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【キッチンカー物語⑤】僕という人間
僕には特別な能力もないし、才能もない。
だけど、不思議と、僕が「ああ、この店潰れそうだな」と思ったお店がいつのまにかなくなっていたり、「ああ、この物件やだな」と思って選ばなかった賃貸アパートの前を数年後に通ったらコインパーキングになっていたりする。
それを人は「呪い」と言うのかもしれないし「スピリチュアル」と言うのかもしれないし、はたまたものすごい「マーケティングリサーチ力」でその場を瞬時に判断できると言うのかもしれない。
でも結局は「感受性」なんだと思う。
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先日、久々に東京に行った。
滞在したのは世田谷区内にある知人宅マンションで、初めて降り立ったその町は、急行列車も止まるような駅なのに、ホテルもなく、本当に地元に根付いた暮らしやすそうな町で一瞬ですごく気に入った。
車で都内を走り回るという仕事のスケジュールの合間に、東京の友人らと目黒で飲もうという話になり、夕方ごろ久々に一人で電車に乗った。
ほんの30分くらいで着く乗り換えが、ものすごく遠く感じた。周りには数えきれないほどの知らない人。
「もし僕がここで倒れたら誰が助けてくれるんだろう…」
そう思うと、あの悪魔がまたこちらを覗いている気がした。心拍数をイヤホンで抑え、なんとか友人に会えたときはほっとした。
やっと知ってる人が目の前にいる。
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僕が仕事を辞め、ドイツ・ベルリンに単身行って得た最も大きなお土産は、「感受性のレベルを高められたこと」だと思っている。
それまでの僕は、広告代理店という立派な会社で孤独と戦っていた。あるときとてつもなく苦しくなり、会社を飛び出し、泣く場所を探したのに、都会のど真ん中には隠れて泣く場所が全然見つからなかった。やっと見つけたビルの谷間でやっと泣けた。それでも人々は行き交い、ちらちらと僕を見かけながらも、誰も助けてくれなかった。社内に帰っても誰も助けてくれなかった。数日後、やっと見つけ、助けて出してくれたのは、友人知人家族だった。
そこから僕は感受性のレベルを下げた。何を言われても感じない自分に努めた。怒られても、はたまた褒められても、全部うそっぽく聞こえたし、そう聞くように自分のスイッチを切り替えた。
そこから解放してくれたのがベルリンだった。アーティストの町。感受性の渦のド真ん中。
ホームレスが綱なしで飼っている大型犬(ドイツでは基本犬に綱をしない)。僕は一瞬でその犬がご機嫌かどうかを察さないといけない。
でも大概はゴキゲンな犬だし、僕が犬に少し触れても飼い主も「おぅ」とゴキゲンなだけだ。放し飼いの犬は危ないなんて誰が言い出したんだろう。
「クラブは危ない」とも聞いていたが、行ってみたらどこもたいがい平和だった。変なやつもいるけど、そんなの赤坂にも栄にも梅田にもいた。そんなことを言ってた奴のほうが世界を知らない危ない奴かもしれない。
こうして僕の感受性は徐々に取り戻され、気が付いたらノーマル日本人より高くなったままなのかもしれない。今も。
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キッチンカーでの帰り道。たまにひとり車内で泣く。
あの人と出逢えたのも、新しい価値を持って行けたのも、僕がやりましょうと決めてからすべてが始まった。
それは決して悲しい涙じゃない。ウェルチみたいなおいしい葡萄ジュースが一気に注ぎ込まれ、それを受け止めきれなかった僕の小さなコップから、溢れ落ちてしまった汁。果汁100パーセント。
FMからは「世界はそれを愛と呼ぶんだぜ」が流れてくる。リスナーよ。ラジオよ。ありがとう。
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まだ今年を総括するには早いかもしれないけど、今の気持ちは二度と来ないだろうから残しておきたい。
今年起きているひとつひとつの出来事を処理するには時間がかかっていて、ゆっかりしかできなくてみんなには申し訳ない。
でも、時に僕の想像力が暴走し、パニックに陥るのも怖いし、自分のペースでしかできない自分に憤慨するときもあるけど、それが自分なんだからしょうがないとも諭す。
感受性が強いのも時にものすごく辛くて、戦争や津波の映像は一気に押し寄せてきてこわいし、注射もよく考えたらヘンだし、地上50階に人がいるなんてよく考えたらおかしい。それは人それぞれだけど、僕にとってはこわい。それでも飛行機には乗るから僕ももちろんヘンなんだけど。
それでもふと今日の空を眺めてみたり、水面に浮かぶキラキラした泡沫を見つめていたり、ここの人達みんな素敵だな、なんでこんな人たちがここには集まるんだろうと観察したりするのはすきだし、そういうとき、感受性のレベルを一気に上げて物事を見るのはたのしい。芸術も。料理も。天気も。人々も。
そんな風に、なんとか生きております。
≪ご報告≫
産経新聞に取材を受けました。
うまくまとめていただき、光栄です。
https://www.sankei.com/article/20221025-4FUMCBMMXZLNTHJSMZGLHIT6DY/
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