、よくよく考えたらアンマリナイ。もはやナイ、というのが正しいのか。
昔はあった。
学歴だって、僕は中途半端なバンカラ地方大学出(奇しくも彼もそんなところ)なので、東京本社の大きな会社のいち社員になってみたら、まわりは早慶やマーチやらがゴロゴロ。僕はそんな大学にちゃんと落ちていたし、そりゃあ恥ずかしかった。
でもそんな彼らの一部が、なぜか僕のことを褒めてくれる時があった。「すごい」とか「センスある」とか。「そうかな?」と調子に乗る魔法をかけてくれる。
その時点で地方出の僕のほうがエリート達の何か口車に乗せられて馬鹿なのかもしれないけど、今でも彼ら彼女らは僕のことを好きでいてくれるようなので、ウソではなかったのかなと。
かと思えば「俺は上智出身でこの会社では学閥が弱い」トカナントカ言って、理由つけてる奴もいた。あっそぅ、と聞いてるフリをして解決策なんてないし、しーらないと思って正解だった。今彼がどこで何をしているかなんて毛頭知らない。
ある日、テレビか雑誌かなんかで、とある東大卒の女性が出ていた。彼女はパン屋か陶芸家か娼婦か、なんかそんな"職人気質"な仕事をしていた。
アホウそうなインタビューワーに「なぜ東大まで出たのに、今の職業を選んだんですか?」と聞かれていた。
彼女はこう答えていた。
「私が東大を目指したのは、生きてく上での選択肢が増えると思ったからです。日本では、東大を出ていればエリート官僚にもなれるしパン屋にもなれる。でも中卒なら、パン屋にはなれても、エリート官僚にはほぼ百パーセントなれないですよね。私はその『選択肢』が欲しかった。だから努力した。そして自分には●●が向いている、やってみたい、と思ったから、今その仕事を一生懸命やっている」と。
これこそ大正解だと思う。
逆に「○○まで行ったのに……」と言われ、周りから人生の幅を狭められる(決められる)事のほうがよっぽどかわいそうだと思う。
「T大まで行ったのに……」「KO大まで行ったのに……」
「H報堂まで行ったのに……」
ナニソレ。モウヤメテ。あぁ、行ったよ。でも、だからといってナニをしなきゃいけないと周りに勝手に決められる人生なんて、それこそハラスメント。
あぁ、中途半端な大学出といてよかった。
だってなんでもできるんだもん。高学歴さんらに比べたら、周りもそんなに過度な期待もしてくれないし。
今はそんな風に思ってます。
で、なんの話してたんだっけ?
とりあえず熱燗。もいっこ頼む?