Happy Birthday to me!~福が零れている~

大学時代。誕生日なのに自動車教習所なんてと思ったけど、バイトはとりあえず休みにしてしまったし、昼間は特に用事もなかったし、家にいてもあれなのでとりあえず出掛けてみた。


大きな待合室で次の講習を待っている時、隣に座っていたおばあちゃんにニコニコと声をかけられた。

「若いねぇ、大学生?」

僕は素直に「はい。〇〇大に通ってます」と答えた。とりとめのない会話の始まり。

おばあちゃんは初対面なのに、自分の孫を見るような表情で「あらそう、私は更新の講習を受けに来たのよ。年寄りになると高齢者講習ってのがあってね。ほら、耳とか目とか、悪くなるからね」と教えてくれた。まだ仮免状態だった僕は、そうやって目や耳が弱ってきているとはいえ『本物の免許証』を持っている時点でだいぶ尊敬した。この人もあんな試験やこんな試験、受かったんだと。


「いくつ?」

よくある質問が続く。


が、ふと回答に困った。

(今日が誕生日ってことは僕は19歳なのか?それとも20歳なのか?どっちでもよかったけど、嘘をつくのもなんか違うと思うし、そのまま答えた。)

「実は今日が誕生日で。今日で?今日から?ハタチになります」


するとおばあちゃんはハッキリした声で「そうなの!?おめでとう!」と言ってくれた。

「そんな特別な日にお会いできるなんて・・・」

「いえいえ。ありがとうございます」


御礼を言ったものの、僕は何もしていない。ただ生きているだけ。今日だって普段と変わらず教習所に講習を受けに来ているだけ。

聞かれたから答えただけで、別に次の授業でも、知らない人達ばかりだし、突然教室でケーキが出てきてサプライズが始まるわけでもないし、そのつもりで来ていた。(むしろ他人に突然クラッカーとかされてもこわい)


(なんか、こんなこと言ってよかったのかな・・・?ずうずうしかったかな?)と一瞬、無意味な心配をしてしまった。
たしかに20年も生きてきたけど、「誕生日」という経験だけでいうとまだ”20回目”か。大学で実家を出ていろんな人に会うようになったけど、知らない人から誕生日のお祝い言われるなんて初めてかも・・・


するとおばあちゃんは膝元にある自分の鞄をガサゴソとあさりだした。

「なんにもあげるものはないんだけど・・・」

「いえいえいえ!そんなつもりでは!!」


手を広げ、断るジェスチャーをするが、おばあちゃんは手元の動きを止めずに、いいのいいの、と。

隣に座って会話が続いている二人。今来た人は、本当の孫とおばあちゃんがなんかしゃべってるなくらいに思っていたのかもしれない。


「こんなものしかないわ(笑)」と少し恥ずかしそうに、飴玉を差し出した。

まあ確かに断るほど”高級”なものでもなかったし、僕は「ありがとうございます」と丁寧に受け取った。


「お話してくれてありがとう」


僕も御礼を言い、二人はそれぞれの講習へと向かった。


***

あれからいろんな人をお祝いする経験を重ね、今となってやっとおばあちゃんの気持ちがわかるようになってきた。誕生日の人と話すだけで、なんであんなラッキーな気持ちになるんだろう?

勿論、家族・友人などの誕生日は準備してお祝いするけど、見知らぬ人でもたまたま「今日が誕生日です」なんか言われたら、なんか『福男』に触れたみたいな、『残り福(というか”零れ福”ぐらい?)』あたり、手のひらに少しだけ受け取れたみたいな気持ちになれるから不思議。


あれから僕は味をしめてしまい、やりとりの中でおかしくなければ、自分から言うことにした。「今日、実は誕生日なんです!」・・・その日だけ通じる魔法の言葉。実は今年もそれで、既に小さな”ラッキー玉”がもらえた!(てへっ笑)


やっぱり一年で一番好きな日。

みんなが無条件にチヤホヤする日・される日。


今日も誰かの誕生日。

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吉本悠佑のイツスモ~it'sasmallworld~
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